#60 伝説の論議
「……結構、暗い話ね」
サンが話し終わり、ふう、と一息ついたとき、私は率直に感想を述べた。最初の方はよかった。でも終盤は、なんというか、残酷だった。そして微かに、理解できることがあった。話の中に出てくる『天空の神』が望んだって、感情を持つ生き物は裏切るし、傲慢だ。私はもう、そんなことをすでに知っているつもりでいた。それでもやはり、この物語は酷かった。幼い子供には、決して読ませてはならない類いの物だろう。
「大体これが、皆の間で知られてる話。ねえシズク……どう思う?」
「……酷いなって思う。でも、やっぱりって感じもする。自分が持つ特別な能力を知って、付け上がらないなんてことはない……気がする」
謎が解明されたようで、謎が増えたような感じだ。この伝説の全部が全部真実な訳でもないと思う。サンは一体、いつから自身が持つ能力について気が付いたのだろうか。どう思ったのだろうか。
「勿論伝説だもん、正しい訳はないよ。私が操れるのは天候だけで、『天空の全て』なんかじゃない。
自然災害なんて強大な力、私が操るなんて多分無理だよ」
「でも確か『
天空の卵の伝説』って、伝説の中ではかなり有力なんだよね。『
天空の卵』らしき化石が見つかったとかなんとか……」
「あ、そんなことあったね。詳しいねえ、ケンジ。まあ政府とか報道局とかは会社の為にひたすら隠蔽したり話盛ったりするからねー。実は単なる卵だった!なんてことも、あるかも」
「あ、嗚呼……そう……だね………」
発言したはいいもののケンジはランに答えられるとすごすごと私の陰に隠れてしまった。他にもどうやら、ラックの視線を気にしているようだ。なんだこいつ、何故今この状態で神経質なんだ。何があったのだろう。
「あんた何してんの?邪魔だから離れて」
「えっ、あぅ……ごめん………」
それでも懲りずに、出来る限り隠れようと身を縮めるケンジと、追いたてる私。それを他の皆は、何故か微笑ましく見つめていた。もう、何なんだ。
「いいですねえ……青春ですねえ〜」
「は?」
「僕達にこんな時あったっけね」
「……覚えてないけど………あんたには来なかった……」
「リアン、優しくね!」
サン兄妹のほのぼのした会話に、今私達が何を話しているのか忘れてしまった。確かもっと深刻な話をしていたんじゃないのか。しかも妹の話じゃなかったのか、と呆れてもくる。
「つまり……そういう話だったんだな。サンが天候を操れる訳って」
「うん、ごめんね、フライ。長い間……かどうかはわかんないけどコンビ組んでて、秘密があって悪かったな、って思ってる。ほんと、ごめんね」
「え!?いや、そういうの僕気にしないから大丈夫。まあ、誰にでも秘密はあるからさ」
「うん、そうだよね、ありがとう!」
サンは相変わらずその美しく輝くような笑顔を見せた。その様子を見てサンの兄妹達も笑みを漏らす。こんな妹がいていいな、と私が密かに思ったのはきっと、誰にもバレることのない気持ちだと思う。