#52 今最も会いたくないチーム
「なんであんた達がここにいるのよっ……!」
「ああ?なっ、お前らはあの時の!!」
そこにいたのは、かつてケンジの持つ『遺跡の欠片』を奪い、私達と一戦交えた相手。あのドガースとズバットだった。お互いあるのは憎しみだけで、そこの雰囲気は圧倒的に悪くなる。しばらく睨み合いが続いた後、ケンジが静かに口を開く。
「お前達……なんでここにいるんだよ!」
「……ケッ、俺達は探検隊なんだよ!」
挑発的な態度も何もかも、あの時と微塵も変わっていなかった。あの憎たらしい程にウザイ性格そのままだ。多分強さも、あの時とさして変わっていないんだろうと推測できた。初めて会ったときと、雰囲気も何も変わっていない。今の時点で、私達の方が攻撃力といい力といい圧倒的に上回るだろう。それを真っ先に理解するが、それでも向こうが上から目線なのには腹が立つ。相変わらずの小物だ。
「あんた達が探検隊?その辺にいる超軟弱な小物チンピラの間違いじゃないの?」
「んだと?それをお前らが言えるのかよ?俺達を前にしただけで足が震えるような奴とさして強くもないくせに威張ってる野郎が」
「は?あの時あんたら私達に余裕で倒されてたじゃない」
一触即発の空気だった。相手も、私達も、引こうとはしない。
「で?お前らは何でここにいるんだよ?」
「俺達も探検隊だ。ギルドで修業してる」
「はあ!?お前らが!?」
いきなりドガース達はやけに驚いた風に叫んだ。想像以上に煩いため眉をひそめる。
「おいおい……お前らみたいな弱いのが探検隊?そりゃ無理だ、諦めろ、全く!」
「無理か無理じゃないかはこれから俺が決める」
この会話を聞いていると、何だかケンジも成長しているように思えた。前までは、こんな奴相手でも腰が引けてあんなにみっともなかったのに。ドガース達も、もっと簡単に凹ませられると考えていたのだろう。虚を突かれたように佇んでいる。
「あんたらに比べるとケンジは努力してるわよ。あんたらは特に何もしないで挑発するだけじゃない。それであっさり潰されるだっさい雑魚」
「なんだと、てめえ!それに努力だのなんだのじゃねーだろ。そこのリオルは弱虫な上に臆病じゃねーか!そんなお前らに探検隊は絶対無理だって言ってんだよ!」
痛いところを突かれた、と咄嗟にわかった。ケンジは『弱虫』だとか『臆病』だとか言うところを常人より妙に気にしている。昨日だってその事について、私に話してきたくらいだ。
「っ……確かに、俺は弱虫だし、臆病だよ。でもこのギルドでだんだんと変えていくつもり。こんな自分に負けないように、頑張ってるつもりだ。少なくとも、お前達よりはね」
それでもケンジは挫けなかった。よくやった、と、ケンジの肩を軽くポンと叩く。ケンジもそれに返すように、わずかに強気な笑みを浮かべていた。
「へっ、言わせておけば。お前らなんて俺達の兄貴に比べれば足元にも及ばねえぜ!」
「ケッ、違えねえ」
「何よ、結局人任せじゃない。少しは自分達で解決してみれば?まあ、それもあんたらクッソ弱いから無理ね」
私の挑発は聞こえなかったのか無視されたのか。いや、きっと前者だろう。この単純馬鹿は、少しでも挑発を聞くとすぐに乗ってくるのだから。
だが、もっと言葉を紡ぐことは無理だった。上階から流れ込むかの様に、言い表せないほどの悪臭が漂ってきた。私も思わず鼻を押さえ、ケンジと顔を見合わせる。今やかなり弟子達も上がってきているこの掲示板の場所に広がる悪臭に、誰もが顔をしかめた。
「噂をすれば、兄貴の登場だ!」
ドガース達の向く方を見ると、そこには普通よりも大柄のスカタンクが姿を現していた。まるで足元に散らばるゴミでも見るかのように私達を見下している。その佇まいからは、かなりの迫力と威圧感、そして並外れた強さを案じていた。私でも思わず、ぞくりと毛が逆立つような気持ち悪い感覚を覚える。
「……お前ら、何か金になりそうな仕事はあったのか?」
「いやあ、それがここにはセコい仕事しかなかったんですよー」
まるで世界中の騒音を無視しているような三匹の会話に、この場にいる全員がイラついた顔をした。しかしそれすらも、三匹は無視している。やがて、ズバットが何かをスカタンクに耳打ちすると、スカタンクはニヤリと悪そうな笑みを漏らす。そしてすぐに「帰って作戦を立てる」とか言ってさっさと梯子を登り去っていった。
後に残るのは鼻につくほどの悪臭のみだった。後程あの三匹を愚痴る言葉が飛び交ったのは言うまでもない。
「何だったんだろう、あいつら」
「さあね。でも多分何かを狙ってる。警戒はしといた方がいいわよ。ああいう輩は私達の想像もつかないようなことをやらかすことだってあるんだから」