#24 湿った岩場
「…着いたけど…」
ギルドのある街から数分歩いた場所にあるダンジョン、湿った岩場。どうやらこの岩場が、バネブーの真珠が捨てられていた岩場なのだという。大小様々な岩があちこちにごろごろと転がっていて、足元には苔が生えている。薄い霧のせいで前の方が見えにくくなっているし、湿気が気持ち悪い。霧と大きな岩、敵ポケモンが襲撃してくるにはもってこいの地形なのかもしれない。
「バネブーの依頼だとここのB7階に真珠があるらしいね。よし、じゃあ行ってみようか」
「うん、そうだね。何かあったら言ってね、何でも答えるよ!先輩だし!」
足を踏み出そうとするケンジと、何故か私達よりも張り切っているサン。どういう成り行きか、サンとフライと一緒に依頼に行くことになってしまった。一体何故…。フライはともかくサンと一緒というのは正直めんどくさかった。
ダンジョンの中でまとわりつく霧は、私以外の皆もうっとおしく感じているようだ。手で少し霧を払い、進む。そんな形で普通よりはゆっくりと歩いていた。と、いきなり岩影からリリーラが飛び出してくる。岩が死角になり、全然気が付かなかった。繰り出してくる絡み付くを避けて電気ショックをぶつけると、リリーラは一撃で倒れた。
「へえ、強いねえ。シズク」
そんな私の戦いかたに感心したようにサンはそういう。ケンジはうんうん、と頷きながら先へ進んでいる。
「…フライ、あの、気になることがあるんだけどさ…。その、目の話」
しばらく歩き、飛び出てくる敵ポケモンを倒しながら、ふいに私はフライに聞いた。フライは少し目を見開いたが、すぐにこう答える。
「ああ、この目ね。僕もよくわからないよ。生まれつきだったしさ」
「私の目のことは気にならなかったの」
何でだろう、他人に詮索されることは嫌いなのに、フライの前だとそんな不安が嘘のようにすらすらと言葉が出てくる。
「うん?あ、ああ…まあ気にはなったけどさ、シズクってそういう質問されるの嫌いそうだし…、サンも僕のことがあるからあんまり驚かなかったみたい」
「…へえ」
リーシャンの物理攻撃を受け流し、的確に蔓の鞭をぶつけながらフライは答えた。そういう状況に慣れてきている、か。それほど不安になる必要も無かったのかな。とりあえずこの話はこれまで、というようにフライが言うと、私達は目の前の敵を見据える。
ここは不思議のダンジョン。油断したら命を落とす、そんな場所。だからこそいつもより警戒心を強く、保つ。初仕事をこなすためにも。