#65 伝達
返事が遅れてすまない。こちらでも色々あったが、確かな情報は入ってこなかった。
『時の歯車』を盗んだんだな。やっと見つけ出したと言うことか。こちらではかなり大騒ぎにはなったが、まだ水面下に隠されている。あいつらには当分知られないだろうと思っている。そもそも、あいつらがこちらに来ている、と言う情報もまだ無いのだ。どうしても、掴めなかった。
僕のいるこの立場は非常に情報が入ってきやすい。また何か、あいつらに関する情報を耳に挟んだらすぐさま伝える。何事も知っておいて損する事ではない。どんなに微かでも、どんなに不確かでも、だ。
最近有名になりだした『ガーネット』と言う探検隊を、お前は随分気にしていたな。入門してからぐんぐん成績を上げ、かなりのランクまで登り詰めたという、あの探検隊。
安心しろ。今のところ確証は無いが偶然だ。宝石名をチーム名に使うことは極有りうること。あちらの『ガーネット』とは関係が無い。その『ガーネット』の二匹も、普通の探検隊だ。僕は気にしていない。そちらも、今は『時の歯車』に集中してほしい。僕等の願いを叶えられるのは、今お前しかいない。
……彼女の事は、まだわかっていない。お前が随分責任を負っていることはわかる。だけどその事については僕等の責任でもある。それに、もしかしたら何処かで生きているかもしれない。それならば、あいつらに見つかる前に見つけたいところだ。僕も、尽力を尽くすよ。
何か気になることがあったらまた連絡してくれ。此方で、どうにか探ってみる。そういう事に関しては、僕は非常に有利な位置にいるから。
彼女の事も、あいつらの事も、出来る限りの力でやってみようと思っている。
此方側の使命は大丈夫だ。今は大分安全な所にいるし、僕の近くにいる。あのお方は、絶対に消されてはならない。嗚呼、わかっている。
それではまた、何かあったら教える。それまで、健闘を祈るよ。
*
今、彼女は、あの方達は何処にいるのだろうか。
「……頼む、生きててくれよ………」
祈ることしか出来ない僕を心の中で恨む。
*
「……あんた、起きなさいって」
鋭い声が聞こえた瞬間、ビリ、と身体中に電気が巡る音がして、少し遅れて痺れを感じた。ついでに足付近を叩かれて、目覚めは悪いが完全に冴えた。隣にいるのはシズクだった。バッグを片手に、俺の事を覗き込んでいた。
「し、シズク……?」
「早く起きてよ。あんたのせいで私まで怒られたくないんだからね」
「え、今何時?」
「六時五十分、ノンドが起こしに来る五分前よ。あの大声で叩き起こされんの嫌でしょ」
「ま、まあ……でも、シズク何で今日起こしてくれたの?いつも先に行っちゃうじゃん」
「べっ……別に理由は無いし。
起きたらほら、さっさと行くわよ」
顔を赤らめて、シズクはドアの向こうに消えていってしまった。照れ隠しで暴言吐くなんて可愛すぎる。ニヤニヤ笑いを隠せずに、俺はシズクを追った。
早起きは三文の得、と言うけれど、本当にそうだ。朝礼が始まる時にはもう目はパッチリで、いつも寝坊気味に起きていた俺は、かなりスッキリした気分になっていた。早起きの朝って、こんなに気持ちがいいなんて思いもしなかった。明日からは早起きを心掛けてみようか。出来たら、だけど。
シズクが何で俺を起こしてくれたのかは、結局わからず終いだった。
理由を聞いても答えてくれなかったし、今のシズクは寝起きで電気が漏れ出ているのか頬からパチパチと音が聞こえてきている。でも、それが気まぐれであろうと、俺は少し嬉しかった。