#30 お尋ね者の依頼
初依頼からおよそ二週間、俺達は一日に大量の依頼をこなしていった。ギルドで許されている、一日に受けられる依頼量は最大八件らしく、俺達は二週間ともその上限八件を着々とこなした。もっとレベルをあげたい、というシズクからの要請だ。俺は一日くらい休む日もあっていいんじゃないか、と思ったがそういう分けにはいかなかった。入門して二週間弱、ギルドの生活にも慣れてきた。他のメンバーとも臆面なく話せるようになったし、フライとはよく話すようになった。最初はサンを嫌っていたであろうシズクもだんだんと仲良くなり、二匹が話していると男性陣のみでなく他の女性陣さえも微笑ましくその光景を眺めるようになったのだ。
大量の依頼のおかげで、俺は“はっけい”という強力な格闘タイプの技を覚え、シズクの電気ショックもレベルが低めならば地面タイプのポケモンも一発で戦闘不能にすることができていた。かなり強くなったと思う。少しながら、それは自分でも感じることができた。
「今日の依頼は何にする?なんせ八件選ばなくちゃいけないから毎日大変だよねー」
「まあね。でも強くなるならこのくらいするもんなんじゃないの?」
びっしりと紙の張られた掲示板の前で、俺らは今日も依頼内容を吟味していた。大体は落し物の回収や道具を取って来てほしい、だとか救助依頼ばかりだ。探検をしたい、という俺の夢は早くに潰えている。今俺達に許されているランクはE、Dランク、場所は海岸の洞窟か湿った岩場。Dランクの依頼を眺めていると、後ろから柔らかい何かにちょんちょん、と肩を叩かれた。振り向いたら後ろにはラペットがいる。警戒心剥き出しにして振り向いたシズクは、電気袋から微かに電気を飛ばしていた。もう少し仲間を信じてほしいものだ、と少し悲しくなる。
「ラペット?どうしたの?」
「お前達最近すごい活躍様だからな、今度は、こっちの依頼をやってもらおうと思う」
ラペットの手招きで、俺達は依頼掲示板の隣の場所に移動した。あまり変わらない掲示板だが、貼られた紙には様々なポケモンの顔が書かれていた。掲示板の前にはサン達エメラルドがいる。
「………こいつら、お尋ね者ね」
ポケモンの顔と、隅に書かれたランクを表すアルファベット、そして依頼内容を見ながらシズクが呟いた。ラペットは頷く。
「そうだ、こいつらはお尋ね者。皆指名手配されているポケモンで、ランクが高い方が懸賞金も高いんだ」
見比べてみると、Eランクのポケモンの懸賞金は1000ポケと安いのに対しSランクやAランクといったポケモンの懸賞金は3000ポケだ。いや、1000ポケも十分高いと思うけれど。
「うん、まあケンジ達みたいな新人さんは、E、Dランクのお尋ね者をお勧めするよ。いきなりAランクとかにいっても、前回みたいなことになっちゃうかもしれないもんね」
と、横からサンが笑顔でアドバイスをしてきた。
「嗚呼、サンの言うとおりだ。お前達はこの中から、弱そうなポケモンを見つけて懲らしめてくれよ」
「弱そうって………弱いもの虐めは気が引けるわ」
早速お尋ね者ポスターを眺めてシズクが言った。ここ二週間の仕事量でかなりレベルが高くなってはいると思うからそう考えるのも必然的だ。
「さて、戦うには準備が必要だな。誰かにここらの街の施設を案内させようか…………サン、フライ、これから仕事か?」
「うん、依頼五件受けちゃったから今から行かないと間に合わないかも」
「そうか。じゃあ…………ベントゥ!ベントゥいるか!?」
ラペットが梯子の下に向けて大きく声を張り上げた。下からは「はいでゲス!」という声が聞こえ、やがてふくよかな体を揺らしながらビッパのベントゥが姿を現した。
「おお、ベントゥ♪こいつらは知ってるよな、最近入った新入りだ。広場にこいつらを案内してやれ」
「はい!了解しました!」
ビッパのベントゥは知っている。最初自己紹介で、「〜でゲス」という語尾が印象に残っているからだ。よろしくお願いします、と頭を下げると、何故かベントゥはぽろぽろと涙をこぼし始めた。サンとフライは「よかったな、頑張れよ」というようにベントゥの肩をぽん、と叩くと出口に向かって歩き去っていく。ベントゥの涙は止まらず、俺達は焦るばかりだった。