#5 海岸の洞窟奥底
ケンジは、あのズバットに突き飛ばされ、一瞬でへたりこんでしまった。見る限り役に立ちそうもない。この二匹は私が相手をした方が良さそうだ。
「あんた達、そいつを倒してもまだ私がいるわよ。一人倒したからってヘラヘラしてんじゃないわよ…弱虫」
私は今考え付く限り見下した言葉を放つ。案の定二匹はその挑発に乗り、ケンジから離れて私に近づいてくる。
「ケッ偉そうな口きいてんじゃねえよ。対して強そうにも見えねえが…お前に何ができるってんだ」
何を聞いているんだ、このドガースは。その問いに対する答えは一つしかない。答えはもう、決まっているに等しいではないか。
「…あんた達を倒すこと…だけど?」
「へっ言うじゃねえか」
言い捨てたズバットは、石の欠片を自分の後ろに投げ捨てた。
「そこまで言うなら…腕ずくでかかってこいよな!」
私も実際そう思っていたところだ。────受けて立つ。それが、戦闘の合図だったようだ。
私はズバットに向けて電気ショックを放つ。相手は飛行タイプが入っているから、当たればそれなりのダメージを与えられる筈だ。しかし避けられた。もつ一発打っても、ヒラリヒラリと受け流されてしまう。私の攻撃を軽々と避けたズバットは、余裕の表情で、口から何か小さくて細い物を飛ばす。何だかわからないが、攻撃であるには変わらないだろう。私は背中を反らして避ける。
地面に突き刺さったその“何か”は、シュウシュウと怪しい煙を出す。毒針だ。当たらなくてよかった。そのまま腕を軸に起き上がると、もう一度電気ショックを打つために態勢を整える───が。
「俺もいること、忘れんなよ」
蔑んだ声と共に背後からドガースが体当たりを仕掛けてきた。完全にドガースの存在を忘れていた私はふいをつかれ、その攻撃もろに受けてしまった。吹っ飛ばされて岩にぶち当たる。腹部がじんじん痛んでくる。流石に二対一だと状況が不利だ。しかも両方共飛んでいる訳だから、ここに来るまでのダンジョンで使った、溜まった水を利用する攻撃もできない。
ならば、どうするか?
自力で耐えて、そして仕留めるしかない。立ち上がるが、先程もろに食らったドガースの攻撃にかなり体力を削がれた気がする。実際、体も重い。なんとか力を振り絞って蓄電を始める。その電気で電気ショックを乱射するが、一向に当たってくれない。せめてターゲットが一つに特定できればいいんだけど。
そんな望みも虚しく、二匹は次々に攻撃を繰り出してくる。策を考えながら走り回って避けるが、体力を消耗するだけになってしまう。と、ドガースがいきなり、溜め込んでいた何かを吹き出すような仕草をした。ドガースの口から、黒々としたガスが排出されて────
「ケッスモッグだ。ここは室内…お前ら二匹共毒ガスに飲まれちまえ!」
スモッグ。そうだ。風もない室内だと、ガスが掻き消される可能性も低い。このまま飲み込まれたらおしまいだ。
「ケンジ、ちょっと息止めてて。あれ吸い込んだら終わるわよ」
「え…うん」
ケンジが、手でしっかり鼻と口を押さえたことを確認すると、私は前を向く。ドガースの吐いたスモッグは、ズバットの起こす風に煽られ、予想よりも早くこちらへ迫ってきた。
飲み込まれそう…でも、目を瞑ってはいけない。私はどこを狙うともなく、電気ショックを放ち、その爆風でスモッグを掻き消した。煙の向こうに見えた二匹の顔は、いかにも“つまんねーの”と言いたげな表情だった。
「ナメてんじゃないわよ。私は早々に倒れる弱者じゃないから」
「へへっ…じゃあ早く倒してみろよな」
そのムカつく口、今すぐ塞いでやる。そんな意思を込めて、私はもう一度敵を見据えた。