#47 瞬き輝く場所と少女
「あれ……もう最下層かな?」
先程下った階段の先には、今まで通ってきたダンジョンよりも明らかに広く、そして輝く場所が存在していた。辺りにはサファイア、エメラルド、ダイヤモンド、アメジスト、ガーネットやルビーなど、色鮮やかな宝石が、そこかしこに埋まっている。私はそこらにある宝石を片っ端から眺めていった。美しく煌めくその鉱石に思わず目を奪われ、ケンジが私のことを微笑ましく見ていることにも気が付かない。しばらく眺めていると、一つの真っ青な宝石の一つに目が行った。覗き込むと、その宝石は私の姿を写し、キラキラと、太陽も無いのに輝いた。持って帰りたくてその宝石の周りを掘っていると、ケンジが私を呼ぶ声が聞こえる。
「ねえ、見てよシズク!こんなに大きな宝石が埋まってる!」
振り返って見ると、ケンジが一番奥の石壁に埋まっている、巨大で綺麗なピンク色の宝石を引っ張っているのが目に入った。しかし容易く抜ける物でもないようで、さっきダンジョン内で体重が重そうな敵ポケモンを遠くへ投げ飛ばしていたケンジでさえも唸るばかりで、宝石は動く素振りも見せなかった。
「うう、固いなあ……シズクもやってみてよ」
「あんたに駄目なら私も無理だとおもうけど」
仕方なくケンジの言うとおり私も宝石の前に構え、今出せる力を全て出して宝石を引っ張る。しかし宝石はつるつるとしていて掴みにくい上に埋まっているから、掘らない限り持ち出すのは無理だろう。
「……これは、無理ね」
「うーん、そっかぁ……よし、俺もう一回やってみるよ」
諦めきれない様子のケンジはもう一度宝石の前に立ち、宝石を引っ張り始めた。結果は同じ。宝石はどんなに力を加えても微動だにせず、そこに佇んでいた。
「ダメかあ……でも、あともうちょっと……!」
頑張るケンジを傍目に私は手に入れた青い宝石を弄んでいた。しかしその時、また視界が揺らぎ始めた。
━━━━━━━━━━━━あの目眩だ。
それに気付いた時には、私はもう壁に手を付けて体を支えていた。張り切っているケンジは気付いていない。むしろ、その方がいい………。壁に手を付いたまま、私はひっそりと目を瞑った。
あの一匹のポケモンのシルエットが、この宝石が溢れる場所に辿り着いていた。辺りに散らばる宝石を眺めた後、シルエットは目の前の大きな宝石に気付き前へと進む。そのシルエットは、この宝石を抜き出そうと何度も引っ張るが、宝石は全くといっていいほど動かない。シルエットはしばらく考え込むような素振りを見せると、試しに、とでもいうかのように宝石を軽く押してみた。するとカチッ、と小気味良い音が響いた。
途端に地響きがして、右から左へと流れ込むように大量の水があふれでてきた。シルエットは、その水に気付くが反応が遅れ、水に呑み込まれて奥へと流されていった。
ふっと目を開くと、まだケンジが宝石を引っ張っている光景が飛び込んできた。目眩と頭痛は収まり、私はひんやりとした壁から体を離す。とりあえず、今見えたことをケンジに伝えなくては。何かの拍子に宝石を押してしまったら、大変なことになる。
「ねえケンジ……」
「あ、そうだ!引いてダメなら押してみろって言うしね!」
私が言い切る前に、ケンジは思い付いた様に明るく言って、その宝石を押した。何かのスイッチの様に軽快な音が辺りを満たす。
「ちょっ……馬鹿あんた!!!」
「え?何?結構いい策だと思ったんだけど……ん?」
急に轟音が響きだし、地面が揺れ始める。ここから立ち去らなくては。私は急いでケンジの手を掴む。
「早くっ!逃げるわよっ!」
「え、ええっ!?何で?」
時すでに遅し。走り出した瞬間、私達の横からは大量の水が流れ込み、抵抗する術もなく水に呑まれていく。私とケンジは水流に押され、ただ水の中で足掻き続けるしかなかった。