鳥籠の歌姫と二人の騎士 - 第二部 紅蓮の牙
戦う為の方法
† 戦う為の方法 †


やはり先手を取ったのはヨーランだった。
担ぎ上げた木剣を大きく振り下ろした一撃を、ラングレットが木剣で受け流すと同時に、左の拳を打ち込む。
だが、それを読んでいたのかヨーランは既に後ろに跳んでいた。
空振った拳を狙いブレンが木剣を振るうが、咄嗟にラングレットは右足を軸に回転し、ブレンの一閃を躱す。
そしてお返しと言わんばかりに振り向きざまに剣を振るった。
「バカ!」
ヨーランが一声叫び、二人の間に割って入るようにしてラングレットの木剣を受け止める。
技術ではともかく、単純な力ならヨーランの方が上だ、ヨーランは力任せに木剣を打ち払うと大きく後ろへ下がる。
「ごめん、ありがと」
一度ラングレットと距離を取るとブレンがそう言った。
「でもバカは酷くない?」
「あんな突っ込み方したらやられて当然だ」
ヨーランが吐き捨てると木剣を構え直す。
「バーカ、どんな手を使ったって、やられるのが当然なんだよ」
嘲り笑うラングレットを睨み付け、再び地面を蹴った。

ヨーランが放った斬撃からその軌跡を追う蹴撃の連撃を、くるくると回るステップで避け、遠心力に任せて木剣を振った。
「っ!」
蹴撃の不安定な体勢から強引に踏み込み、体当たりを浴びせる。
「ブレン!」
「わかってる!」
ヨーランの体当たりに怯んだラングレットの隙を逃さず、ブレンは木剣を刺突に構え突進していく。
ラングレットは後ろに小さく跳ねたあと、突き出したブレンの木剣を飛び越えるように大きく跳び上がる。
だが高さが足りない、そのまま切り上げるように振り上げた木剣がラングレットの捉えた。
空中で躱せるはずがない。
「あめぇ! 大甘だ!」
振り上げた一撃をラングレットは木剣で受け、ブレンの持つ木剣を掴み取ると同時に、側頭部目がけ回し蹴りを放つ。
ブレンを蹴って大きく跳んだラングレットは空中で数回転すると、綺麗に着地した。
「残念だったな、阿呆ども」

ラングレットはブレンから奪い取った木剣を左手に構え、右手の木剣を突き付ける。
武器を失ったブレンは立ち上がると両拳を握りファイティングポーズを取る。
「……まだだよ」
例え素手でも諦めない。
「バカか? 武器があってもカスい奴が素手になってどうすんだ?」
思わず呆れ顔を浮かべたラングレットに、ブレンはにやりとした。

「こうするんだよ」
ブレンは大きく息を吸い込むと、呼気を胸の内に留める。
そして、それを一気に吐き出した。

ブレンはブビィと呼ばれる炎ポケモンの一種である。
そして、炎ポケモンの最大の特徴は、おそらく体内に炎の火種を宿した炎袋を備えている事であろう。
取り込んだ酸素を体内で燃焼させ、炎を一気に吐き出す。
「っ!?」
予想もしていなかった炎の攻撃にラングレットは息を呑む。
咄嗟に身を翻し炎の直撃を避けると、ラングレットが声を荒げた。
「飛び道具だ!? そんなもんありかよ!?」
「ありだよ、ね、ベオグラフさん?」
尋ねたブレンにベオグラフは沈黙をもって肯定する。
殺し合いに手段を選ぶ必要などない、先ほどそう言ったのはベオグラフである。

「ハッ! そーかよ! ならこっちも本気を出させて貰うぜ!」
ラングレットが吼え、再び地面を蹴る。
右手の剣を大きく振り下ろし、そのままの勢いで回転すると両の木剣を思い切り叩きつけた。
だがその一撃は強引に割り込んだヨーランが受け止める。
「ブレン!」
先ほどと同じく呼び掛けたヨーランに、今度はブレンは応えない。
その代わりに、大きく吸い込んだ呼吸を炎に代えて返事とする。
右の木剣で炎を払うように凪ぎながら、ラングレットが大きく後に跳ぶ。
しかし手にしているのは所詮木の剣である。
炎を浴びて燃え上がった木剣を慌てて投げ捨てたラングレットに、ブレンが拳を振るう。
振り抜いた左のストレート、それをラングレットは右腕で受け、同時に左の木剣を打ち据える。
右肩から強く打ち込まれたブレンがそのまま膝を突くと、ラングレットは視線をヨーランに向けた。
「ハッ、次はてめーだ、カス野郎!」

ヨーランとラングレットが同時に地面を蹴る。
ヨーランが振り下ろした木剣が地面を打ち、小さく舌打ちをする。
長いのだ。
ヨーランの背丈では木剣を振り下ろせば地面に引っ掛かってしまう。
わずかに出来る隙が致命的となる実戦では、それは決定的な弱点となってしまう。
ラングレットの横凪ぎの一閃を、木剣を地面に突き刺すようにしてなんとか受けるが、斬撃から繋ぐ拳を避けそこねヨーランが怯んだ。
「さぁ! くだらねーままごとは終わりだ!」
その隙を逃すわけがない、ラングレットの狙いすました一撃がヨーランを襲う。
「のっ!」
強引に体勢を下げ、木剣がヨーランの角を掠める。
そのまま倒れ込む姿勢のまま、思いっきり剣を叩きつけた。
空振った木剣は強か地面に打ちつけられ柄に近いところから圧し折れて弾ける。
「くっ!」
弾けた木片がラングレットの頬を襲い、僅かに目を瞑った、その瞬間、ヨーランは両手両足をバネにして跳んだ。
空中で折れた木剣を掴み取り、それをラングレットに叩きつける。
辛うじて木剣で受けたラングレットの、着地に合わせた足払いをまともに受け、ヨーランは地面を転がる。
「この!」
「まだ!」
叩き付けたラングレットの木剣を、さらに地面を転がって避けると、起き上がりざまに思い切り剣を振り上げる。
鼻先を掠める一閃にラングレットが半歩退いた隙に立ち上がると、切っ先をラングレットに向け突進する。
突き出した一撃を、回るステップで躱すと、振り向きざまに剣を振る。
それに合わせ、ヨーランは突き出した木剣を横に凪ぎ払った。
力はヨーランが上、弾かれたのはラングレットの方だ。
続けて放たれた袈裟懸けに切り裂く一撃を、ラングレットは後に倒れこむように強引に避ける。
折れて短くなった木剣は、地面に引っ掛かる事もない。
ヨーランはさらに踏み込むと、体勢を崩したラングレットに止めの一撃を打ち込んだ。

「……勝った」
その余韻を確かめるように木剣を握り締めたヨーランに。
「やったよー!」
ブレンが飛び付く。
「ハァ!? ちょっと待て! 今のは何かの間違いだ! 足が滑ったんだ! 罠だ! 陰謀だ!」
食い付くラングレット。
「ベオグラフさん! これで合格だよね!?」
そんなラングレットを余所に二人がベオグラフに視線を向けると、彼は重々しく頷いた。
「約束は約束だ、仕方あるまい」
ベオグラフが言うと、二人は歓喜の声を上げた。



クァーレンチノ暦七十五年七の月

「これで、シトレンチノともお別れかぁ」
ブレンは振り向くと感慨深く呟いた。
「すぐに帰ってこれるだろ、チルノを助けたら」
ヨーランがそう呟き返す。
二人が居るのはシトレンチノから南の街道へ続く山道だった。
「……ヨーラン変わったよね?」
「そうか? ブレンの方が変わっただろ」
「まぁ、そうだけど」
そう返事をしたブレンは、半年前、ベオグラフに弟子入りした時の小さな身体ではなかった。
ポケモンと言う生物特有の急成長、進化と呼ばれる現象がブレンにも起きていたのだ。
ブビィだった頃のブレンとは違い、ヨーランよりも小さかった背丈も今は彼の頭を見下ろす程である。
体色等に大きな変化はなく、そのまま大きくした様であるが、唯一尻尾だけは大きく変容し尾先には炎が宿っていた。
ブーバーと呼ばれる段階まで成長したブレンは大きく頷いた。
「そうだね、二人とも成長したんだよ、きっとチルノも取り戻せるよ」
「取り戻せるとか、取り戻せないじゃない、取り戻すんだ、俺たちの手で」
ヨーランが強い口調で言うと、再び歩みを進める。
奪われたものは奪い返す。
その為の戦い方も覚えた。
後は、チルノを取り返すのみ。

一葉 ( 2011/04/20(水) 11:55 )