#20 朝
正直少し期待していた。ポケモンになっていたなんてことは夢で目が覚めたら全て元通りになっているんじゃないか、なんて。そんなことは無かった。隣ではケンジがすうすうと安らかな寝息をたてていたし、昨日寝た時と状況は変わってなかった。爽やかな朝だ。窓から漏れ出ている澄んだ朝日は私の体毛を煌めかせた。毛布を払いのけて立ち上がり、うんと伸びをする。尻尾が揺れる感覚があり、まだこの姿に慣れきっていない私は違和感を感じた。窓から外を覗くと、青い海と地平線、そして白く輝く太陽が見える。そしてその景色を彩るように、ペリッパーが所々に飛んでいた。
ケンジはまだ熟睡している。起こすのはめんど…少し気が引けるので放っておくことにした。昨日の先輩二匹はもう目覚めているのだろうか。少し気になることがある。いや、二匹ではなくフライのみに。普通ツタージャという種族のポケモンの瞳は茶色い筈だ。何故翡翠色…?まあ私も目が青かったり尻尾が白かったりするから他人のことを言えないけれど。それに私からその瞳について聞いたら、私の目にも質問してくるかもしれない。自分のプライベートを軽々しく他人に話すのは嫌だ。ケンジに関しては、何故かポケモンになったショックで口が滑り、名前などなどを教えてしまったので例外とするが。
しばらく藁のベッドの上に座り、色々と考え込んでいると扉の外で何者かが動く気配がした。ギルドの弟子達が起き始めたのかもしれない。そっと外を覗くと、どうやらそういう訳ではなさそうだった。あの大きな声を持つポケモンが、弟子達の部屋を片っ端から回っていきその大声で起こしているらしい。多分この部屋にも来るだろう。サンとフライを起こし終えたそのポケモンは、乱暴な動作で私達の部屋の扉を開けた。口が全体の半分を占めている紫色のポケモン、ドゴームだ。なるほど、声が大きいのも頷ける気がする。ドゴームは起きている私に、ギルドの朝礼があるから先に行け、と促し、ついでに自己紹介をした。彼の名はノンド・ダガルらしい。私は自己紹介しなかった。さっきも言ったようにあまり喋らない他人に個人情報を与えるのは嫌なのだ。
ケンジを起こすのはあのノンドがやってくれるだろう。私はトレジャーバッグを持ってさっさと部屋を抜け出し、朝礼を行うギルド内の広場へ向かった。
後にノンドの大声と、ケンジの悲痛な叫び声が聞こえた気がするが、気のせいにしておこう。