#13 彼の望む場所
街と海岸を繋ぐ十字路を北の方向に進んだ高台にある建物。それがケンジ曰く“有名なギルド”らしいが、どこからどうみても私には気違いが創ったふざけた建造物にしか見えない。万歳をした状態のプクリンの上半身を型どって造られたであろう鎌倉状のテント。ポケモンのトーテムポールは脇にある大きな松明で妖しく光っている。そして足元には大きな穴がぽっかりと口を開けており、そこに落ちないように頑丈な格子が張ってある。ちなみに入り口も鉄格子で固めており、侵入者を許さない態度の様だ。やはり何かの組織みたいに見えてきた。
「ここが、かの有名なプクリンのギルド!で、入るにはこの穴に乗らなきゃいけないんだけど」
少し目をキラキラさせているケンジは、足元の穴に目を落とした。乗らなきゃいけないなら早く乗ればいいのに、何躊躇っているのだろうか。
「何してんの早く乗れば」
「うう…だってえ…」
「こんなのにビビってんの?馬鹿」
「う、うう…わかってるけど…」
腕組みをしながらしばらく待っていると、そんな私の威圧に負けたのかケンジは大きく身を振るわせてから穴の上に立った。すると。
「ポケモン発見!ポケモン発見!」
「誰の足形?誰の足形?」
「足形はリオル!足形はリオル!」
と、そんな声が穴の下から響いてきた。ケンジは驚いて飛び上がり、その場で震えている。確かに声には驚いたがそこまで怖がるものなのか。あのドガースとズバットが言っていたことも案外頷ける。数秒時間が経ち、穴から響く大きな声が言う。
「…よし。どうやら怪しいもんじゃなさそうだな。で、傍にいるもう一匹、お前も乗れ」
見えていないのにどうして傍にいるとかいないとかわかるのだろうか。若干不気味な感じがするがそれがギルドなのだろうか。いや、それ以前にこれから他人の巣窟に入るなんて気が引けることだ。逃げ出したいけどそしたらケンジが…いや、食料だとかに困る。いつの間にか穴から下りていたケンジは、私をじっと見ている。穴の上に乗れと言うことだろうか。めんどくさいのが本心だが乗らないと先に進まないのなら手段は無いだろう。
溜め息をついて私は格子の上に立った。するとまたあの二つの声が会話する。
「ポケモン発見!ポケモン発見!」
「誰の足形?誰の足形?」
「足形は…足形は…えーっと?」
何だかわからない疑問符が聞こえる。何だ。アクシデントなら早くしてほしい。
「どうした見張り番!応答せよ!」
「んーと…これは…えーと…多分ピカチュウ!多分ピカチュウ!」
悩んだ挙げ句下から聞こえる幼げな声はそう叫んだ。多分この穴はギルドに入ってくるポケモンの種族を確かめる設備なんだと思う。私の種族は当たっているがそんなあやふやでいいのか見張り番。
「なんだ、多分って!?そんな曖昧な…」
「だ、だってここらじゃ見かけないんだもん…」
「あーもう情けないなあ!見かけないだろうが何だろうが見分けるのがお前の仕事だろ!?」
「そんなこと言ったって…」
どうやら何だか揉めているようだ。その声が筒抜けなことに気付いているんだかいないんだか。どっちにしろそちらの事情はどうでもいいから早くしてほしい。
「…オッホン。待たせたな」
やっと喧騒を止めて大きな声がそう言う。
「まあ怪しいもんではなさそうだ…いいだろう!入れ!」
随分乱暴な歓迎だな。石でも投げてやりたいが入る前から問題を起こすのはよくないだろう。私は自制心をフル稼働させる。そう私が心の中で葛藤を繰り返していると、入り口の鉄格子が轟音を立てて開いた。一々飛び上がるケンジを蹴りつけて私はギルドの中に入っていく。
────────そうだ、ここが“始まり”