01 ヤンキーが現われた!
なぁなぁ、おまえ、ポケモンバトルした事あるか?
ねーよな、だってそーゆー顔してんもん。
どんな顔かって?
そーゆー顔だよ、そーゆー顔。
つまんねーんだろ?
退屈でたまんねーんだろ?
面白いぜ、こいつは堪らなくよ。
やって見りゃわかる、そしたらそんな面ぁできねーよ。
退屈なんかぶっ潰せ!
理性なんざぶっ飛ばせ!
刺激のねー日常なんてクソゲーと同じだ。
んなもんはな──
──ぶっ壊しちまえばいーんだよ。
変な奴に絡まれた。ヤンキーだ。言葉遣いが顕らかにそうだ、間違いない。だからポケモンバトルやるぞと仕掛けてきて、負けたら賞金払えとか言ってくるのだろう。恐喝と何一つ違わない。
だが生憎僕はポケモンと言うものを連れ歩いていない。僕はポケモンバトルが嫌いだ。そんな事をするくらいなら最初から素直にお金を差し出した方が良い。だからポケモンは連れ歩かない。
素直に、相手を刺激しないように卑屈な態度で財布を出そうとした。だと言うのに、そいつはバトルを求めるわけでもなく、あっさりと踵を返し去っていく。拍子抜けした。何がしたいのかわからない、本当に何の為に声を掛けてきたのか理解できなかった。
と、僕が途方にくれているとそこに薄情な友人が現れた。なんて付き合いがいのない友人だ、人がヤンキーに絡まれていると言うのに今さら現われやがって。文句の一つでも言ってやらなければ気が済まない。
「おい克也……」
「彰人ッ! お、おまえなに話してたんだよ!?」
と思っていたのだが克也の様子がおかしい。まさか進化でもするつもりだろうか。
「なにって絡まれてただけだろ、見てたんなら助けろよ」
「畏れ多くて声掛けらんねぇよ、だってあの人あれだろ?」
こいつはなにを言っているんだ。あの人ってあれだろ、ヤンキーだろ。
「ば、おまえ知らねえのかよ? 慎二さんだろ慎二さん」
「知らねぇよ」
両断する。ヤンキーに名前なんぞ必要ない、所詮モブだ、ヤンキーAで十分だ。
「なっ、おまえ、いっぺん死んでこい、慎二さんに声掛けられてどんだけ光栄か、死んで出直してこい!」
「いや、わからねーから、誰だよあいつ」
もしかして有名なヤンキーなのか。
「とりあえず説明、三行で」
「バトルネーソスの常連、上位ランカーで負け無、名前は冬馬慎二、ヤンキーではない」
だいたいわかった、ただのヤンキーではなく、名のあるヤンキーって事が。そもそもあの施設にランキング機能なんてなかったはずだが。
「で、何話してたんだよ?」
「バトルしようぜ」
「歌う眠る空を飛ぶー、オーロラビーム、電光石火! で、どういう事だ?」
「そのまんまだよ、バトルやらないかって」
何故か歌いだした克也にそう返す。バトルやらないか、まったくもって野蛮で困る。だが、奴は興奮した様子で叫び声を上げた。なんだ、こいつはバカなのか。
「慎二さんにバトルやろうって誘われるとかどんだけミラクルだよ! 羨ましいよ!」
「じゃあおまえ行けよ、バトルネーソス」
僕はパタパタと手を振って帰路に着く。バトルネーソスとは逆方向だ、だからバトルネーソスには縁がないしバトルネーソスに行くこともない。なので、あのヤンキーAに会う心配もないのだ。
「まさか帰るつもりか!? そうは行くか、出て来いカイリキー!」
帰ってウインディのブラッシングをしてからあのポカポカの身体を枕にして優雅な読書タイム、と言う素晴らしい予定を打ち壊す四本の腕が、僕の両手両足を掴んだ。
「やめろこの筋肉バカ!」
ちなみに筋肉バカとはカイリキーの事ではなく克也の事だ。こいつの手持ちは格闘タイプ一色、おまけに自身も空手に手を出す格闘オタなのだ。もっとも、通信空手で上達するはずもなく、こいつが見事なのは構えだけで、他は素人と大差ない。
「カイリキー、そのままバトルネーソスまで連行だ」
「おい、離せ、こらカイリキー」
僕はカイリキーに訴え掛けるが、トレーナーの命令の方が優先だ。カイリキーは申し訳なさそうにしながらも僕を担ぎ上げて歩きだした。