#62 衝撃の後日
正直、なんと言えばいいかわからなかった。サンの話を聞いた次の日、考えることがあまりにも増えた気がした。サンは軽々しかったが実際そんな話ではなかった。
でも私は、自分のことに関する知識があるのが羨ましかった。記憶も無く、何故か人間からポケモンになって自分が何者かも全くわからない状態。早く、自分のことを知りたかった。そもそも、自分が元々人間だったということさえ証拠が無い。最初気づいたときにそう“思っていた”だけかもしれない。謎が解かれる度に増えていく。それは正に、一生終わらない問題に思えた。
考えても仕方ないと、頭ではわかっていた。わかっている振りをしているだけなのかもしれない。自分の頭の中と言うのは、案外わからないものだ。
無言で朝礼場に辿り着くが、ケンジも、サンもフライも、各々何かを考えていた。昨日のことを考えているであろうことは容易に推測できた。
ラペットが朝礼場へと姿を現す前、ざわめきを消えることはない。大体今日の依頼の事とか、ちょっとした笑い話とか、そういうことしか話さない。それでも私達が考えていたことは、誰にも想像できない程突飛だった。
「……昨日の、話なんだけど」
騒々しさに紛れて、サンが後ろにいる兄妹達に話の内容を聞かれないように声をひそめて囁いた。私達はサンの方向に顔を傾ける。
「私さ、お姉ちゃんとかお兄ちゃんの前では言えなかったけど、フライ達には聞いておいてほしいことがあるの」
「……何?」
サンは、非常に寂しそうな笑みを漏らした。いつものサンではないみたいだ。出生の真実の裏に隠されたことって、一体何なのだろう。
「こんなこと言ったら絶対怒られるんだけどね、それでも言わなくちゃ心の中がスッキリしないんだ。
私は『天空の卵』から生まれたって言ったけど、実際そうかはわかんない。お姉ちゃん達とも血は繋がってない」
サンの口から淡々と語られる本音を、真剣に聞く。
「『シニアディ』って姓も、お姉ちゃん達の姓がそうだったから付けられただけ。サンって名前もお姉ちゃん達が付けたみたい。だから私は、私が一体何なのかわからない。どういうポケモンで、本当はどういう名前なのかも、何もわからない」
「…………」
「私は、お姉ちゃん達がいても、『独りぼっち』だった」
『独りぼっち』と。その言葉が、私の中に妙に大きく響いた。私はこのギルドにいても、確かに独りぼっちだった。孤独感が消えなかった。それでもそれでいいと私は思っていた。独りが好きだったから、と。でもそれは言い訳だったかもしれないし、否だったかもしれない。そんな自分が我儘であることは知っていた。それでも治そうとは思わなかった。
しかし私はサンの事をいいな、と思っていた。いくら独りぼっちであろうとも自分の事を知っている。兄妹もいるし、それはそれで私も望んでいたりする。他人といることが最も苦手な私に、兄妹が合うかわからないけれど。
ケンジも、フライも俯いていた。ケンジの事を、私はまだ何も知らない。知ろうとも思わなかった。
「暗い話になっちゃってごめんね。さ、今日もまた頑張ろ」
笑顔に戻ったサンが明るく言った。丁度ラペットが出てきたところで、もう話は打ちきりだと思った。私は私の事も、ケンジの事も知らないのだ。今になって実感したがその事実が目の前に迫っている感じがした。
皆の掛け声を聞き、今はこれでも、別にいいか、と思い直していた。