#51 お知らせ
翌朝、仕事へと向かおうとした俺達をラペットが呼び止めた。寝起きのシズクはいつになく不機嫌で、駄々漏れの電気があちこちの空気を刺激していた。大体シズクは朝と、夜寝る前の機嫌は最悪なのだ。頬はバチバチと音をたて、俺は一体何度その電気の餌食になったかわからない。それほどなのだ。
「えー、今日は皆に知らせたいことがある。我がギルドも久々に、遠征へ繰り出そうと考えているのだ」
ラペットの一言で、辺りの騒々しさが一段増した。サンはいつものように煌めくような笑顔を振り撒き、フライと楽しそうに会話している。他のメンバーも、興奮を隠しきれていなかった。
「今回向かう場所は………遥か東にあるとされている湖だ。そこには未だ未知の部分が残されている。私達は、それを解明するために向かうことになる」
「遠征かあ……久しぶりだなあ。私達この前は新米だったから、行かせてもらえなかったんだよね。今回は行けるかなあ」
そしてまた辺りが一層ざわめき出す。俺達は昨夜のパティからの話でこのことは知っていたから驚くこともなかったが、またわくわくしてくる気持ちを隠そうとは思わなかった。そんな嬉々とした雰囲気の中で、たった一匹、シズクだけがどこか不満げだった。遠征に不満なのではないはずだ。やはり寝起きのシズクは相当である。さっきから純白の尻尾を床に打ち付けている為、パタパタと忙しない音がする。
「出発は数日後と考えている。それまでにこの中から精鋭を選び出し、そのメンバーで遠征へ行く。皆遠征隊に選ばれるために頑張ってくれ!以上、朝礼終わり!」
ラペットがその場から立ち去っても、騒音は消えなかった。ざわざわ、ざわざわ。遠征について交わされる会話に、俺も入りたかったが、そんな訳にはいかなかった。
「さっさと、掲示板行くわよ……」
普段よりも目付きの鋭いシズクが俺の手をぐいぐい引っ張ってきた。昨日遅くまで起きていたせいか、探検で疲労が溜まったせいか、今日のシズクは口数も少ない。これは従わなければ色々とまずい状況になるのは目に見えている。俺は皆から離れて、梯子を登る。
そしてまた不意に、本当に突然、昨日のことが思い起こされた。一日経てば自分の内心も変わるものだな、と改めて思う。あの青い光について、初めて口に出してみた。
「ねえシズク?昨日、流された水の中でさ、シズクの目がすっごい青く光ったんだよ。シズクは何かその時、違和感とかあった?」
シズクはギクリともしなかった。少し首を傾げる。
「……?そうだったの?何か目の辺りが、何かで護られてる様な感覚はあったけど、他は特に何も。へえ、そんなことがあったのね」
「本当に気付かなかったの?」
「そう言ってんでしょ。気付いてたら多分、私から何か言ってたわ」
軽々しく呟いて、シズクは自分のバッグの中に目を落とした。実際俺が考えてたよりも、悪い反応はしなかった。そこはよかったのかもしれないけれど、シズクは自分が傷ついている、ということを表には全くといっていいほど出さない。心の中で傷付いていたりしたら、シズクに迷惑だと思われても自分から心配してあげた方がいいのだと思う。
「シズク?なんか思い詰めてたりしたら言ってね。いつでも相談のる」
「うっさい。別に思い詰めたりとかしてないから」
顔を背けて、シズクは掲示板の傍へと歩み寄った。今日もまた、依頼八件地獄である。シズクと一緒だから言うほど地獄ではなかったりするが、疲労は溜まる。シズクは体が壊れたりしないのか、と若干不安にはなるが、そういう心配こそシズクは嫌いそうなので、様子を見ながらそのままにしておいた。
しかしシズクは掲示板の前にはいなかった。その場で、立ち止まり、静止していた。それには俺も驚く暇もなくシズクと同じ状態になる。
「……えっ」
「は?」
そこにあったのは信じたくない光景だった。