#8 その時の君
俺の噛みつくで負傷したドガースは、シズクの電気ショックで黒焦げになり、意識もそぞろなズバットを背負って、ふらふらになりながら俺達に向かってわめき散らした。
「ケッまぐれで勝ったからっていい気になるなよな!」
「覚えてろてめえら!」
だとか。どうにも、負け犬の遠吠えにしか聞こえないし、その発言が自分達の小物感を更に強めていることに、彼らは気づいていないらしい。
二匹が逃げるようにその場を去ると、俺は転がっていた宝物を拾い上げた。
よかった、どこも傷ついていない。
シズクは、勝ったことに多少なりとも満足感を感じているようで、目を細めながら二匹が去った方向を見つめていた。しかしすぐに、引き返そうと俺に背を向ける。
「あ、あの、シズク!」
俺は呼び止めた。気になることがあったし、それ以前にお礼を言いたかった。俺の為じゃなくともシズクがいなければ、夢も憧れも、そして、初めて自分で調べてみようと思った物さえ、自ら手放していただろう。
だが、まあ案の定無視された。
「あの…ありがとう」
でも、俺はシズクの背中に向かってそう言った。無視されてもいい。ただその想いが伝わればそれでよかった。
「別にあんたの為じゃないから」
こちらを見もせずに返された言葉に、俺はふっと微笑した。
それにしても、シズクは“あの時”何か感じていたりしたのだろうか。
そう…俺がドガースと戦っていた時のこと。
ズバットの翼で打つと毒針を食らったシズクは、水溜まりの中に倒れてしまっていた。俺は、丁度ドガースの繰り出してきたはたくを受け流していたから、援護しようにも見ていることしかできなかった。
勿論あまり威力は高くなさそうだったのでシズクはすぐに立ち上がってきたが、その時のシズクの目に違和感を感じた。
あの純粋な青い瞳が、少しばかり…濁っていた。
紫、いや、青紫とでも言うのだろうか。少し赤の混じった、そんな瞳になっていた。それでズバットも怯えたのだろう。避ける暇も無く、その後一瞬で倒されている。まだまだ謎が多い少女だ。
シズクの毒を回復させるべく、布袋に食用として常備していたモモンの実を取り出して、俺は急いで彼女を追った。