#55 大人びた美人
私はとてつもなくイライラしていた。あのムカツク三匹がギルドの助っ人?嗚呼、訳がわからない。むしゃくしゃして頭の中が混乱する。またダンジョンにストレス発散しに行かなければいずれ爆発するかもしれない。
爆睡玉とカゴの実の補充の為に、私達は今トレジャータウンにいた。途中でドクローズの三匹に会い、思わず電撃を飛ばそうと思ったほどだ。でもそんなことをすると問題になり、ギルドから追い出されるかも、酷ければ警察に連行されるかもしれない。あんな馬鹿三匹の為に私の生活が崩されるなんて悲惨な話だ。あいつらがギルドの助っ人として所属しているのならば、目立つ行動は控えなければ。それでも頭に来るのは当然のことだった。
「シズク、まずちょっと落ち着こ。俺も確かにすっごい腹立ってるけど、冷静になんなきゃあいつらに嵌められるかも」
「そうね。それはわかってるわ。わかってるのよ」
「それでも落ち着けないよね、うんわかる」
カクレオン商店まで歩く間、私達は怒りを込めてそんな会話をしていた。辺りにいる住民達が、私達の勢いに若干引いてる気がする。でももうそんなのは今の私達には全く関係のないモノだった。あいつらに一撃、殴ること以外、もう考えられない。
カクレオン商店にいる二匹のカクレオン、グーンとピールでさえも、私達に恐れおののいている風に感じられた。けれど、私達が発する殺気の行き場があの三匹だとわかると、猛烈に共感してくれた。グーン達の言い分によると、あいつらが悪臭振り撒くせいでやる気が萎えていく、ということらしい。他の住民達も同じ気持ちなのだと言ってくれて、皆そう思っていることに少しだけだが安堵した。
もうラペットなどの心境を理解しようとすることも、説得しようとすることも諦めていた。
爆睡玉とカゴの実をそれぞれ二つずつ購入すると、私達は足早にその場を去った。今日の依頼は、大体お尋ね者の逮捕にした。ストレス発散なら、もうお尋ね者にぶつけるしかない、と意見が一致していた。
ダンジョンへと続く十字路に向かっている時、もう一度バッグの中身を、私は確認していた。
「あ……まずいわ。カゴの実、一個カクレオン商店に置きっぱなしにしちゃってたかも」
「え!?本当に!?」
「私のミスだわ、悪いわね。あんた先に行ってて、私がすぐに追い付くから」
「え?でも、俺が行った方が、なんというか……」
「いいから先行っててっつってんでしょ」
ケンジを説得して十字路へと向かわせ、私は今歩いてきた場所を走って引き返した。
怒りのせいでうっかりしていた。ケンジを言うとおり、冷静にならなければこれからダンジョンに潜ると言うのに危ないことになるかもしれない。こんなドジなミスも私らしくない。こんなことをしないように、今後気を付けなければ。
カクレオン商店のカウンターには、私が置いていっていたカゴの実が乗せられていた。私を見つけたグーンはカゴの実を優しく手で包んで私に手渡してくれる。最初見た限りだと相容れないタイプのポケモンかと思ったが、案外そうでもないかもしれない。優しいな、とつくづく思う。お客さんだからかもしれないけれど、プライベートに近い話でもちゃんと聞いてくれるし。
二匹にお礼を言って、急いで十字路の向こうへと走る。あまり、ケンジを待たせたくなかったのだ。私の不手際でこうなったのだから。
ひたすらに足を動かしていると、いきなり何かにぶつかった。かなりの勢いで走っていたので、体格差もあり軽く吹っ飛ばされる。握りしめていたカゴの実が、地面をころころと転がった。
見上げると、私とぶつかったポケモンの顔がそこにあった。紫色の体をしていて、額にはルビーのような石のような物が埋め込まれている、尻尾の先が二つに別れているポケモン。イーブイの進化系、エーフィだった。かなりの美人である。漂わせる雰囲気は大人びていて、思わず見とれるほどだ。辺りにいる雄ポケモンの集団が、ざわざわとこちらの方を向いている気配がする。
「あら、すみません。お怪我は無いですか?」
「あっ……はい、大丈夫です」
立ち上がって体に付いた砂を払い、急いでカゴの実を拾う。
「あの……ぶつかって、すみませんでした」
「いえいえ、いいのよ。私が不注意だったもの。お気になさらず」
上品に返したエーフィは、優雅な歩き方で立ち去っていった。私はしばらくその姿を眺めていたが、やがて我に返って、ケンジの元へと急ぐ。