#31 二匹の兄弟
「え…どうしたの?」
「後輩が出来たんで感動してるんでゲスよ………。君達が来るまで自分が一番の新入りだったもんで。………ううっ、ぐすっ、じゃあ広場へ案内するでゲスね」
ひとしきり泣いて、ベントゥは地上に通じる梯子に足を乗せた。私達もそれに続く。光溢れる地上に出ると、ベントゥは十字路の左側へ歩を進めた。そちらには街があると聞いていたが、よくわからないため全く利用していない。あまり他人と関わりたくなかった、というのもあったのかもしれないが無視する。
前方に広がる街は、たくさんのポケモン達、多くの建物で溢れていた。あちこちから声が聞こえて混乱する。それほど混雑している訳でもないが明らかにわいわい、という、賑やかな感じだ。洒落た石畳が敷き詰められた広場らしき場所に着くと、ベントゥは辺りを見回した。
「ここがトレジャータウン。ギルドの弟子達も多く利用している場所でゲス。この辺で暮らしていたのなら大体はわかるでゲスかね?」
「うん、知っているよ」
「じゃあ大丈夫でゲスね。準備が終わったらお尋ね者掲示板の前で待ってるでゲス。あっしも、お尋ね者選ぶの手伝うでゲスから」
何故か胸を張るベントゥに礼を言うと、ベントゥは早々に去っていった。ぽつん、と賑やかな広場の真ん中に取り残される。
「ええと……じゃあ色々見て回ろっか?」
「そうね」
それほど広い街でも無いようで、お店といえるお店も数えられるくらいしかなかった。ヨマワルのトイ・ハークラが営む、若干怪しすぎる銀行は、ケンジが以前利用していたようで、ケンジの口座名でお金を預けた。ここに預けれは百パーセント盗られることは無いそうだが信じろと言う方が無理だ。もし変な真似をしたら一瞬で叩き潰そう。
ガルーラのダルナ・ドゥーリが店の前にいる倉庫では、ここ二週間で貰ったお礼の品々で探検にはあまり使わないだろう、という物を預けた。後から聞いたがバネブーから貰ったお礼の薬品はリゾチウムだとかプロムヘキシンだとか、体に悪そうな名前だった。使うことはまず無いと思う。
「さて、結構揃ったかな………あと何がいる?」
「オレンの実、もっと欲しいわ」
トレジャーバッグの中を見ながらケンジの問いにそう答えると、ケンジは「じゃあ」といって緑色のお店前に連れてきた。カウンターにいるのは色ちがいと普通のカクレオン二匹だ。
「あ!ケンジさんじゃないですか!で、そちらは……嗚呼、それじゃあ探検隊に入れたんですね?」
「うん、やっとだよ。あ、こっちは俺のチームメイトのシズク。シズク、こっちはカクレオンの兄弟で、緑色の方がグーン、紫色がピールだよ」
「………よろしく」
「はいっ!よろしくお願いします〜。シズクさん!」
何て言うか、ここらのポケモンはハイテンションが多い気がする。苦手だ。
「ええと……じゃあ、オレンの実一つ貰える?」
「はい、只今!」
グーンは裏の棚からオレンの実を 一つ取り出してカウンターに置く。ケンジはお金を払ってからオレンをバッグの中に入れた。しばらくそこで談話していると、横の方から「グーンさん」と、可愛らしい幼げな声が聞こえてきた。
「おお、ラルちゃんにルリアちゃん!」
「グーンさん、林檎下さい!」
ラルと呼ばれたマリルと、ルリアと呼ばれたルリリがそこにいた。グーンは嬉しそうに林檎を取りだし、二匹に渡す。
「ありがとうございます!」
「まいどあり〜♪いつも偉いねえ」
林檎を受け取ると二匹は小走りで去っていった。グーンは笑顔でその後ろ姿を見送る。あの二匹はこのトレジャータウンの住人だろうか。見たところ常連の様だ。
「あの二匹はパール兄弟でね、お兄ちゃんのラルちゃん、弟のルリアちゃんが、体調の悪いお母さんの代わりにいつもこうやって買い物に来てくれるんですよ。まだ幼いのに偉いですよね〜」
グーンの話を聞きながら、ケンジは去っていく二匹を穏やかな笑顔で見つめている。
「うん、偉いし、それに可愛いよね。シズク」
「まあ、そうね」
他人に満面の笑みを浮かべるケンジを恨めしく思ったのは多分何かの間違いだ。