閑話 赤い鈴が響く夜
† 赤い鈴が響く夜 †
「ベル様、お聞きになられましたか?」
修練場へと飛び込んできた月夜のような漆黒と金色の環を持つポケモンが言った。
「バルムンクのこと?」
全身に重しを身につけた紅き竜の少女は事もなげにつぶやく。
月夜の少女の焦った様子と、紅竜の少女の平然とした様子が上手く組合わさらない。
「そうです、彼の討伐の指示はこちらに回って来ました」
「……そう、まぁそうなるだろうとは思っていたわ」
紅竜はそうつぶやき、全身の重しを降ろす。
それは大岩が落ちてきたかのような重い音を立てた。
「身内の不始末は自分達で片付けろってことよね、レナ、片しておいて」
紅竜が言うと、月夜は不満げな声を上げた。
「無理ですよ、ベル様とは違うんですから」
少し考えてから、紅竜はベストを一つ、拾い上げる。
そして、それを月夜に向かって放った。
投げ付けるようではない、投げ渡すといった感じだ。
だが。
「むぎゃ!?」
月夜は情けない声を上げてベストに押し潰される。
「重ッ、重い、ベル様!? 助けっ」
「情けないわね」
紅竜は残りの重しを担いだまま、月夜の上にのしかかったベストを拾い上げる。
「レナ、あなた、今日からこれを付けて生活しなさい」
そう言って代わりにリストバンドを四つ落とす。
「両手足に、少しはまともになるはずよ」
「えぇ!? 無理ですってばぁ」
情けない声をあげる月夜を置いて、紅竜は修練場を出ていく。
上官の命令には背けない、仕方なく月夜はリストバンドを身に付けると紅竜を追った。
「でも、どうしますか?」
紅竜に追い付いた月夜が問い掛ける。
「そうね、飛蓮に飛んでもらうわ」
「飛蓮に、ですか? でも、飛蓮て偵察部隊ですよね? あの人たちじゃ返り討ちにあうのが関の山じゃ……」
「わかってるわよ、調査以上のことはさせないで、まずは足取りを掴むだけ、あれでも紅の副隊長、あなたよりは強いわ」
「むぅ、私だって努力してます」
月夜が頬を膨らませる。
「あら、たかだか百キロ程度の重しに潰されていたのは誰だったかしら?」
紅竜に痛い所を突かれた月夜は拗ねて顔を背ける。
「冗談よ、それでも、副隊長からは次元が別」
紅竜はそう言い切る。
「で、バルムンクが逃げたから、次の副隊長はあなたよ、レナ」
「はい?」
「あなたにも最低でもあの程度の力は身に付けてもらうわよ、明日からたっぷり扱いてあげるわ、楽しみにしていなさい」
「えぇー!?」
「さぁ、楽しくなりそうね」
紅竜は言葉通り、楽しそうに笑った。