#28 執着心
「それにしても二匹…………強いのね」
湿った岩場から帰還後、ふいに口をついて言葉が滑り出た。まあ聞きたかったことだから良いんだけど。帰り際サンのバッグに入っていたチーゴの実、とかいう火傷を治す木の実の果汁をかけてもらいあのギャロップから受けた火傷を治した。跡が残らなくてよかったと思う。
「えへへ、そうかなあ。まあでも強いのはフライだよ〜。私なんて援護ばっかだし」
サンは満面の笑みを見せて話す。嗚呼、可愛いな。私もこんな素直になれたら。こんな笑顔を見せられたら。何か変わっていたのかな。なんで私はこんなにも頑固なのだろう。
「サンも強いよ。体当たりとかすごい威力強いしさ」
「そうだあのさサン、どうやって天候を雨とか晴れとか……変えられたの?」
ケンジも唐突に聞く。私も、そうだ、それが聞きたかった。サンの答えに耳を傾けるが、返答には落胆した。
「ふふ、それは秘密♪」
「え、えー……」
意地悪そうに笑みを漏らしサンは星を飛ばしそうな程軽快にウィンクをした。うん、すごく、女の子らしいな。少しだけ、いいなあ、とその性格を羨ましく思ってしまう。でもケンジがサンを見てはにかんだ笑みを浮かべたのには頭に来た。とりあえず睨んでおく。
見張り穴を通過し地下一階の掲示板がある場所へ行くと、そこでラペットが待っているのが目に入った。ラペットは私達の姿を見ると嬉しそうな顔をした。傍にいる真珠無しのバネブーは依頼人だろうか。
「おぉ、お前達待ってたぞ。こちらが依頼人だ」
ラペットは羽でバネブーを指差す。バネブーはぺこり、とお辞儀をして一見礼儀正しく見えたが私が差し出した真珠を見ると一変した。真珠を頭に乗せてぴょんぴょん飛び回り、はっちゃけた様子で頭を下げまくる始末。ケンジとラペットの制止でようやく収まった。お礼に貰ったのはよくわからない薬品みたいな物と布袋に入ったお金であった。100ポケ硬貨が二十枚、よって2000ポケだ。
「ええ!?こんなに貰っていいの!?」
「はい、もちろん!真珠に比べれば安いもんですよ」
相変わらずニコニコしていたバネブーはお礼を渡すと早々に帰っていった。お金の入った袋を手に、ケンジは『信じられない』みたいな顔をしていた。
「よくやったな、お前達。でも、これは没収だ♪報酬のお金はギルドに9割寄付すること、それがルールだ。お前達への報酬は………このくらいだな」
そんな喜びに水を差すように満面の笑みのラペットがケンジの手から布袋を引ったくった。そして中から出した二枚のポケ硬貨をケンジの手のひらに乗せる。
「はっ!?」
「え?」
あまりの理不尽。思わず声をあげてしまう。ラペットは布袋を覗き込み何やらにやにやしている始末だ。なんでそんなルールがあるんだ。訳がわからない。そして悪びれもせずお金を満足そうに見ているラペットに腹が立つ。
「訳わかんない………!どういう意味よ!!」
ぼお、とまた目が暖かくなる。湿った岩場で感じたものと同じだ。ラペットに掴みかかろうとするとケンジに体を押さえられた。
「お、落ち着いてシズク!何もそこまでキレることないでしょ!?」
そうだ、そこまでキレることはない。たかがお金で理性を失うなんて私らしくもない。もしかして記憶を失う前の私はお金に汚かったのかな、と皮肉混じりに考えた。
「ま、全く………とりあえずこれはギルドで預かるからな!」
怒ってるような、少し恐怖を感じているような声と態度でラペットは梯子を下りていった。
「……ごめん」
「え!?い、いいよ、別に!」
徐に謝ると今度はケンジが焦って返答した。こいつもこいつで何なんだか。
「俺は全然平気!怒ってるシズクも可愛かったよ!」
「はあっ!?何なのあんた!?何いってんの!?」
力任せにケンジを叩いていると横でサンとフライがにやにやしているのが目に入る。
「いやあ、これはツンデレってやつですね?」
「照れてるんだね、シズク〜」
「なっ………!」
何だか訳がわからない。稼いだお金は取られるしケンジはどこか嬉しそうだし、サンとフライはニヤニヤしているし。
なんだかイライラする。