#37 迸る稲光
「へっ、なかなかいい動きしやがるじゃねえか」
ギルナの繰り出す『はたく』を、ひらりひらりとかわす。口調は余裕そうだが、内心は焦っているのだろう。にやつく笑みの中にイライラが見える。俺達だって、そう簡単に倒される訳にはいかないのだ。先程の震えだって、動けばもう収まった。シズクが電気ショックを繰り出すと、運良くその攻撃の範囲に入っていたギルナの腕に擦った。想像以上の痺れの様でギルナは一瞬顔をしかめる。その隙を、見逃す俺達ではなかった。
「シズク!」
「……んっ!」
シズクが電光石火でギルナに突撃、そのまま手をギルナの胴体に当て電気を流そうとする。俺は逆に、背後をはっけいで狙う。打ち合わせていないが、なかなかいい動きだった。そう、思ったのだが。
「っ……小癪な!」
俺が背後に到達する前に、ギルナが近づいてくるシズクの動きを『サイコキネシス』で止めた。突然のことで、俺も思わず歩を緩めてしまう。
「シズク!?」
「あんた早く!!」
シズクの言葉に我に返り再び走り出すが、決して無視できない状態になる。シズクの動きを止めたギルナは、そのまま『サイコキネシス』で持ち上げ始めた。シズクは抵抗してところ構わず電気ショックを打ち出すが念力によってねじ曲げられ、消し去られてしまう。
「このやろう、やってくれたな!」
痺れたように上手く動けなさそうな腕は放っておき、ギルナは逆の腕でシズクを殴ろうとする。もうギルナの背後を狙うより、向こうを援護した方がいい。殴られそうになったシズクはその拳を尻尾で止め、跳ね返した。いらぬ心配か……しかしそうでも無さそうで。ギルナは近距離の物理は命中率が低いと判断すると、浮かしたシズクを近くの岩壁に思いっきりぶつけた。轟音と、岩がガラガラと崩れ落ちる音を聞き、俺はすぐさま電光石火で二匹の元へ近づく。仁王立ちしているギルナは、足元に倒れているシズクを、煌めく爪を伴う『はたく』で仕留めようとしていた。そうはさせるか、と振り下げられた腕を蹴り、攻撃の軌道を逸らす。
「くっ……」
「シズク、オレン!食べてて!」
岩壁にぶつけられたのだから、深い傷は負っているだろう。治療もしたいが、まずは目の前の敵を倒すことに集中する。少し、自分の力でこいつを追い詰めてみよう。シズクが復活するまで、一人で。もう誰かに頼るのはやめよう。
手に構えるはっけいで、空気を凪ぎ払う様にギルナに迫る。避けられるがそれは想定内。払った手でもう一度ギルナを狙う。少しだけだが、ギルナに当たったのを感じる。よし、行ける。
ギルナの『はたく』を避け二転三転しながらも遠距離から敵を見据える。装備するは鉄の棘。遠距離が苦手な俺には、もはや必需品といえる。電光石火で目眩ましし、様子を見て鉄の棘を投げる。ギルナには避けられてしまう。本当に、遠距離技が使えたらいいのに。電光石火の勢いで相手の懐に飛び込もうとするが、その前に、念力によって体が締め付けられる感覚に襲われる。前を見るとにやけたギルナがそこにいた。念力から解放された瞬間、ギルナが鋭い爪で俺を狙う。ふらふら、と足が縺れ、頭ではわかっているのに避けられない。まともに『はたく』を受けてしまい、ギルナの爪が腹を抉る。あまりの痛みに膝を付くが、まだ、動ける。はっけいでギルナの足を叩き転ばせる。だがギルナはシズクを倒したあの『サイコキネシス』で俺を持ち上げ、地面に叩きつけた。ガコォン、と音が響くがギルナの猛進は止まらなかった。俺の体を壁や岩にぶつけまくる。抵抗しようにも、出来ない。ぼやける意識の中で一筋の閃光が飛び、ギルナの体を貫いた。爆音が響き俺の体は解放され、近くの岩に寄りかかる。そして、今ギルナに最高威力の電気ショックを浴びせた彼女の名を呼んだ。
「遅いよ………シズク」
「うっさいわね。まあ油断したのは悪かったけど」
オレンの実により、シズクは完全に復活していた。俺と一言交えると、改めてギルナを見据える。
「やってくれたわね、あんた」
シズクの頬から飛び出た電気が辺りを刺激し、その場の雰囲気を張り詰めさせた。思わず目を見張るギルナへシズクは近づき、力の限り電気ショックを浴びせた。雷鳴が走り、辺りが一瞬黄金色に光る。やっぱりシズク頼りか。でもこれからもっと、強くなってみせよう。
決着は、ついた。