#9 響いた言葉
「ねえ、シズクはこれからどうするの?」
場所は海岸。あの洞窟から戻ってきていた私に、ケンジはそう聞いた。
「何って、まず私がどうしてポケモンになったのか、記憶を無くしたのか、調べるの」
答えは簡単。私は独りで生きて、独りで謎を探す。他人の介入なんていらないんだ。ケンジは「そっかあ…」なんて呟いている。まさか一緒に手伝うだとか、そんなことを言うんじゃないだろうか。
「じゃあ俺も手伝うよ!その謎解き」
当たってしまった。
「いらないわ。私独りでやる」
「でもシズク、この世界に来てまだ全然経ってないでしょ?俺がいた方がいいって」
「いらないっつってんでしょ」
聞くのも面倒だ。私は足早に歩き去ろうとした。まずは、そう、この世界の文化だとか歴史だとか。人間がこの世界に来た記録とかがあればそれを参考にできるかもしれない。じゃあどうやって調べる?そこが疑問だった。でもだからといってケンジに頼るのも気が引ける。他人と一緒にいるのは嫌だから。
「ま、待ってよシズク」
諦めていないようなケンジの声を遠くに聞きながら歩き続ける。無視を続けていると、ふいに手を掴まれた。
「お願いだよ。手伝わせて」
「嫌よ」
掴まれた手を思いっきり振り払った。彼の手の感触が消えて、何故だか微かに孤独を感じてしまった。いや、気のせいだ。気にする必要すら無い。孤独が何だって言うんだ。独りは好きだからそれでいいんだ。
「俺はシズクが心配なんだよ。何だかわからないけどポケモンになっちゃって、これから途方に暮れちゃうかもしれないし。それに、一緒に戦った『仲間』を…放っておけないんだ」
『仲間』
妙に心に突き刺さる言葉だった。衝動のままにこぼれた言葉は、何とも言えぬ、そして最低で。
「あんたが私のことをどう思っていようが勝手だけど、私はあんたのこと信用してないし、仲間だとも思ってないわ」
再び歩き去る私を、ケンジは止めなかった。ただ傷ついたような表情を浮かべて、そこに立っていた。その顔を見ると、何でか変な気持ちになった。悲しい、寂しい。違う、私はそんなこと思う人じゃない。無理に顔を背けて私は海岸からその先に通じる道へ踏み出していく。
孤独の銀を漂わせた泡は、私を茶化すように踊っていた。