#129 北の砂漠
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北の砂漠。
ギルドよりも北に存在する乾燥地帯、その一角にエリアを持つダンジョンを、探検家や研究者はそう呼んでいた。
北に存在する砂漠とあって、気温はそこまで暑くはない。だが、砂漠特有のむせ返るような砂埃や、ざらざらとした感覚、その辺に転がる茶褐色の大きな岩が、戦いにくいということを表している感じだ。
びゅう、と吹く風を少し肌寒く感じる。まだ夕暮れの始めくらいな時間帯で、日が完全に沈むには時間がある。けれど、夜が近づくにつれ寒くなっていくのは目に見えていた。砂漠の夜は寒いと言うし。
「はあ……面倒な予感しかしないわ」
「シズクにとっては、そうだよね……」
砂漠なんて、地面タイプや岩タイプの野生ポケモンが生息するにはもってこいの環境だ。ダンジョンに潜ればさっそうとそれらのポケモンが顔を出すだろう。効果が今ひとつ、どころではなく全く電撃の効いてくれないタイプと対峙するのは、いくら実力がある者だとしても骨が折れる。
「今回シズクはサポートかな。俺が前行くから」
「ええ、妥当ね」
「調査に来たからには、何か有用な情報を掴んで帰りたいね………ナイトさんが、出発する直前に言ってたけど、北の砂漠はダンジョン研究チームが『秘境があるかもしれない』って考えてるとこらしいし」
「それなら尚更ね。時の歯車……簡単に見つかるとは、思えないけど」
とりあえず先のことは、このダンジョンをクリアしてから考えよう。二匹は、砂が巻き上がる砂漠に足を踏み入れた。
「……うおっ、と、」
ダンジョンに入った瞬間に、岩陰からポケモンが二匹飛び出してきた。岩が多いので、死角になりやすい。全く気付かなかったが、その攻撃から僅かなところで躱す。
飛び出てきたのは、ナックラー、マスキッパ。ナックラーは、大分厄介な地面タイプだ。一方のマスキッパは草タイプ。ケンジは迷うことなく、ナックラーに強烈な一撃を放つために飛び上がる。
「じゃあ私はマスキッパ、ね」
目の前のポケモンを睨みつけて、シズクの頬がぱちりと鳴る。成程、砂漠だからといって地面タイプばかりでない。乾燥帯に合う体質の草ポケモンも、相応にいるらしい。
突き出すように繰り出してくるマスキッパの攻撃を左へ、右へと交わし、身体の回転に身を任せて十万ボルトを連続で放つ。流石、低レベルのダンジョンでないだけ、躱すという脳も持っている。
けれど、そんなマスキッパの意表を突くようにアイアンテールを振り抜くと、マスキッパははるか向こうに飛んでいった。岩に激突した、鈍い音が響く。ぱらぱらとした砂埃が巻き上がった。
進んでナックラーと対峙したケンジは、先手必勝、とはっけいをくりだす。ナックラーに少し掠った。片足を軸に回転し、攻撃をすんでの所でかわしたナックラーと向き合う。ナックラーはその大きな口を開けて、かみつくを繰り出してくる。
その攻撃を飛び上がって躱すと、着地する瞬間に真空刃を放った。白い刃がナックラーに真正面から当たり、鋭い傷をつける。
「まだ倒れない、か……」
レベルが高いということは体力もあるということだ。もともと油断してかかってるつもりではない。傷だらけのナックラーがくりだした岩雪崩を避けて、背後から波動弾を放つ。
背中に高エネルギーの攻撃を受けたナックラーは、一瞬で地面に倒れ込んだ。波動弾の強さを実感させられる。あの青い光が、まぶたの裏でまだちかちかと光っている。
「倒した?」
「うん。シズクも……大丈夫だね」
お互いの無事を確認し合って、また前に進む。バッグの中の林檎を齧ったり、道端に落ちている道具を拾ったり。
時々足元の砂に足をとられて転びそうになる。道具が砂にほぼ埋まっていることもあった。戦闘にも探検にも向いていないこの地形のダンジョンは、攻略にはかなりの時間を要するかもしれない。
けれど、この砂漠の地に何かが隠されているかもしれない、というのは確かに頷ける話だ。勘とはまた違うかもしれないが、野生ポケモン達の様子がいつもとは少し違う。
自分たちの縄張りを守ろうとしているのは他と同じだ。けど、その他にも何か違う物を守っている感じがした。
とにかく、出てくる野生ポケモンの数が本当に多い。
「やっぱり歯車、あるのかな……」
「今の段階ではわかんないけど、可能性はあるわね……砂漠っていうのは、何か隠すには最適な地形だと思うわ」
「戦闘には向いてないけどね!」
飛び出てきたサボネア二匹に、シズクとケンジは目を細めながら繰り出された攻撃を避けた。このダンジョン、なんだか二匹同時に出現することが多いような気がする。
サボネアのミサイル針が軽々と宙を舞った。協力プレイのように、二匹にともミサイル針だ。
シズクはアイアンテールで防ぎつつ横に避け、ケンジは上に飛び上がることで難なく回避する。目的を見失ったミサイル針はただ直線に飛び、近くの岩を壊すほどの衝撃で突き刺さった。
その威力を見たシズクは、思わず強ばった笑みを浮かべる。
「……喰らったら、ちょっとやばいかもしれないわね」
ギラギラとした殺気をサボネアから感じる。辺りに砂埃を舞う中、サボネアが動き出した瞬間二匹も駆け出した。
砂に隠れ、岩陰に隠れ、なるべく姿を見せないようにサボネアが突撃する。瞬間移動のように真横に現れ攻撃を繰り出し、それを避ければまた見えなくなる。探しつつ走り回っていれば、足元の砂から急に現れたりする。
間一髪、という場面が何度もあり、ヒヤヒヤさせられるものだ。相手に簡単に攻撃を繰り出させないように動き回る術をこのダンジョンのポケモンは持っている。
ずどん、と連続して電気が砂に落ち、岩を砕く音があたりに響く。なかなか姿を現さないサボネアにイライラしたシズクは、当てずっぽうに電撃を放ち始めている。
「シズク、あんま無闇にやらない方が……シズクの体力も持たないかも……」
「……でも、隠れるあいつらを探し回るよりは消耗しないはずよ」
確かに、シズクの言う通りだ。あっちこっちから現れては隠れるサボネアを追いかけて走るよりは当てずっぽうの方がまだ効率的なのかもしれない。けれど、どっちもどっちだ。当たる確率もかなり少ない。
まるでこちらを挑発するように砂から身体を現してはすぐにいなくなる。そちらに向けて攻撃を放ったとして、サボネアの遥か頭上を通り抜けるだけだ。
きっと、これで諦めて先を急いでも、後ろから狙い目とばかりに攻撃してくるはずだ。出会った敵は倒しておかなければならない。敵意を持っていれば、の話だが。
「ケンジ、そこ!」
「えっ……おっけ!」
唐突に名前を呼ばれ一瞬戸惑ったものの、すぐさまシズクの声に反応することが出来た。サボネアがミサイル針を打ち出す瞬間、シズクの高速移動により二匹ともの素早さが上がる。更に電光石火で急発進し、サボネアが砂に潜る間際、シズクが打ち出した十万ボルトがほんの僅かにサボネアにかすった。
少しばかりふらついたその時を逃すケンジでは無い。ケンジも電光石火で近付き、渾身のはっけいを叩き込む。半分砂を叩く形になったが、少し飛び出ている緑色の頭に攻撃が当たった感覚はしっかりあった。
残るはあと一匹。二匹に比べれば、一対二の状況は大分楽になる。
一匹やられたことに怯えて砂から出てくるつもりが無くなった可能性もある。だが、少し気を緩めたその一瞬で、サボネアがもう一匹飛び出てきた。
「シズク、後ろッ!」
そこから先は早かった。サボネアはその棘だらけの腕でシズクに向けて物理攻撃を仕掛けようとしていた。反射神経の高いシズクはほとんど無意識にその攻撃を避け、空ぶった腕目がけてアイアンテールを、逆立ちの形になりながら打ち込む。
そこに下から上に向けて十万ボルトを放つ。見事に身体を貫かれたサボネアは、砂の中での耐久戦虚しく地に伏せる形になった。
「……全く、厄介だわ………砂ってのは隠れるのに最適ね」
「俺達も隠れながら戦ってみる?」
「嫌よ。砂で汚れる」
ダンジョンで戦っているのに何をいまさら汚れることを気にするのか、とケンジは苦笑いしたが、進んで砂に潜って汚れようとはやはり思えない。
サボネアのトゲが掠ってできた細い切り傷に、小さめに切ったオレンの実を絞り汁を垂らしながら、さらに先へと向かう。
小さな傷にぴりぴりとオレンがしみる感覚を感じながら、周囲に警戒して歩く。砂漠だからか木の実や林檎はほとんど落ちていない。時々、小さめで乾いたグミが砂に埋もれつつ転がっているだけだ。
途中、宝箱もいくつか見かけたが、持ち帰るにもかさばるしで、中にすごく貴重な物が入っているかもしれない、という探検隊の最早本能とでも言える気持ちを抑えることも多かった。
とにかく、砂漠というのは今まで訪れたダンジョンの中で異質なものだ。おかげでスタミナの消費量が半端じゃない。
「……ちょっと、休憩。林檎、まだある?」
「うん、あるけど……もう大分少なくなってる。ここではろくに食糧集めも出来ないし、もう少し節約した方がいいかも……」
「………そう。じゃあ半分ずつにしましょ」
このダンジョンには中間地点が無いようだ。ゆうに十個は階段を上っているだろうに、あのガルーラ像はどこにも見当たらない。もう少しで抜けられるかも、という希望があるのはまだいいが、安全地帯がないと言うのは不安になるものでもある。
中途半端の長さのダンジョンが、言うて一番面倒なのだ。
見通しの良い場所に唯一ある岩に二匹は腰掛けて、警戒は解かないまま林檎を食べ始めた。半分にしても小さすぎない大きさの林檎を選んだため、腹は十分に満たされるはずだ。
心地よい咀嚼音が辺を包み、つかの間の休息を感じる。
時折吹く風に乗って運ばれる小さな砂の粒子がぴしぴしと頬を打った。
警戒心を張ったまま、というのはあまり精神的な休息にはならないが、林檎を食べたことで身体的には休めただろう。何にしろ、先はそこまで長くないはずだ。
林檎を食べ終えた二匹は、また探索と戦闘に戻るために立ち上がった。
ヨーギラスの巻き起こした砂嵐で視界の悪い中、マスキッパの甘い香りの気持ち悪くなるほどの匂いに吐き気を催しながら、地面や岩タイプの溢れかえる北の砂漠ダンジョン最奥部付近を、シズクとケンジは一心不乱に駆け抜けた。
休憩をとった場所から二、三メートルのところで、色々なポケモンが群れのように集っている場所に出くわした。モンスターハウスと言うには規模は小さく道具などの罠もないが、野生ポケモンの集団ほど面倒なものは無い。
急いで二匹は回れ右をして別ルートへ向けて走り出した。
当然、ポケモン達はおってくる。その特殊攻撃や遠距離攻撃に苦しみつつ、ケンジ達も同じように遠距離攻撃を連発し、今は少し離れた所に隠れることが出来ていた。
天候を変える技、砂嵐はこの砂漠において特に面倒であり、技の砂嵐に影響されてか、ダンジョンの中も砂嵐が巻き起こるようになった。半径一メートル以下のものしか見えない中、どこから攻撃が飛んでくるのかわからない。ケンジとシズクはお互い背中合わせになり、普段よりも更に緊張の糸をぴんと張り巡らしながら移動していた。
すぐ近くに、隠れられる大きめな岩があったのが幸運だった。その陰に隠れつつ、様子を伺える。
「………甘い香り、早く効果切れないかしら……もう既に頭もやばいわ」
砂嵐の中マスキッパの放った甘い香りは、強烈すぎて特に鼻のいいシズクには辛そうだ。ケンジも勿論吐きそうなくらい感じてはいるが、まだいける。
吹き荒れる風のヒュウヒュウ言う音に足音が掻き消されつつある中、ケンジは必死に耳をすませて敵との距離をはかろうとした。
丁度攻撃の範囲に入ったところで、砂嵐を一瞬晴らすついでに真空刃を広範囲に飛ばそうと思っていたのだ。一瞬でも視界が良くなれば、どこへ向かえばいいかおおよその検討はつく。
「……シズク、もうちょっと我慢してて………」
「言われなくても、してるわよ。さっさと済ませて」
了解、と呟きながら耳に意識を集中させるために目を閉じる。茶色の世界が黒に落ち、視覚からの情報が無くなったことにより音がよく聞こえるようになった。
重い足音が一つ、軽めな足音が一つ、岩の向こう側、右の方から聞こえてくる。その足音が徐々に大きくなってきて……というところで、ケンジは腕を構えたまま一気に立ち上がった。
敵ポケモンが構える間もなく、白刃が空を切った。確かにその攻撃がなにかに当たった音がし、風圧により砂嵐が晴れる。だが、すぐに砂埃が視界を埋めつくしていく。
ケンジにとってはそれだけで十分だった。今ので、幸運にも階段を見つけることが出来たのだ。野生ポケモンの集団は、階段前に陣取っていたのかもしれない。
「シズク、行くよ……!匂い大丈夫?」
「鼻塞いでればなんとか……」
ケンジはシズクの手を取って、二匹とも電光石火でその場を駆け抜けた。ケンジの真空刃を食らったポケモン達はノックアウトされてはいなかったがフラフラとしていて、素早く通り抜ける二匹を見逃した。
「こんな近くに階段あったなんて……!」
「でも、これでひとまず!」
砂だらけの身体で階段を登りきった二匹は、その空気に、ふう、と息を吐いた。
「抜けた、かな?」
「そうっぽいわね」
乾いた風が彼らの体毛を揺らした。敵がいないと分かるだけで幾らか楽だ。抜け出てきた階段付近に一旦腰を下ろして身体を癒した。
二匹で半分したオレンの実を齧りつつ、最奥部の様子を見ていると、少し向こう側に開けた場所があるのに気が付いた。
何かあるかも、と二匹は腰を上げてそちらに向かう。
「うわ、流砂………」
「すごい規模ね、これで……」
そこにあったのは、巨大な流砂がいくつも並んでいるものだった。砂漠の砂が下に吸い込まれていく様子は、なんだか幻想的でもある。しかし、それがいくつもあると少し気持ち悪い。
一際大きいものはまるで少し小さめな湖と見紛うくらいの大きさだった。とにかく、見たこともないくらい馬鹿でかいのだ。
「でも、流砂以外は何も無いみたい。ちょっと期待はずれかなー」
「まあ、最奥部に辿り着いただけで何か見つかるんだったらとっくに研究チームが何かしら見つけ出してるでしょうけどね」
飲み込まれないように気をつけながら、流砂と流砂の間を歩いていく。突き当りは高い壁に囲まれているし、さらに前へは勿論進めない。
平坦な砂漠にあるのは流砂のみ。何か隠れているような小屋や建物は無く、仕掛けすらも見当たらなかった。流砂はあくまで自然現象。仕掛けというわけではない気がする。
「時の歯車が隠されてそうな場所は無いね……ハズレかも」
いくらナイトさんと言えども、ピンポイントで時の歯車のある場所が分かるわけもないか、とケンジは一匹で自己完結する。
(…………あれ、この感覚…………)
そして、ケンジの後ろの方で。シズクは既視感に眉を顰めていた。この場所に来たのは初めてなのに、まるで前にも来たことがあるような、この感覚。
それに、この感覚自体にもデジャブがある。それは、直ぐに思い当たる節があった。
(この感じ、知ってる………霧の湖で感じたものと、同じ)
来たことがないのに知っている。はっきりとした確信を持つほどにありありと身に染みていく感覚は、気持ちのいいものでは無い。こんな秘境に来たことがあるらしい記憶を失う前の自分は、何者なのだろうか。
自分が信じられなくなっていく感じだ。どうしようもない不安に襲われるし、疑惑に苛まれていく。
けれど、この感覚があるということは。前に霧の湖で既視感を感じた時、そこには時の歯車があった。今回も、とは言いきれないが可能性は高くなる。
流砂しかないこの地に何かが隠されているのならば、手がかりはもう流砂しか無いのではないか。
流砂というものは………その地下に空間があるために起こりうる現象だ。空間が無ければ、吸い込まれた砂の行き場が無いため流砂は起こらない。
今考えついたものは、とてつもなく現実離れしている。だが、頭の中のどこかで『その方法は間違いない』と訴えているものがある。きっと、記憶があった時代の自分が持っていた本能的なものなのだろう。霧の湖の時と言い今のことと言い、本当に自分が何者のか分からなくなってくる。
悪人でないことを、願うばかりだ。
「……シズク?どうしたの?さっきからぼーっとしてるけど………」
自分への疑惑に頭を悩ませていたシズクは、いつの間にかそばに来ていたケンジの声にはっと顔を上げた。すぐ目の前にケンジの顔がある。ワインレッドの綺麗な目がまっすぐこちらを見つめている。
普通なことなのに、シズクは何故か気恥しさというか、少し変な感じを覚えて、ふっと目を背けた。
「どうしたの?ほんとに具合悪い?……砂漠のダンジョンで、やっぱ相性影響してるのかな………」
シズクが目をそらしたことは気になっていない様子で、淡々と喋りながらケンジはバッグを漁り始めた。その目が少し浮ついた様子なのは気のせいだろう。
「私は、大丈夫。具合とかは平気。ただ、気になることがあって………」
「気になること?……この流砂しかないとこに、何かあるとは思えないけど」
ケンジはとっくに何かあるという可能性はほぼ無いだろう、と結論づけて帰ろうという気持ちでいた。まあ、普通は思いつきもしないことが解決策かもしれないのだから、当然といえば当然だ。
シズクは、先程感じたあの既視感について彼に話した。霧の湖で感じたものと全く同一なものだ、と。
「え………それは、本当に?」
「……本当よ。意味はわからないけど……だから、多分ここにはやっぱり何かあるんだと思うの。……それで、考えたんだけど………」
受け入れてもらえるか不安に思いつつ、シズクはケンジに、思ったまま案を伝えた。ケンジは予想通りの反応をした。あっけに取られたように、口をぽかんと開けて少しばかりシズクを見つめている。
「それは、ほ、本気?」
「私だって最初はありえないかも、と思ったわよ………でも、頭のどこかで正しいっていう考えが消えないの。
もうそれしか方法は無いし………」
「でも、もし何も無かったら……俺たち砂に埋もれて……どうなっちゃうのかな………」
それが、一番の不安の種だった。もしあの砂の下に、何も無かったら。ただの砂だけの空間で、そこに埋もれてしまったら。
「けど、方法があるなら試してみるのが探検隊だしなぁ。いざとなったら穴抜け玉使えるかなあ」
「……あんた、本気でやる気?」
まだ戸惑いを感じつつ、楽観的に考えながら穴抜け玉の有無を確認していたケンジにシズクは聞いた。こんなすぐに受け入れて貰えるとは思っていなかったのだ。
「え?シズクが提案したんじゃん。信じるに決まってるし、本気のつもりだよ?」
「そ、そう……」
何変なことを聞くんだ、とそんな調子で言い返されたものだから、彼女は妙に納得した様子で黙った。こうも当たり前のように信じてくれるのだから、それが彼女自身の救いにもなっている。
危険かもしれないのに、探究心に目を輝かせるケンジは幼い子供のようだ。
「もう一度聞くけど。死んでも知らないわよ?」
「シズクと一緒なら、俺絶対大丈夫って自信あるよ!それに、俺は死なないし!」
「そうね。あんたは、なんか殺しても死なない気がしてきたわ」
微笑を湛えつつ、ひときわ大きな流砂の前にスタンバイする。危険かもしれない、けれど、やはり好奇心は抑えられない。
「シズクの合図で、いつでもいけるよ」
そう言いつつ、ケンジはそっとシズクの手を握った。あまりにもさりげなく、優しい手つきにシズクは一瞬びくりと肩を揺らした。
「なっ、何よ……」
「流砂の中で、離れないように、ね」
そう、と妙に納得しつつ、シズクも手を握り返した。今度はケンジがぴく、と揺れる。
なんだろう、この、少し気まずい感じ。今までこんなことは無かったのに。なんだか妙に顔は熱いし、握っている手から感じる温かさは前よりもずっと心地いいし。
少しもやっとした沈黙を破るように、シズクが口を開く。
「じゃあ、もう行くわよ。
………一、二、三っ!!」
彼女の掛け声で、二匹は勢いをつけて流砂の中に飛び込んだ。