#54 チーム“ドクローズ”
「皆♪今日は仕事の前に、新しい仲間を紹介するよ♪」
翌日のことだった。今日は久々に早起きしてシズクを起こすという素晴らしい出来事があったばかりだったので、俺の心も弾んでいた。シズクは俺に負けたということでいつもより更に不機嫌だ。しかし俺にとっては、とても嬉しいことだったのだ。こんな朝で始まったのだから、今日は何かラッキーな事が待ち受けてるに違いない。そんな気分で、朝礼場まで足を運んできた。
朝礼を行うため前にいたラペットもどこか嬉しそうな顔をしていた。体も弾んでいて、きっとラペットも何か嬉しいことがあったに違いない、と推測できた。
そして開口一番その言葉だった。新しい仲間が来る、ということに俺以外の皆も顔を輝かせてひそひそ話を繰り返していた。シズクは「もう何か増えるのとか嫌なんだけど」と呟いていたがあまり気にはならない。シズクのそういう性格に、俺がもう慣れたのかもしれない。
俺達がこのギルドに入って、もう一ヶ月は経過しただろう、と思う。弟子入りの頻度がどのくらいかは知らないが、ラペットがこんなに嬉しそうで、しかも新しい仲間が来る、ということだから、間違いなく弟子入りだろう、と思った。後輩が来るのは、わくわくした気分になる。
「何だ?また弟子入りかな」
「おーい、こっちに来てくれー」
ラペットが上に向かって呼び掛けた途端、この場に悪臭がたれ込み始めた。この臭いには、どこか覚えがあった。でも、そんなことはない。あり得ない筈だ。だけど、これは間違いない。
上から下ってきたのは、俺達が恨みに恨むスカタンク達三匹だった。全員薄ら笑いを顔に張り付け、ギルドの全員を見下している。パティのことでさえも、その薄汚い目で地味に睨んでいた。パティはそんなことに気付いているのかいないのか、始終笑っている。
「この三匹、チームドクローズが新たな仲間だ♪」
「ケッ、ドガースのガナック・ハーラリーだ」
「へへっズバットのディビ・ジアラだ。よろしくな」
「そして俺様がこのチームのリーダー、スカタンクのミグロ・ナダクティだ。覚えておいてもらおう。
……特に、お前達にはな。ククククッ」
スカタンクのミグロは話の最後に俺達を睨み付けた。三匹全員が偉そうな喋り方でイラつく。何が一人称“俺様”だ。馬鹿か。
「なんだ、知り合いなのか?それでは話が早い。
この三匹は弟子としてではなく、遠征の助っ人として参加してもらうことになった」
「はあっ!?」
「なっ、なんで!!?」
衝撃的だった。こいつら全員が弟子としてギルドに入ってくるのならば、どんなに偉そうにしていようと俺達よりも下だ。それなら少しはマシだったが、助っ人とくると話が違う。何故パティはこんな怪しい奴等を助っ人として迎えたのか。そして何故ラペットはこんな奴等を信用しきっているのか。この二匹の思考回路が理解できない。
「お前達、何でそんなに驚くんだ?」
「だ、だってそんなっ……!」
「ラペットさん、あいつらはいちいち反応がでかいんですよ。……所詮、ただの馬鹿なんで。ククククッ」
「……まあいい。とにかく親方様は、この三匹がいた方が戦力になると判断された。
ただ、いきなり一緒でもチームワークは取れない。なので、遠征までの数日間、共に生活することになった。短い間だが、仲良くな♪」
もう明らかにルンルン気分のラペットは、誰にも止めようがなかった。それ以前に、何故ラペットとパティはこいつらの悪臭に反応しないのかが謎であった。弟子達の間にもそんな会話が流れる。誰もがこの臭いに、滅入っている様だ。数日間こんな奴等と一緒なんて、とても耐えきれない。昨日遠征に行くことが報告されたことと一変、皆が早く遠征が終わらないか、なんて口にしている。シズクの目は、僅かに紫に染まっていた。
「それでは皆♪仕事に掛かるよ♪」
「おーー…………」
あの『掛け声』でさえも、皆の沈んだ気持ちを表すように暗かった。無理もない、と思う。いつもなら張り切って拳を振り上げるサンでさえも、床に目を落としている。
「あれ?何か元気無いね?」
「だってこんな臭い中、元気出せって方が無理だろーよぉ!」
痺れを切らしたノンドが、堰を切らしたように大声で喚いた。それに、他の弟子達もうんうんと同意する。
ラペットがキレて叱り出そうとしたその瞬間だった。いきなり、床が揺れ始める。地響きだ。
「は?何これ!?」
「あっ……お、親方様!」
ノンドの声を聞いたパティは、震えていた。涙目で、時折「タァ……」と口走っている。何かがヤバイ。その場にいる全員が、それを直感した。
「お……親方様を怒らせたら大変な事にぃ……!お前達!!無理にでも元気を出すんだよ!!!」
「そ、そんなこと言っても……」
「ギルド丸ごと潰されるのと我慢するのとどっちがマシだい!!?さあ皆!仕事に掛かるよ!!」
「おーーーー!!!!」
全員が有らん限りの大声で叫んだ瞬間、地響きは止んだ。皆息を切らしながら仕事場所へと向かう。
パティは、何もなかったような顔をして、そこに立っていた。