#53 同情は出来ない
俺達は今、依頼の最中であった。にも関わらず、依頼なんてそっちのけで、ただ辺りのポケモンをひたすら潰すことだけを目的としていた。俺もシズクも、腸が煮えくり返る思いだった。
何だったんだ、あいつらは。あのドガースとズバット、そして『兄貴』とか呼ばれていたスカタンク。スカタンクは別としてあの二匹は、対して強くもないくせに何であんなに偉そうなんだ。弱いくせに、どうして俺達をあそこまでコケにできたんだ。全く、頭に来る。俺は、今までこんなに怒ったことはない、という勢いでぶちギレていた。シズクだってそうだ。今日はいつにもまして電撃が強力だった。飛び出てくる岩タイプや地面タイプのポケモンだって瞬殺だ。勿論俺も、同じ様な事をしているのだが。
ギルドの弟子達のストレス発散は主にダンジョン内のポケモンにぶつけられる、とフライから聞いていたが本当の事であろう。実際俺達がそうしてる。
こうもなると、理性を失ったとはいえ敵ポケモンには同情してしまう。しかし、そんなことを言って油断していると、足元を掬われる。現にイシツブテが手に泥爆弾を構えて迫ってきていた。ドガース、ズバット、スカタンクの三匹への恨みを込めて、イシツブテをはっけいで叩き潰した。
「ったく……!むしゃくしゃするわ!」
丁度翼で打つを繰り出そうとしたムックルが、スピードに付いていけずシズクの電撃に沈んだところだった。比喩表現ではなく、本当に地面に沈んでいる。否、めり込んでいる。
「シズク、なんか今日技の威力高くない?」
「頭に来てるとそうなるのかしらね。あんたも強くなってたわよ」
「え、そうかな」
他愛もない話をしているが、この会話の最中にもシズクは通路の向こう側にいたりする敵にも迷わず電気を流していた。周りの野生ポケモン達からの目が、敵意から恐怖に変わってきていた。
「もうこの階で依頼終わりよ。どうする?」
「まだ発散しきれてないから最奥部まで行く」
「同感よ。決定ね」
そうして俺達は救助を求めた依頼人から若干怖がられたりしながら依頼を終わらせ、次々と敵を薙ぎ倒し、最奥部まで進んでいく。特に何があるわけでもない。単なる、ストレス発散なのだから。
「ここ、最奥部ね。もう平気?」
「うん。後はあの三匹に直接攻撃すれば」
「そうね、私もよ」
その後、帰宅が遅くなった俺達がラペットに叱られるのは予想できていた。