#92 ウェンディのお料理教室!〜男子の雑談内容は〜
「さあて……雌が料理作るまで俺らは自由に喋ってていいってことだけど……何から話す?」
朝礼場のど真ん中に、円陣を組むかのように丸くなって座り込み、話を始める俺達男性陣。向こうから聞こえるカチャカチャ、という何か機具が擦れる音を聞き、どうしてもシズクが何をしているかに意識が行ってしまう俺は、今必死に思考を目の前に向けている。
考えてみれば、こんな機会が無ければギルドメンバー達と話すことも無かったかもしれないな。見かけはするが話したことのないポケモンが大半だった。ギルドに入門してから大分時間は経っているものの、毎日依頼を繰り返しこなしていく日々であったので、いつもそんな流れで、他の皆とはあまり話していない。
勿論、毎朝起こしに来るノンドや、見張り番であるリナー、それにギルドに入ってから一番最初によく喋る仲になったフライは親しくなってはいるが、ギルド内に店を開くグレッグルのググヌやリナーの父であるベコニンは普段会うことは全く無く、喋ったこともほぼ無い。一日の中で会うと言えば、大体夕食の時ぐらいだ。
「えっと……じゃあ、どうしようか?」
「なんかあんま話したことない奴等もいるだろうし……特にケンジとかはな。だから一応自己紹介でもするか?」
「自己紹介は最初の時にやったよ」
「あ、そうか。確かに。じゃあ、そうだな……まずは一匹一匹年齢とか言うんでよくないか?」
「ん、いいな」
因みに、今現在ググヌは同じ階にある自分の店に籠り、怪しげな壺を弄っているので此方の会話にはほぼ参加していない。ラペットはそんなこと百も承知だった様で、特に何も言わなかった。確かに、若者の中におじさ……ちょっと歳を取っている大人の方が入っているのも気まずいものだろう。それで言うなら、ベコニンはどうなのだろうか。
「年齢な。まあ皆、大体近いんじゃないか?」
ノンドの言うとおりだった。ほぼ皆が歳が近い。ノンドは35歳、ヘイライは30歳、ベントゥは20歳、ベコニンは49歳、リナーは12歳、そしてフライは17歳だという。ググヌは分からないけれど、恐らく中年であろう。ベコニンと歳は近いんではないだろうか。あのポケモンは、いまいち謎が多い。
「ふうん、ケンジは14なのな……リナーもだけど、まだその年齢じゃ子供だろ?よく探検隊に入ろうなんて思えたな」
「あ、僕はお父さんに付いてきただけですし、対した覚悟とかも無いですよ。お母さんも早くに他界してしまいましたし……家の金銭事情が危うかったから、僕も働かないといけないって思ったので」
やっぱりリナーはしっかりしているなあ。俺が心で呟いたことを、他の男性陣も話していた。リナーは仕事もちゃんとやるし、世の渡り方を知っていそうだ。それと比べて父親は……皆が一斉に怪訝な目で見つめてきたことに、ベコニンは気付いていないようだった。
「で、ケンジは?ケンジぐらいの歳だと、これから普通に暮らしても楽しい時期だとおもうけどな」
「ん……俺は、その……生まれつき親とかいなくってさ。一人で暮らしてくのも大変だからギルドに入ろうと思ったって感じだけど……本当は、今自分が気になっていること……この世界に蔓延る謎を解きたいっていうこともあって。
でも、中々此処に入る踏ん切りが付かなくて、何ヵ月か見張り穴の上でドタキャン繰り返してたんだよね」
「嗚呼……今思えば、ほぼ毎日見張り穴の上に現れては消えてたあのリオルはケンジさんでしたね」
「う、ん。ちょっと恥ずかしいな」
えへへ、と気を紛らすために小さな笑い声を漏らすと、周りも柔和な笑みを浮かべていた。
「フライはどうやってこのギルドに来たんだ?」
「え、あ、僕?」
「うん」
「ヘイ!おいらとノンドは結構過去について話しまくってたりしてたからさー、あと聞いてないのはケンジとリナー達と……フライだったんだ。ん、あとベントゥもだな。ヘイヘイ!」
「結構聞いてないじゃん」
「そりゃあ、聞く機会ねえからな。で、フライ?」
「ん、えっと僕はね……旅をしてたんだけど、その途中に南の洞窟に立ち寄ったんだ。その麓辺りにサン達が住んでいる場所があって……その時はサンの兄妹達に出会う機会は無かったんだけども、とにかくそこからサンに連れられて此処に来たって訳だ」
「へえ〜……やっぱりサンは最初っからそんな風に探検好きだったんだな」
「まあ……」
サンとの出会いを語り終えたフライは、話す前とは変わらない穏やかな微笑を湛えて口を閉ざした。へえ、フライはサンとそういう風にして出会ったのか。というか……この流れ、俺にも振られるのだろうか?いや、俺はもう答えたからいいのか?
「それじゃ、ベントゥは?」
「あ、あっしでゲスか?」
話の内容には出てきたが、急に話を振られてベントゥはちょっとあたふたし出した。しかし、直ぐ落ち着いて口を開く。
「あっしは……元から探検隊に憧れていて、それで此処等で有名なこのギルドに入門しようと決めたんでゲス。でも……あっし、昔から何をやってもドジばっかりでして……ケンジやフライみたいな実力も無いし、まだまだ弱いし……。
それでも、あっしは憧れの探検隊目指して、今も頑張ってるんでゲス!」
最後に笑顔で締めくくるベントゥ。それに、皆も僅かながら感嘆の声をあげた。
「そういや、ベントゥってなんかすごい事件に巻き込まれたよなあ」
「あーあったな!ヘイ!」
「え、何があったの?」
「うーん、そんな覚えてる話しでも無いし……まあかなり前の話でゲスけど、星の洞窟とかに行って、ジラーチっていうポケモンに『後輩が欲しい』って願ったんでゲスよ」
「それで俺達が入ってきて……願いは叶ったったって?」
「確かジラーチって何でも願いを叶えてくれるポケモンだったよな。へえ、ベントゥはそんな願いをなあ……」
やっぱり、皆それぞれ色んな過去を持っているようであった。けれど……他の過去と比べて、俺の過去よりも壮絶なものって、あるのだらうか。