#10 去っていく君と独りの俺
行ってしまった彼女の背中を、俺はただ呆然と見ていた。呆然と見ていることしかできなかった。俺が仲間だと思っていた彼女は俺のことを何とも思っていないようだ。確かにシズクは冷めているからそんな気もどこかでしていたのかもしれない。信じていない、仲間じゃない。突き刺さる言葉はさらりと言われる。今日会ったばかりで一度戦ったきりだというのに、俺はどうしてそんなことを言ったんだろうか。自分自身にも募る疑問を振り払って、俺はシズクの後を追おうと歩を進める。シズクを独りにはできない。何故かその気持ちがずっと俺の心の中にあった。孤独の辛さを感じるのは、俺一人で充分だ。
街へ続く十字路に行ってもシズクの姿は無かった。さして遠くまでは行っていないだろう。街に並ぶ店の店主や夜の買い物に歩くポケモンに聞き込みして探すしかなさそうだ。
まず俺はカクレオン店のカウンターに居座る一匹のカクレオンに聞くことにした。ここのカクレオンは観察力が鋭くて道行くポケモンを見て、困ってそうなポケモンがいると店の物を売るために声を掛けたりしている。俺も一度声を掛けられ、あまり使わなさそうな道具をほぼ無理矢理渡されそうになったこともある。今では結構な顔見知りになっているから、聞くにはもってこいかもしれない。
「え?白い尻尾のピカチュウですか?」
「うん。見なかった?」
「あー、ええ、見ましたよ。ピカチュウなんて珍しいんで結構目に付きますしねえ。しかし尻尾が白いことは気づきませんでしたねえ。人混みに紛れていましたし」
「どっちに行った?」
「崖の方に向かってました」
カクレオンが指差す方向に、俺は急いで進んでいった。カクレオンが物を売ろうと掛ける声も耳に入らない。ただシズクを探すことに没頭し、顔見知りのポケモンには軽く会釈しながら崖に向かって歩いていく。
しばらく進んで、その姿は目に入った。黄色い後ろ姿、映える美しい尻尾。風に揺れる彼女の耳は優雅だった。正直声を掛けるのは戸惑った。シズクはどうやら俺を嫌っているみたいだ。驚きの衝動で電気を浴びせられたらどうしよう。いや、何で今そんな情けないことを考えてしまうんだ。俺の思考回路はどうしようもなくネガティブである。
今更攻撃されることなんて怖くない。俺はシズクに話し掛けるためにゆっくりと近付いていった。