#18 夜の訪問
「もう結構遅い時間よね」
「そうだね。うー、お腹減ったなあ…」
さっきから俺のお腹は空腹を訴えるようにギュルギュル言っていた。俺達がギルドに入門したのは夜遅かったようで夕食の時間に間に合わず、結局夕食抜きな状態だった。
「あんた、何か食べ物持ってないの」
「残念だけどすっからかんだね」
「あっそ」
つまらなさそうに呟いたシズクは、ごろんと藁のベッドの上に寝転がった。空腹を忘れるためなら寝るのが一番な気がするが、どうにも眠気がやって来ない。お腹がいっぱいになったらぐっすり眠れるのにな、と虚ろに思って、何も入っていないのは承知の上で布袋を漁った。
シズクも何となく不機嫌そうで、さっきからうーうー唸っている。何か食べ物が欲しい…。そうしなければ明日まで持たないかもしれない。
「食べ物無くても数日くらいは生きていけるなんて思ってた私が馬鹿みたいだわ。お腹空いてるとほんと力出ないのね」
俺の分の藁のベッドも使ってごろごろ転がりながら彼女は独り言のようにぼそっと呟いた。俺も同じような気持ちだ…。食べ物が無くても生きていける、とは思ったことはないが。
それより誰か食べ物をくれ。鳴っているお腹と共にぼんやりそう思っていると、いきなり部屋の木の扉をノックする音が聞こえた。俺は「どうぞ」と返しておく。
入ってきたのは、茶色い体毛を持つふわふわしたポケモン───イーブイと、ここらでは見かけたこともない、鮮やかな翡翠色の瞳をした緑色のポケモンだった。種族も知らないほどなのでこの大陸にな存在しないポケモンかもしれない。
その入ってきたイーブイは、背中にピンク色の風呂敷を背負ってきている。何をしに来たのか。シズクは警戒心丸出しで、二匹を美しいサファイアの瞳でギンギン睨んでいる。
「あはは、いきなり入ってきて驚かせちゃってごめんね。あなた達、今日入った新弟子さんでしょ?」
イーブイはにこにこと笑顔を見せながらそう言った。脇にいる緑色のポケモンはその場で穏やかな笑みを浮かべながらもこちらを観察しているようにじっと見つめている。イーブイは背中の風呂敷を下ろし、床に置いた。
「夕ごはん食べてないんだよね?食べ物持ってきたから一緒に食べよ?」
“食べ物”。その響きに俺だけでなくシズクも反応した。既に警戒はほどけ、風呂敷の中身を探るようにじろじろと見ている。
「結構お腹空いてたのね。私達もよ。よおし、食べようか」
自己紹介もままならないが、そんなことよりも俺達には食べ物が最優先事項だった。