#57 予想外
「あの、昨日は失礼しました」
エーフィの所に駆け寄って、開口一番そんなことを言った。エーフィは「いいんですよ」と上品に返す。
「だけどまさか、ケンジもここにいるなんて。驚いたわ。サンのことは知ってたけど」
「え?」
何故このエーフィの口から、ケンジとサンの名が出てきたのだろう。訳がわからなくなり、私もフライも眉をひそめた。私とエーフィとの接点は、昨日出会っただけ。それだけなら少し挨拶しただけで依頼にでも出掛けようと思っていたけれど。このエーフィは……ここにいるイーブイの進化系ポケモン達は、二匹のことを知っているのだろうか。
「どういう、ことですか?」
「あら、説明してなかったの?」
エーフィは予想外だ、とでも言うかのようにキョトンとした表情でこちらを見つめた。予想外というなら、こちらの方が予想外だ。サンは極力身を隠そうとしていたり、ケンジは唖然としてそのエーフィと、後ろに無言で佇むブラッキーの方を見ていた。
「まあそうだったの。じゃあ簡潔に話すとすれば……そうね。私達は全員、サンの兄妹なのよ」
「はあ……は?」
突然の告白に、サンはもっと身を隠し、今度は私とフライが唖然とした。でもどこかでそんな気がしていたのかもしれない。全員がイーブイ進化系だから、気づけると言えば気付けたかもしれない。
「ごめんなさいね、唐突に。私はシニアディ家長女、エーフィのランよ。よろしく。で、後ろにいるのが双子のブラッキー、ラック」
「……よろしく」
ブラッキーはなんというか、雰囲気が暗かった。私達もとりあえず名前を言う。
エーフィことランの話によると、次女、シャワーズのアリア、次男、ブースターのフィーア、そしてどうやら今回三男はかなり遠い場所まで出掛けているらしく不在。三女、グレイシアのリアン、四女、リーフィアのフィナ。サンは末っ子だという。兄妹だからといって似ているわけではなく、ハイテンションのサンとは対称的にリアンはことごとく冷たかった。ケンジがシズクに似てる、とか呟いていたけど違うと思う。私はきっと、もっと歪んでいる。
「で、ケンジとはどういう接点が?」
「嗚呼、ケンジとは旅の仲でね。ケンジも昔旅してたんだけど、その時に探検とか出掛けてた私とラックに会って。少しの期間一緒に過ごしてたのよ」
「へえ、そんなことが……」
ケンジを見ると、その事実を知られたくなかった、と俯いていた。何かに恐怖しているのが感じられてくる。その『恐怖』の正体を、私は知らない。
「じゃあ、僕達のことをこの子達に言ってなかったってことは、あの事も言ったなかったんだね?」
「うん……タイミングが無くて」
フィーアからの問いに、サンがフライの後ろに隠れたまま呟くように答えた。何故隠れているのか。多分、恥ずかしいんだろうと思う。
「折角のいい機会じゃない。わたしから話す?」
「は?サンが話した方がサンの為じゃない……凍らすよ」
「ねえリアン、もっと穏便にいこーよ。ね?」
やっぱりこの兄妹達は個性的である。
「んん……ううん、私が話すよ。これは私だけの問題だからさ。お兄ちゃんとお姉ちゃんに、もう迷惑かけたくないもん」
サンは、やっとサンらしさを取り戻したみたいだ。何かを決意した固い表情で、私達の方を向く。フライもケンジも、その感じに思わず身を固くした。
「今まで、黙っててごめんね。私、実は_________
『
天空の卵』から生まれたの」