#34 あいつの裏は
何かよくわからないことがありながらも、俺達はギルドに帰って来た。シズクが、おかしな夢のような物を見たようで、今も気になっていように黙りこくっている。彼女の話が信じにくいということは本音だが、彼女のことを信じる、と言った手前ほんの少しだが信じられないことにもどかしさを感じた。
ギルドの地下一階、お尋ね者ポスター前にベントゥがいて、俺達を待っていた。姿を見かけるとベントゥはジャンプしたり四足ではやりにくい、手を振る、という動作を出来る限り行っていた。俺が「そんなにアピールしなくても大丈夫だよ」と言うまでやめなかった。
「準備は完了したんでゲスね?じゃあ一緒にお尋ね者を選ぶでゲス!」
ベントゥ、シズクとお尋ね者ポスターを眺め始める。だがランクが低かろうがなんだろうが誰も強そうな、凶悪そうな顔をしていた。この中から良さげなポケモンを選ぶ、なんて俺達だけじゃ無理だったかもしれない。ベントゥがいてよかった。
「これ、なんてどうでゲスかね?」
下の方にある紙を差すベントゥの指先を見てみる。そのポケモンはドードリオで、罪名は『器物損害、万引き』である。ランクはEだ。なるほど、確かにチンピラの様な感じがする。何も全員が“世紀の極悪犯罪者”ではないようで。少し安心する。
「ん、じゃあこれでいいんじゃないかしら………」
と、シズクが手を伸ばしてその依頼の紙を取ろうとした時である。急に辺りにサイレンのようなけたたましい音が鳴り響き始めた。掲示板上の赤いランプもチカチカと光っている。
「え、なに?」
「嗚呼、情報の更新でゲスよ」
話している内にも『情報を更新します!危ないですので下がってください!』と声が響き、掲示板が音を立てて裏側へと回転した。紙の貼ってある部分は見えなくなり、一度も日の当たったことがなさそうな木の面が見える。
「依頼掲示板やお尋ね者ポスターは回転式になっていて、裏でダグトリオのベコニンが情報を書き換えるんでゲス。ギルドとして情報を常に最新にしておくのは義務ですからね」
しばらくしてまた『更新終了!』と声がすると掲示板が表側を向き、更新された情報が姿を現した。先程よりも紙の枚数が増えている。もう一度選び直そうとベントゥは掲示板に顔を近付けた。シズクはある一点を睨んでいた。俺も、その部分しか目に入らない。情報が更新され、お尋ね者ポスターが見えたときから多分わかっていた。あの特徴のある種族だ、目に入らない訳かなかった。スリープの、ギルナだ。ルリアとラルと共にいたあのポケモン。フルネームはギルナ・ディテアリー、罪名は『誘拐、詐欺』など。紛れもない、あいつだ。
「……シズク」
「わかってる」
返事を返したシズクの目は仄かに青紫に光る。このままでは、ルリアが危ない。ギルナにやりたい放題させられる訳はない。シズクと顔を見合せ、軽く頷くと急いで外へと飛び出る。
「え!?どうしたんでゲスか!?というか………このお尋ね者、スリープとかいうポケモン……そいつのランクは……!」
ベントゥの声は右から左へと流し、何も頭に入らない。ただ、シズクを疑ってごめん、とそういう思いのみが脳内を巡っていた。