#49 帰還後の結果報告
「ん……ん?ここどこ?」
「あ、起きた。どうやらここは、温泉みたいだよ」
目を覚ました場所。最初に感じたのは生暖かいお湯の感覚と、眩しく光る太陽だった。その後真横にいるケンジの顔が見え、現状を理解する。温泉だった。自然溢れる露天風呂で、中にはトレジャータウンで何度か見かけたことのあるポケモンもいた。ヒメグマやリングマなどだ。バッグは濡れないよう岩の上に器用に乗せられている。誰が置いたのかは、よくわからない。
「俺もさっき起きたばっかりなんだ。だからここがどこにあるのかもわかんなくて」
「ここは、トレジャータウンの偏狭にある温泉じゃよ」
不意に上の方から声がした。温泉には入らず、一際大きな岩の上で佇む一匹のポケモン、コータスの老人がそう発していた。
「ここの温泉は肩こりによく効くんで多くのポケモンが訪れるんじゃ。……お主ら、何か地図は持ってないかの?」
「嗚呼、地図ならここに……」
すぐに返事を返したケンジは岩に乗っているバッグの中を漁り不思議な地図を取りだし、広げた。トレジャータウンのある場所と滝のある場所は目につくが、温泉のような所はあるのかわからない。
「この場所は……ここじゃよ」
コータスの老人が指した場所は、あの滝から遥かに南東にいった場所だった。
「え、じゃあ、俺達がいた場所はここだから……結構流れてきたんだねえ」
「なんとお主ら、そんな遠い場所から流されてきたのか!それは大変だったのう。温泉でゆっくり疲れを癒してから帰りなされ」
「じゃ、そうするわ」
しばらくここにいたい、というのは本心だった。再び肩までつかり、その温もりに身を浸すと、なんだか少し、ほっこりとした気分になった。こんな時に何故か、ケンジは思い詰めた顔をしていたのだが。
*
「つまり……滝の裏側には洞窟があり、その最奥部にある巨大な宝石を押すと仕掛けが作動して、温泉まで流れ着いてしまったと。そういうことだな?」
「うん。宝石を持って帰れなかったのは残念だったけど……」
温泉に浸かって少し帰還が遅くはなったが、ラペットがそれを咎めることはなかった。結果報告を聞かせると、驚いたように、だが正確にしっかりと話を聞いてくれた。
「いやいや、宝石を取ってこれた来れないの問題ではないよ!これはすごい大発見だよ!」
「えっ!?ほんと!?」
ラペットが褒めるとケンジも何だか盛り上がる。私だけ除け者で楽しそうだ。私としてはああいう雰囲気は苦手なのでこれでいいと思っている。
だが喜ぶ二匹を尻目に、私にはどうしても引っ掛かることがある。私があの目眩で見た時にいた、ポケモンのシルエットのことだ。あのシルエットにははっきりと見覚えがあった。あの兎のように長い耳、顔と胴体が一体化したように見える丸っこい身体。どこかで確かに見たことがある。でも何故か、喉まで出掛かるその記憶が、どうしても出てこなかった。だが、その時。
「あ、ラペットとガーネットの二匹。初探検はどうだった?」
親方の部屋から、パティが顔を覗かせた。その瞬間、私の中の何かがパチン、と音を立てて弾け飛ぶ。そう、そうだ。どうして今まで、気が付かなかったのだろう。
「ねえパティ!あんた、私達が今日探検に行ったあの滝に、一回行ったことない?」
「えっ?」
「な、何を言ってるんだシズク!今回の探検は親方様が調査を頼んできてるんだよ!?一回行ったことがあるなら、親方様はそんなことしないはずだろ!?」
騒ぐラペットをスルーして、パティはうーん、と考える素振りを見せた。しばらくそのままだったが、少し経つといきなり「嗚呼!」と叫ぶ。
「あ、そうだったあ!よく考えたら僕行ったことあるかも!」
そんな気の抜けたパティの返事に、私達三匹は一瞬だけ反応が遅れた。しかしやがてその言葉の意味を理解すると、全員何とも言えない表情になる。
「はあ、そうか、そうだったのですか……」
「え〜……折角大発見だと思ったのに……」
ケンジが悲しそうな顔をしたのには少し気持ちに違和感を感じた。同時に、私が今したことは本当に正しかったのかな、とも思ってしまう。あんなに喜んでいたケンジの気持ちを潰すようで、何だか変な感じがする。
「まあとりあえず、今日は初探検お疲れだったな。ゆっくり自室で休んでから夕飯に行くといい。明日も早いからな」
今までより随分優しい感じのラペットが、笑顔で私達をガーネットの部屋へと送っていく。そのままこの場にいる理由も無かったから、すぐにラペットに従って、穏やかな笑みで見送るパティに背を向けた。