#29 眠る前に
依頼から帰った来てお礼を貰い、夕食まで部屋で待機、ということになった。鈴の音が鳴ったら夕食らしい。シズクの火傷は応急処置によって軽くなってきていて、心配することもない、と言われた。俺は軽傷だった為一晩眠れば治るようだ。
ラペットに9割の報酬を取り上げられた時、また、シズクの目が紫色に染まった。お金を取られたのは確かに理不尽だと感じたがシズクのキレようには驚いた。あの紫色の瞳で睨まれたラペットは相当ビビっていたと思う。俺だってあんな形相で睨まれたら咄嗟に攻撃、もしくは土下座するかもしれない。当のシズクは気にしているのか否か。あまり感情を表に出さないシズクだから内情が読み取れない。
考えに耽っていたらちりんちりん、と外で鈴の音がした。夕食か、と出ていき食堂までの案内の為部屋の前にいたサンと一緒に食堂まで向かった。笑顔で華やかに話すサンを見つめているとシズクに叩かれた。ごめん、シズク。
食堂は広くて机の上には大量の料理が乗せられていた。ラペットの合図で全員が料理に飛び付いた。まるで戦いだ。俺も思いっきり放り込むがシズクは木の実を少しずつ回収していた。よく見れば状態異常回復の木の実など探検に役立つ物も数多く揃っていた。確かに取っておいた方が後々楽だと思ったが俺はシズク程几帳面ではなかった。
夕食を食べ終え部屋に戻るとシズクは早々にベッドに潜る。俺は少しだけ休んでから毛布の中に入った。ランプを消した部屋の明かりは月だけになる。明るい、けれどどこか暗い光だった。
「……ねえ、シズク」
「何」
「あの………えっと」
あの瞳はついて、聞きたかった。シズクはそのことについて何か知っているのか。それ以前に目が変色していることに気付いているのか。
「えっと………湿った岩場で、シズクの目が紫色になってたんだけど……気付いてた?」
「……そう。そうなってたのね。微かに瞳が暖かくなった気がしたのよ。紫に、なってたのね」
「気付いてなかった?」
「まあ。………ケンジは気味悪いって思わない?目の色が変わるピカチュウ、なんて」
「え!?いや全然!そんなこと気にする訳ないじゃん!」
シズクはシズクなりに、その事実を知ったら知ったで思い詰めたのかもしれない。気まずくなっちゃったかな、と俺は慌てて否定した。するとシズクが、どこか笑ったように見えた。シズクの笑ったところなんて見たの初めてかもしれない。今日で出会って二日、か。数えてみれは少ない日数だけど、この二日で俺はどこか変われただろうか。シズクは多分変われてるんじゃないかな。少し位は俺のことを考えてくれてるのかどうか。
「困ったこととか、心配事とかあったら言ってね。俺達は仲間なんだからさ」
返事は無かったけれどわかってくれたかな。いつかシズクが完全に俺に心を許してくれることを待ち望む。
「じゃ、俺もうそろそろ寝るね。おやすみ」
「……ん」
一応そんなことを言って睡魔の成すがままにする。
「………私、は」
呟かれた言葉の先はもう聞こえない。
*
あいつは私のことを『仲間』だと言った。それが嬉しかったのかどうかはわからない。でもケンジと出会った頃と心境の変化なんてまるで無い。でも私のことを信じてくれる、と言ってくれたのは実は嬉しかったのかもしれない。あいつは優しい奴だ、それはわかっているけどうっとおしかった。あいつは眠ったようで聞いていなかったみたいだけれど言いたいことは言った。もう今は、眠るしかない。脇に置いておいたオパールのペンダントを握り締め、目を瞑る。瞼の裏に一瞬だけ閃いた青とオパールの冷たさが身に沁みた。