#58 サン出生の秘密
「はあぁっ!!?」
「なっ、なんでそんなこと!!?」
「……?」
ケンジとフライの口から飛び出る衝撃を表す言葉。対して私は、首を傾げるしかなかった。『
天空の卵』……一体それは何なのだ。私以外は皆、知っている顔をしていた。
「『
天空の卵』って……だって、え?それって伝説じゃ?本当にあったの?」
「伝説は伝説だけど、中でもかなり有力な伝説って言われてるからね。書物で語り継がれてる話にはかなり尾ひれが付いてると思うけど……でも本当の話だと思うよ。現にサンがいるわけだし」
「じゃあ、サンが天候を操れるのは……?」
「うん、そういうこと」
私だけ理解出来ないまま、皆の中で流れる話が移り変わっていく。『
天空の卵』は皆が知っていること、なのだろう。そして『伝説』だなんて単語が会話に入ってるのだから、昔話の類いだとわかる。
「だけど……じゃ、君達も『
天空の卵』の生まれ?」
「ううん、僕達はただの孤児でさ。サンを拾ったって訳で」
「ねえ……あの」
論理の最中に口を挟んだことでその場の全員がこちらを向いた。その顔が「何?」と言っている。
「『
天空の卵』って何?」
その時、話を続けようとしていた皆が唖然とした。
「え……まさかシズク、知らないの?」
「知らないわよ。それが何か?」
「だって……!ケンジはともかく頭の良いシズクが知らないなんてこと……」
知らないに決まっているだろう、と私は心の中で愚痴った。以前はポケモンではなく人間として過ごしていた身だ。ポケモンの昔話など、理解の範疇を越えていた。
ケンジだけがわかったような顔をしていた。この中で、私が元人間であることを知っているのはケンジのみだ。だからといってその事を皆に伝えるなんて耐えられない。とりあえず、『知らなかった』風を装うことにした。
「……そういう伝説、あんま興味無くて」
「へえ、そっかあ。そんなこともあるんだねえ……」
「それにしても、ケンジはなんで知ってたの?」
「俺は伝説好きだから!」
「前会ったとき、そんなこと言ってたわね」
あの海岸で出会い、崖付近で交わした話を思い出してみた。あの時の私は今よりも、もっと刺々しかった気がする。まあ今も、そんなに変わっていないだろう。
それにしても、私とケンジが出会ってからどれ程経ったのだろうか。少なくとも一ヶ月は経っている。嗚呼、時間の流れは早い。
「それじゃあ『
天空の卵の伝説』について、サン話してあげたら!?」
「うぇ……やっぱそうなるかあ……」
閃いた、と目を輝かせながら提案したアリアの考えに、サンは判断を渋った。私の場合全面却下だ……そもそも、自分の出生について知っていたとしても、それはケンジにも絶対に教えはしなかっただろう。渋る以前の問題ではない。
「折角だから俺が話そうか?」
「あ、私が話す」
「サンは俺を何だと思ってるの!?」
「だって間違った感じに伝えられても困るし……一応私暗記してるし。
伝説が本当だなんて思ってないけどさ、とりあえず今伝えられてる、原点の部分を話そうかな。まあどうだかわかんないけど……シズクには、今ケンジとかフライが知っていることを、知っておいてほしいの」
「……僕もうろ覚えだからな。話してもらうのはありがたい」
意見が纏まったところで、私達は立ち話をしていたことに気付きエメラルド共用の部屋へと足を運ぶ。
部屋の整理担当はサンがしているのか。所々探検道具や分厚い本が散らばっていたりはしたが、片付けられている部屋だった。サンが今貯蓄してある藁を全て取りだし、皆が座るクッションを即席でこしらえてくれた。ありがたくそれに座り、サンが話し出すのを待つ。
「じゃあ今から話始めるよ。本当のことかどうかはわからない。真実なのか否かもわかんない。でも、とりあえず『今のところ』って言うのを聞いていてほしいんだ。ね、シズク」
「わかってるわ。……話して」
「うん。
……これはおよそ……二千年程前の、あるポケモンによって紡がれた、一つのお伽噺です」