#7 初勝利のその味は
この状況で、何か打開策が見つかるはずもない。
正面にいるズバットと対峙しながら、私はそんなことを考えてしまう。周りにふよふよ浮いているドガースも気にしながらの戦いだから、まともに狙い打つことなんてできない。
打ちまくる電気ショックも、威力が落ちているような気もするし、体力もそろそろ限界だ。
なのに二匹はひらひら避け続けるだけで、すごく手間取る。
と、ふいをついたようにズバットが私の横から攻撃を仕掛けてくる。避けるが、この隙を狙ったように今度はドガースが体当たりを繰り出してきた。対応できない────と思った時、何者かの手によってドガースが吹っ飛ばされた。
「っ…何だあ!?」
ドガースの視線の先にいた者。それは、ケンジだった。堂々と立ち、冷たい怒りを湛えた目で、ドガースを見ている。
「ケッてめえか。何だ、戦う気になったのか?弱虫くんよお」
この挑発に乗るだろうとドガースはニヤニヤしているが、ケンジはただこう受け答える。
「俺が弱虫なのは知っている。だからこそ変えるために立ち向かうんだ。…シズク、さっきは一匹で戦わせちゃってごめん。今度は、俺も戦うから」
「何言ってんの。来るなら早く来なさいよ。馬鹿」
ケンジがにっと笑って、ドガースに向かう。
「来いよ。これからは二対二だ。存分に、やらせてもらうよ」
ケンジ対ドガース。ということは、私が狙うべき相手はズバットか。
「あ、そうだ。シズク、これ」
その時、ケンジが自分の首に掛かっている布袋から、青くて丸い何かを取り出し、私に向かって投げた。
それはどうやら、木の実のようだ。でも青い木の実なんて見たことがない。
「それはオレンの実っていって、体力の回復を促す作用があるんだ」
なるほど。確かに体力は無に等しかったからそれはありがたい。私は、わかったと心の中でケンジに頷くと、再びズバットを見つめる。
「そいつをみすみす、食わせるわけねえだろ!」
そう声を張り上げて、ズバットは私に突っ込んでくる。私は、オレンの実をかじりながら飛び上がってそれを避けた。
確かに、荒かった息も元に戻り、戦いを始めた時のように体力が回復した。
「ちっ…」
舌打ちをしたズバットに向けて、私はあちこちに回って惑わしながら電気ショックを放つ。ズバットは避け損ない、羽にかすった。ターゲットが絞られたことで、狙いやすい。体力が回復しても技の威力が落ちたままなのには疑問を感じたが、今はいいか。
「くそっ…」
徐にズバットは毒針を飛ばし、私はそれを屈んで避ける。
しかしズバットは傷ついていない方の羽で私の体を突き飛ばした。尻尾でガードしたが勢いで吹っ飛ばされてしまい、その上毒針も襲いかかる。空中でどうこうできるものではなく、その内一本が肩に刺さってしまう。私は近くの水溜まりに落下した。
「へへっ所詮雑魚じゃねえか」
ズバットの見下した声が聞こえた。
雑魚…雑魚?私が?私が雑魚ならあんたは何だ?
怒りで体に回り始めた毒に気付かず、私は肩に刺さっていた針を引き抜いて、水滴を滴らせながら立ち上がった。
「あんた達…許さない」
目が仄かに、暖かくなったような気がした。
「ひっ…」
ズバットは怯えたような声を出す。
電気袋から電気が弾け、私はズバットを睨み付ける。
「なっ…なん…」
「許さない」
次の瞬間私はズバットの真下に潜り込み、その胴体を狙って電気ショックを放った。
電気が体を貫き、ズバットは声にならない悲鳴を上げて地に落ちた。
丁度その時、ケンジがドガースを噛みつくで仕留めた。
地面に伏せたその二匹を見て、私は心の中でざまあみろ、と嗤っていた。