#36 戦闘開始
「言うことを聞かないと……痛い目に合わせるぞ!」
「た……助けてっ!」
ルリアとギルナがいた場所に辿り着いた時、その光景は私が“夢”で見たものと全く同じだった。同じ場所、同じ風景、同じ台詞。気味が悪いほどに、全てが同じだった。二匹のいる場所へ私とケンジは全速力で駆け付ける。
「やめろ、ギルナ!!」
「ルリア、そいつから離れて!」
怯えたようにガタガタと震え、すでに涙目のルリアは私の言うとおり一歩、二歩ギルナから退いた。私達はルリアを庇うような形で到着する。
「なっ、お前らトレジャータウンの……まさか、探検隊!?」
「そ、そうだ!俺達は探検隊チームガーネット!」
威嚇か何だか、叫んだケンジの声も震えている。膝も震え、呼吸も荒い。狂気を剥き出しにしたお尋ね者と対峙するのはこれで二回目だ。なのにこいつのことだから、またネガティブ思考に陥っていたりするのだろうか。しっかりしろ、との意味も込めて尻尾でケンジの足を叩く。するとまた震え出してしまった。仕様もない、臆病者だ。
先程までは警戒していたギルナは、震えているケンジを見て、わずかだが余裕そうな表情に覗かせる。
「……お前ら、探検隊といえど……まだ新米だな?」
図星を突かれ、ケンジは黙ってしまった。確かに私達は新米だ。でもだからといって……弱いわけではない。時折ちらつく目の暖かさ。こいつはもう許さない、と本能が叫んでいた。
「お前らの言うとおり、俺はお尋ね者だよ。でもお前らに、俺を捕まえることができるのか?このお尋ね者をよお」
「……いや。やってやる。捕まえてやるよ!お前みたいな悪い奴なんかに、負けられる訳がないだろう!!」
「今まで色んな探検隊に追われてきた俺だ。お前らなんかに倒されたら、自首してやるよお!!」
「…その言葉、忘れんじゃないわよ」
どっちみち私達が勝ったら、ギルナは自由でいられない。ルリアを守るためにも、馬鹿にされたこいつに、鉄槌を食らわせてやるためにも、私は絶対に、負けたくない。
「俺に……勝ってみろっ!」
突如ギルナが手を振り下ろし、その獰猛な爪を煌めかせた。瞬時に避けるがその爪は地面を抉る。……もし、当たったらどうする?それは、その時だ。
「ごめん、シズク。俺が臆病なせいで……シズクまでなめられちゃったみたいで」
「馬鹿。そんなこと気にしないわよ。どっちにしろあいつは倒すから」
ケンジは強く頷く。もうこいつは、出会った頃のように、いつまでも臆病風に吹かれているような奴ではない。挫けることもある。でも今はもう、それでも立ち上がれている。私はそんなケンジと、一緒に探検隊をやっていけるほど、この数日間で変われているのか。何だか置いていかれているような、そんな気がする。
「…………さあ、始めようか」
ケンジの言葉に倣うように挑戦的にギルナを見据える。私の目がまた一瞬紫に光り、まるでそれに共鳴する様に日の光を浴びたオパールがきらりと輝く。