#48 導きの光
強い、強い水流と水圧の中で、もがいてももがいても俺は何も出来なかった。迂闊だった、と思うし、俺はどんなに馬鹿なのだろう、とも思う。シズクの様子が何だかおかしかったのに、彼女の声を聞かないであの宝石を押してしまって。やる前に、少しくらいこの後のことを考えればよかった、とも思う。
こんなことを考えていることがシズクにバレたら、また弱虫だとか臆病だとか言われるんだろうな。悔しいけど、残念ながらその通りなのだ。シズクと出会って、俺は少しばかり変われたんだな、だなんて実感したつもりだったけど、全然そんなことはなかった。俺はシズクと釣り合えるほど精神的にも体力的にも全く敵っていない。こんな自分を変えたくて変えたくて、それでも全然変われなくて、一体俺は何のために存在しているんだ。もう、自分の存在意義さえも、見いだせなくなっている。
だがとにかく今は、酸素が欲しかった。自分が変われる変われないは一旦置いておこう。いくら『探検中の名誉ある死』であろうとも、俺はまだ死にたくなかった。そろそろ、息がもたなくなってくる。隣できりもみして流れているシズクの黄色い姿が目に入った。せめてシズクだけでも、生かしてあげたかった。俺の不注意で、こうなったのだから。
しかしいくら待っても出口の様な光も見えず、そろそろ俺も限界になってきた。だんだんと意識が薄れかけて行くが、その前に俺は衝撃的な事を目撃する。
シズクの目から溢れ出る光が、流れ行く水の中で尾を引いていた。いつもの青い瞳が、まるで自ら光を発しているかのように輝き煌めき、青く青く瞬いていた。そしてその、シズクの瞳から出る青い光と共鳴するかのようにオパールのペンダントも青く光り始める。光るオパールのペンダントはぐいぐいと、俺とシズクを引っ張っていき、誘導するように強烈なスピードで前へと進んでいく。
その時、その青い光に照らされて、わずかに呼吸がしやすくなっているのを感じた。だがそれも一時的なもので、やがてまた意識が薄れ始める。
完全に、俺の意識が途絶えたとき、隣からか、下からか、上からか、それとも自分の中からか、わからないけれど。
『お前はまだ、死んではいけないのだから』
そんな風に“音”が流れた。