#38 謎のポケモン
ギルナを倒し終え、怯えながらも私達のことを尊敬の目で見つめていたルリアを連れて山の麓まで戻る。傷の応急処置は済み、ギルド内でオレンを掛けたりすれば治るだろう、と判断した。麓にはすでに、ラルが呼んでいた警察が到着していて、ギルナの身柄を引き渡す。到着していた警察は保安官だというジバコイルのジガイ・カルマール、その部下らしきコイルが三匹程だ。ギルナはすぐにコイル達に囲まれて、逃げ場の無い状態になる。ジガイ保安官は私達の方を向き、改めて礼を言った。
「コノ度ハ本当ニアリガトウゴザイマス。オカゲデオ尋ネ者ヲ逮捕スルコトガデキマシタ。賞金ハギルドニ送ッテオキマスノデ。デハ、マタ」
聞き取りにくい片言で話すジガイの言葉をなんとか聞き取り、連れていかれるギルナを見送る。ギルナは、私達に負けたのがよほど悔しいのか、さっきから暗い雰囲気を撒き散らしていた。おかげでこちらも憂鬱になりそうだったので、離れられたのでよかった。
「ルリア、怪我は無い?大丈夫だったか?」
「うん、大丈夫」
心配するラルの声。それに、いつものように柔らかい声で返すルリア。その光景に、私も少しだけ微笑む。何を思ったか、笑みを漏らした時ケンジに頭をぽんぽん、と撫でられた。訳がわからなさすぎるし照れ臭いし頭に来たので今までよりも強く尻尾で叩く。それでもケンジは、何故だか嬉しそうなのであった。
*
「じゃあ、帰ろっか。お母さんも心配してるよ」
「うん!ありがとう、ケンジさん、シズクさん!」
「本当にありがとうございます!」
トレジャータウンへと戻り、ラルとルリアを家まで付き添って帰る。ラルとルリアはまたお礼を言って、その場を後にする。空を見ると、もう日が沈んでいた為、帰り道へと足を踏み出す。
そして、トレジャータウンとギルドを繋ぐ十字路の境目に佇んでいる岩の周りで、何やら作業を繰り返しているであろうポケモンを見つけたのだ。不審者?それとも、街の住人か?そのポケモンの種族は確かパッチール。さっきからずっと岩の周りをぐるぐると回り、寸法を測るだの何だのしていた。明らかにこれは不審者の類だ。見えないところで意見が一致した私達は、急いでその場を去ることにした。しかし、運の悪いことに目が合ってしまった。
「おや?あなた達は……もしや、探検隊?」
「うん、そうだけど。君はそこで何してるの?」
見ず知らずの他人に素性を明かすな、とケンジを睨むが気付いていない様で。相手がもし極悪人だったりしたらどうするんだ。このパッチールからはそんな雰囲気は感じられないが、ついさっきギルナに騙されたばかりなのだ。油断出来ず、信じることもできない。
「おお、そうですか。実はですねえ、この辺りに何か施設を作ろうと思って……いえいえ、これはまだ秘密です。ですが、この辺りには滞在していると思いますので以後よろしくお願いします〜。私、パッチールのサマル・マーリアと申します」
快く自己紹介をするパッチール、もといサマル。何をしようとしているのか不明だが、悪い感じはしなかった。“でもまだ少し怪しい”ではなく、“完全”に。
「へえ、そっか。頑張ってね。俺は探検隊チーム『ガーネット』のケンジ・リウェルジーア。で、隣のピカチュウがシズク・サファイア」
「だから勝手に素性明かさないで」
「ケンジさんとシズクさんですね?はい、よろしくお願いします」
サマルは私の瞳を時折チラチラと見ながらも、それ以上追及しなかった。それはそれでありがたい。早々に話を切り上げて、私達はギルドへと帰還した。
「なんだか、変なポケモンだったよね?パッチールのサマル。悪い感じはしないけど」
「ま、同感ね。何すんのか全然わかんないけど」