#56 もう一つのお客さん
前と同じ様な猛烈な勢いでお尋ね者を倒していった次の日。悪臭が辺りに垂れ込めて爽やかな朝だと言うのに皆の気持ちが暗くなっていたが、何故かラペットは嬉しそうだった。昨日、ドクローズの三匹が助っ人として入ってくる、と話をした時のように。口笛を吹いたりしながら、起床した弟子達が全員集まってくるのを待っていた。
そしてそんなラペットの様子を見て、全員の顔が陰気になっていった。もう厄介事はごめんだ、と言うかのように。
「なんか今日もラペット嬉しそうだよね」
「そうだね……。何があることやら」
「もう面倒な事は嫌よ、私」
「ドクローズとかいうチンピラで充分だよ。もうこの臭いに疲れるよ、僕は」
隣に並ぶサンとフライと話をしていると、その二匹も私達と同じ様な気持ちだということは聞かずとも察することができた。せめてならドクローズを追い返せればいいんだけど、なんて小さな声で話している。私も、その作戦会議に参加した。
「はいお前達、静かに!実は今日もだな……あるお客さんがいるのだ♪」
一体誰だ、なんて言葉が飛び交うことはなかった。もう皆が皆ネガティブ思考にインしていて、ドクローズの様な奴等が増えるんじゃないか、と思っているようだった。
「なんだ皆、今日は暗いな。また新しい仲間が増えるんだぞ?もうちょっと喜べ」
「ま、またドクローズみたいな奴等が来るんでしょ」
「だからって逆らったらパティのあれだもんな……」
ぼそぼそと声が漏れるが、ラペットの耳は都合よく出来ているようで全く聞こえていないように振る舞った。そんな態度に周りの殺意が高まる。「ラペットを焼き鳥にするか」なんて話もあったが、いくらラペットであろうとも命を粗末にするような発言は許せなかったので、諌めておいた。
「さて、新しい仲間はこの方達だ。……おーい、下りてきていいぞー」
ラペットの呼び声に応えて、上から梯子を伝い、沢山のポケモンがずらずらと下りてきた。多分七匹ほどいる。そして、その中には。
「……あ」
「あっ!?」
「はいぃっ!!?」
下りてきたポケモン達に対して、私以外にケンジとサンも派手なリアクションをした。サンは何故か訳のわからない奇声を発している。フライは何が起きているのかわからない、と首を傾げている。
何故サンとケンジが驚いたのかは知らないが、とりあえず私も少しは驚いた。昨日道でぶつかったあのエーフィが下りてきたのだ。その他にも沢山のイーブイの進化系ポケモンと一緒にいる。探検隊とかの仲間だったりするのだろうか。私はあのエーフィに一応会釈して、ラペットの話が続くのを待った。
「この方達にも、遠征の助っ人として参加いただくことになった。数日間共に過ごすことになると思うが、迷惑の無いように。人数が多いから自己紹介は各自でやってくれよ。それでは、解散だ」
朝礼が終わってばらつき始めた弟子達は、仕事場に向かう途中の通りすがりでエーフィなど集団のポケモン達と話をしたりしていた。遅れて私達もそちらに向かおうとするが、ケンジとサンが動かなかった。理由はわからないけれど、『何か』に驚愕している。私はケンジを、フライはサンを引っ張って、助っ人として迎えられたポケモン達の方へと向かって歩いていく。