#19 暖かいこの場所
入ってきたイーブイが持っていた風呂敷の中には、林檎や木の実がどっさり詰まっていた。空腹にはありがたい、という程に。「いただきます」の呟きで私達は一つ一つ木の実を食べ始めた。入ってきた二匹も夕食がまだだったようなので、私達と一緒に食べている状況だ。
「ねえ、あの…このギルドの弟子、だよね?入ってきた時は気付かなかったけど」
「ああ、まあな。今日は僕達遠出の依頼を受けてたから」
ケンジの問いに、今まで沈黙を守っていた緑色のポケモンが答えた。このポケモンは見覚えも無いし種族名も知らない。
「そうだぁ、自己紹介しなくっちゃ。ね」
林檎を頬いっぱいに詰めてからイーブイが緑色のポケモンに向かって言った。緑色のポケモンは頷き、再びその翡翠色の瞳をこちらに向ける。
「えっとね、私はイーブイのサン・シニアディ!ここのギルドの弟子で…君達の二個くらい先輩かな」
「僕は、ツタージャのフライ・ヒアラス。こっちのサンと、探検隊チームエメラルドを結成してる」
へえ、この緑色のポケモンはツタージャなのか。この大陸には生息していないし私も知らなかった。旅でもしてこの大陸に来たのだろうか。まあ探らずに置いておこう。
「俺はリオルのケンジ・リウェルジーア。で、こっちが…」
「シズク・サファイア」
「ケンジにシズクね!よろしく!」
イーブイのサンはハイテンションで私達に輝かんばかりの笑顔を向けてきた。正直こういうタイプは苦手だ。気まずそうに目を逸らしておいた。さて、木の実や林檎を食べてすっかりお腹いっぱいになった私は、早速寝る支度をしようと毛布を整えた。サンはまだ喋りたさそうだったが「夜遅くに他人の部屋でのんびりするもんじゃない」というフライに引き摺られるように出ていった。「明日は早く起きないとラペットの奴にしばかれるよー」と残しながら。どうせ明日また会えるんだから今ここで渋るもんじゃないと思う。
「いい先輩達だったね。お腹いっぱいになったし…明日が楽しみだなあ」
ケンジはそう言って早々に毛布の中に潜った。私も横になり、眠ろうと目を閉じる。考えてみれば今日一日で色々なことが起こった気がする。人間からポケモンになってあっという間にギルドに入門…。ここにいれば謎が解けるかもしれないとケンジは言っていたが私は別にケンジといつまでも一緒にいるつもりは無い。チーム名の“ガーネット”のもう一つの意味、『ずっと一緒にいてください』だって述べた後に気付いた物だしさして意味も無い。これから何が起ころうとケンジを仲間だと思うことなんて無いと思うし、大きな心境の変化だって期待しない。別にこれから何かを変えるためにここにいるわけでもない。ただ、謎を解く為だけだ…。瞼の裏に浮かぶ闇に私は意識を委ねていく。
この時の私は気付かなかった。そんな考えが、これから始まる物語に、まるで矛盾していることに。