#21 始まった生活
「起きろぉぉぉぉぉ!!!朝だぞぉぉぉぉう!!!」
部屋中に響く大声により、一瞬で目覚めた。ギンギンと唸り、しばらくの間他の音を受け付けなさそうな耳を押さえて悶絶していると、その大きな声の主らしい紫のポケモンが、先程の大きさでは無いにしろ常識で考えれば“大声”に分類されるであろう声で言う。
「早く起きろ!他の皆はもうあつまってんぞ!遅刻は許されねえんだからなあ!」
涙目で隣を見ると、シズクがいたはずのベッドは空間が占領していた。先に起きていたのなら俺も起こしてくれればよかったのに…と情けなく考えながら立ち上がった。俺を起こしたポケモンは、言うだけ言うとさっさと出ていってしまった。トレジャーバッグはもう無い。多分シズクが持っていったんだろう。初日で寝坊とは馬鹿だ。焦りを感じて、小走りでギルドの朝礼場に向かう。
明らかに俺待ちだった。他の弟子達は皆三列程に並んでいて、朝礼の為にラペットもパティもスタンバイしている。うん、完全に注目の的となってしまった訳だ。そそくさとシズクの隣に並ぶと、シズクの隣にいたサンにウインクされた。俺も笑顔で返すがシズクが不満げだった。遅れたことにラペットから少し憤りの声が飛び、それをやり過ごすと朝礼が始まった。
「えー、皆揃ったようだな。さて、昨日新たな弟子が入ってきたのはもう知ってるだろう。自己紹介は勝手にやってくれ。…では親方様お願いします」
ラペットがそう促し、パティが「今日も頑張ろー!」と一言叫ぶと「おー!」と掛け声が響いた。これで朝礼は終わりらしい。率直に言うと短すぎる気がする。朝礼が終わると、弟子達はわらわらと俺達の周りに集まっていた。一斉に自己紹介の嵐で、シズクはそっぽを向き俺もシズクまでではないにしても少しうんざりした。まとめると、最近入ったというビッパのベントゥ・クル、どうやらツンデレが好みのようでシズクに話し掛けまくり、先輩にも容赦ないシズクに一蹴されているキマワリのシニー・フリア、優しい雰囲気で多分一番マシだと思えるチリーンのウェンディ・ベン、会話に何故かヘイヘイ付けているヘイガニのヘイライ・ハイナイ、見張り番なのだと思えるディグダのリナー・ハラン、そのリナーの父親と思われるダグトリオのベコニン・ハラン、何だか存在感が薄い上に怪しいオーラを纏うグレッグルのググヌ・ガラミアーニがギルドのメンバーらしい。一通りそんな会話が交わされた後、俺はシズクに何で起こしてくれなかったのか訊ねてみた。誰かを起こすなんて片手間にやれるものだし、軽い電気ショックで起こして俺をストレス解消にも使えるし、とドM的なことを考えていたが、シズクの答えは単純だった。
「起こすわけないでしょ。そういうことは自分で何とかする問題。第一めんどくさい」
なるほど、シズクらしい。喋るだけ喋ったギルドの弟子達は仕事らしく散り散りになっていき、何をすればいいのか全くわからない俺達は取り残されていた。
「何すればいいのかな…」
「知らない」
突っ立って駄弁っていた俺達を呼ぶ声がして振り向くと、それはラペットだった。
「仕事の説明をするから着いてこい」
ラペットは梯子をちょんちょんと上っていく。促されて俺達はラペットを追った。