鳥籠の歌姫と二人の騎士
虚ろう時の慟哭
遠くの地に堕ちる陽が空を紅に染める。
夕暮の冷たさを帯びはじめた風が、涙で濡れた頬を撫でるように吹き抜けていった。

「こんなところにいたのか」
不意に聞こえた声に彼は振り向いた。
苔の生した岩のような肌、鋭い目付きは本来の年齢よりも上に見られる原因でもあったが、涙で濡れたそれは、今は歳相応のあどけなさを湛えている。
「元気出せ、何て言えないけどさ……」
そう言いながら彼は視線を逸らす。
炎のような色の身体は、夕陽を浴びて本物の炎のように染まっている。
尻尾に灯る炎がゆらゆらと揺れ、言葉を選ぶ彼の心を代弁しているようにも見えた。
「ブレン、放っておいてくれ」
彼はそう切り捨てるように言うと背を向けた。
「ヨーラン……」
ヨーランは夕暮の紅から夜の藍色に変わりつつある空を見上げ小さく呟く。
「今度こそ、あの鳥籠を開けてやれると思ったんだ……」
その言葉は、彼女を鳥籠に堕としたことに対する懺悔のように聞こえた。
おまえは十分頑張ったじゃないか、それは彼女だってわかっているはずだ、だからおまえを助けようとして自ら籠の中に戻っていった、だからおまえが悔いることは……
言えるはずが無い。
だからブレンは炎のように揺れる尻尾を地面に横たえて口を接ぐんだ。
太陽が地の果てに消え、夜の気配が濃くなっていく。
星が瞬き始めた空から視線を外し、ヨーランは口を開いた。
「俺は……」
その言葉は、酷く重い感情を含んでいた。
深く深く、どこまでも深い負の感情。
そう、諦めにも似た感情を孕んだ言葉だった。
それを聞きたくなくて、その言葉をかき消そうとブレンは叫んだ。





物語は一年前に遡る。






一葉 ( 2011/04/17(日) 02:11 )