#68 その、更に奥
「これで階段七個目ッ……!結構手間取るわね、あと何階かしら」
「見たところ四、五階くらい?ペース上げようか、大丈夫?」
「体力的には全然平気よ。もうちょっと早くてもいい!」
敵を倒すことよりも、今は先に進まなければ。追ってくる三匹程のクサイハナを振り払い、階段を全速力で駆け上る。
とにかく階段を探すことを目的とし、フロア中を駆け巡る。それでも流石ダンジョン、階段は思い通りに見つかりはしない。どうでもいい時には早く見つかるのに、どうしてこういう時に中々見つからないのだろう。
思い巡らす暇も無い。前から迫ってくるクサイハナに、まだ溜めきれていない電気ショックを放出した。分かってはいたが一撃では倒れてくれない。迷わず溶解液を繰り出すクサイハナの懐に電光石火でぶつかり、アイアンテールをぶつけて仕留めた。
案の定、階を進むにつれ敵が強くなってくる。私達のレベルは高めだと思っていたが、それでも上手く倒すことは難しかった。もう少し、技のレパートリーが増えてくれればいいのに。その分使いこなせばかなりの力を手に入れられる。
「シズク、後ろ!!」
ケンジが、私を呼ぶ声が聞こえ、間一髪体を反らしてビードルの糸を吐くを避けた。懲りずに攻撃を続けようと踏ん張るビードルを見据え、頬から電気が漏電する。
「伏せて!」
再びケンジの声が響き、私はうつ伏せに地面に体を押し付けた。真上を、強風と底知れないエネルギーが過ぎ去っていくのを感じ、次の瞬間にはビードルはケンジが撃った波動弾により岩に体をめり込ませていた。
「……とてつもないわね」
「遠距離技撃つのとか初めてなんだよね。なんかいいねえ、いつも届かない敵に届くって」
生憎私は遠距離技が得意な種族だった為そういう快感みたいなことはわからなかった。だが確かに、ポケモンになった当初自分の思う通りに電撃が飛んでいくのは変な感じがした。今はもう、慣れてしまっているが。
「それにしても、あんたももうちょっとだけ使える技があればいいのにね。私もだけどさ」
「まあまあ焦んないで。その内覚えられるんじゃない?」
話をしていると、前方には階段が見えた。早く最奥部に着いてくれることを望み、駆け上がる。
「………まだ、か……」
「かなり遠い上に階段が見つからないなあ……」
普段十階くらいなんていとも容易い階数なのに、焦っているからか長く感じた。まだ、私が急いでいる理由をケンジには伝えていないが、それでもこいつは深く探らずに付いてくる。優しい、とは思うけどどこか掴みにくい奴だとはまだなんとなく感じていた。
道具を回収しながら先へ進んでいくのだが、敵は多い、階段は見つからないで私達はイライラしていた。動きもがさつになり始めたような、なり始めてないような。
「あっ……」
「またこんな時に面倒なのが………!」
少し先の方で待ち構えていたのはバタフリーの大軍……否、群れと言った方が正しいか。ダンジョンは主に縄張り争いが常に行われている場所で、中には戦意の無いポケモンもいるがそれは本当に稀だ。時折群れとなって行動し、数の力で圧倒的差を見せつけ縄張りを取得するとかいう輩も存在する。そんな群れに出会うと、面倒なことこの上無い。
「しかもバタフリーか……一匹でもかなり強かったのに」
「ごちゃごちゃ言ってないで、ここは強行突破よ!」
どちらも電光石火でバタフリー達の目の前へ突進する。勢いで飛び上がり、そのまま体当たりの要領で激突。数匹は吹っ飛ばされるものの誰も戦闘不能にはならない。
このダンジョン内で一番強いのは恐らくバタフリーと言える。何しろ最終進化系で実力も他の敵ポケモン達とは明らかに違った。探検隊に入ればそれなりに活躍するんじゃないか、という程のレベルだ。とにかく手強いのが、バタフリーが攻撃に用いる粉、いわゆる麟粉だ。睡眠状態や麻痺、それに毒状態など、状態異常にしてくるものが多く厄介中の厄介。レベルはまだ私達の方が上回っているものの、手強かった。
「シズク、粉!粉来る!」
「……ッ……!」
ケンジの呼び掛けにより、背後から迫っていたバタフリーが発する『毒の粉』をギリギリでかわす。粉はひらひらと地面に落ちる。
「くっ……!」
まだ『痺れ粉』を根気よく飛ばし、その上風起こしでこちらに来るスピードを上げるバタフリーの懐に潜り込み上に向けて電撃を放つ。一匹倒すが、まだあと五匹はいる。
「ケンジ、波動弾!」
「うん!」
三匹程固まっていた所を狙い、最大限に力を溜めた波動弾が、通常よりも一回り大きい形でバタフリーを倒していく。これで、あと二匹。
「私は左行くわ!」
「わかった!」
未だ羽を優雅に漂わせ続けるバタフリーに、電光石火で急激に近付く。アイアンテールは空振りするも、飛び上がった直後にバタフリーに足先で触れ、そこから電磁波を伝わらせて麻痺状態に陥らせる。
硬直し、動きが遅くなっていくバタフリーに向かい、回転をかけたアイアンテールを叩き付けた。
「っし……終わり!」
丁度ケンジも、波動弾とはっけいを巧みに使ってバタフリーを地に伏せさせていた。
その奥に目をやると、階段が鎮座しているのが目に入った。バタフリー達は階段の前に縄張りを陣取っていたのか、と面倒な気持ちになったが、階段の上から流れ出る光は、ダンジョン内で見る光ではなかった。
きっと、この奥が。
そう悟った私とケンジは、この先に何かがあることを感じ、一歩ずつ階段を登っていった。