前編 Black tar
 11 溝落とし


 【打撃の夜も、涙の朝も】 キュレム


   11 溝落とし


「あのー! ちょっと複雑な雰囲気なところ悪いけど、ここも長くはもたないっぽいよ! みんな、急いで!」
 いたのかいなかったのかの意識の隅っこ、小さすぎるカラカラ(キュレム)が混乱を打ち消すように叫んだ。持ち主を自ら離れて現れたポケモンの一匹目をここ一番の反応速度でぶっ飛ばして、凍った時間の氷解にかかる。
 キュレムとミリィ以外の全員が目を覚ますと同時に、二匹目としてギギギアルが出現した。
 レッパクの右後ろ足とツノマルの左の掌があわせて鋼色の円盤へ叩き込まれ、向こうの壁に張り付けとされた。息を合わせたつもりではないが、繰り出しが一致していた。
「ミリィを戻してくれ」
 ――ミリィのボールはどこに?
 少年の言葉通り、レッパクがかばんを顎で引っ掴んで投げ渡した。そこでふと思い出して、
「側面のポケットにけむりだまが入ってる。タイミングは任せる、自由に使ってくれ」

 これ以上の窮地などあってはならないと少年は望んでいたのか、ミリィを回収した直後、灰色の玉を地面に食わせた。小さな閃光で薬品が引火し、手で触れそうなほど濃密な煙が一面に放出される。あらかじめ脳裏に景色を焼き付けておいたレッパク以下一同は、片づけた敵兵どもを軽々またいで脱出。道を逆走し、煙幕を脱ぎ捨て、硝煙の隙間からわずかに匂うシャバの空気を追って、今度こそ出口を目指す。今このとき、すべての草むらは揺らされるためにあり、すべてのわき道は無視されるためにあった。小石を避けようと意識するくらいならば踏みつけ、クリアリングとカバーをするくらいならば一秒でも早く前へ進む。騒がしい踏鳴で階段を駆けあがり、最初に躍り出たレッパクがプラズマ団員を発見、二番目のセブンが顔を出すときにはすでにそいつは気絶しており、レッパクもセブンたちを待たずに先を走る。思うことあってか、セブンはむきになって足を速め、レッパクの隣に並ぼうとする。三番目のキュレムがいでんしのくさびを軽く振りかざして、プラズマ団員のボールを氷で封印した。
 誰が提案したわけでもなかったのだが、全員の理念がうまく噛み合わさったようだ。その陣形は足を「逃」と駆動させていくうちにごく自然と形成され、余人を踏み込ませない鉄壁の型となった。先鋒のレッパクとセブン。追いかけっこでもしている兄妹がごとく先を走り、露払いを務める。中央にキュレム。背後を走る少年に蹴飛ばされないないよう気をつけねばならないし、レッパクとセブンの打ち損じを拾うかなりシビアなポジションでもある。キュレムに前を走ってもらう少年も少年で、足元のカラカラを蹴っ飛ばさないように必死、しかし全速力。しんがりに置かれるツノマルは、その体格で少年を遠距離攻撃から守り、尻に食らいついてくる狼藉者を振り向きざまにぶちのめす役割を担った。

 レッパクの電磁波とセブンの電磁波が同時に同じ結果をもたらした。前方に新たな敵性反応。人間二人と、キリキザン、ドテッコツ、ドリュウズ。
 きゅるきゅるきゅる――
「セブン、おれとの呼吸をあわせられるか」
「嫌っつってもやれって言うんでしょどーせ」
「舌、噛むなよ」
「うるひゃい!」
 ふっ、とレッパクは笑い、
「キュレムもしっかりな」
「おまかせえい!」
 定石、『三位一体(さんみいったい)』。

 立ち止まりはしない。これよりもっと速くなる。間合いを意識させる前に、打てる限りの手でとことん畳みかける。レッパクとセブンとキュレムの動線がうねるようにして絡みあう。
 三匹と三匹の内、先制を仕掛けたのはなんとキュレム。今までの走りを助走と置き換え、いでんしのくさびを投げ槍と見立てて前方のキリキザンへまっすぐ放つ。狭い道にほねブーメランの術理は無意味と考えたゆえの選択で、空気抵抗を持たない分だけ、先端が純粋な戦意となってキリキザンを狙っていた。

 キリキザンは一歩だけ進撃。まずは投擲武器の撃墜をと、両腕から()る刃で抜き合わせた。胸元で組んだ斜め十字が左右へ開き、メタルクローの交点にあるいでんしのくさびが撃ち取られて速度を失う。なんだこれはとキリキザンがいでんしのくさびを拾い上げた瞬間、夜目には厳しい10まんボルトがキリキザンの刀身を白に染めた。横壁を走って視界外にあったセブンの仕業で、後の処理はレッパクに任せる。電力残る体からのミサイルばりで、プラズマ団員二人の始末を終えていた。
 キリキザンのひるみを逃さない。視力を奪う稲光をいいことにどこからともなく現れたレッパクが、いでんしのくさびを軽く蹴り上げ、振り向きざまの口で受け取る。首を振り、臨戦心理の補正なしに、水平の衝撃をキリキザンの下っ腹へ落とした。まず一体。いでんしのくさびをその場に捨て去り、セブンに続く。

 株を奪われたとでも思ったのか、視力を取り戻したドテッコツは傍らの鉄骨を両手に構え、豪快ななぎ払いをみせた。キリキザンが捨て駒となってしまった今、相手の侵攻速度を計算に入れ直す必要があると考えたらしい。戦況の悪化の果てに選ばれた横殴りの一撃は、レッパクとセブンをまとめて倒すのに十分な信頼を置ける威力であり、読みの果てに避けられたとしても後続のドリュウズのために隙を作らせる、まさに武術の表裏を一致させた「完璧」な一手。
 だから、ドテッコツの目論見は通り、レッパクの横顔へ打撃が「完璧」に入った。サンダースの小さい顔に巨大な鉄塊は暴挙もいいところだったが、それを引き算してもかろうじてサンダースの体重が生き残る。よって、振り抜きの速度がわずかながらも削がれた。レッパクと一緒に巻き込まれようとしたセブンは、勢いの鈍みを狙って上へ逃げた。レッパクの体だけがめちゃくちゃにかき乱れて真横へ弾け飛ぶ。
 レッパクが壁にぶち当たったところで、ドリュウズが追ってドリルライナーを放つ。あと少しもすれば、レッパクが為す術もなく重に引かれて下へ落ちるだろう。そのことも考慮して、やや下をめがける。

 罠だった。
 いったいどういう奇術の成り行きか。レッパクが体の半分から無様に激突したと思っていたが、それはドリュウズの希望がもたらす幻想だったらしい。その実、レッパクは乱れる四肢を綺麗に折りたたんで壁へ張り付き、姿勢を整えており、さっき受けた勁力すべてを化かして壁へ流していた。撃ち返す、避けきる、いずれもが相手の力をそのまま体内へ残す結果となるため、レッパクは自らを餌として攻撃を受けていた。適当な手応えをドテッコツに与えさせることで、暴力の肝心な部分のみを丁寧に抜いた。つまり、一振りを終えて残心をとってしまうドテッコツ、その鉄骨、その先端、セブンがすたりと着地する。

 横壁のレッパクも、鉄骨のセブンも、簡単な笑みを浮かばせていた。
 ドリュウズがレッパクの無傷っぷりに気づいたころにはもうドリルライナーの勢いは止まらない。ならば、と追撃の随意を変更せず突進するドリュウズの決断に間違いはなく、雷に対する地の優位性そのままに勝負にかけるのは、その瞬時ではおそらく最適な解であった。
 ドテッコツは小手を返して邪魔者を振り払おうとするも、それはセブンを再び視界の外へ追いやる結果を招いた。雨霰のようなミサイルばりに全身を抜かれる。

 レッパクが壁を蹴り、ドリルライナーとの真っ向勝負に入ろうと「みせかける」。
 セブンがもう一度鉄骨へ着地し、馬鹿面を踏み抜くための接近を「みせかける」。

 打ち合わせの舞踏ように一括りであった全員の立ち回り、それらすべてを強制的に遮断したのは、レッパクの体を介してドテッコツの力を受けた壁だった。爆発と同時に砂塵を噴き出し、暴風にあおられたレッパクの軌道はあっさりブレた。計算済み。これによってドリルライナーをすんでのところでかわしきり、さっきまで自分が居たところへドリュウズの上体を突き刺す。同じくかすかな振動を受けたセブンは攻めから一転、ドテッコツから逃げ、自身に電流を投じて破片からの防御をとる。

 ドテッコツの後頭部を、ついに距離を縮めきったキュレムが襲った。体格差をものともしない堂々たる跳躍。右手に構え、得物の中心を左手で支える。先ほどは「槍」であったいでんしのくさびが、次は「棍」に成りすまし、充実した内息のもと、ホネこんぼうを実現させた。これで二体。
 最後は、壁への不時着から復帰するドリュウズの料理にかかる。呼吸を整える時間を十分にもらった三匹が一気に殺到し、それぞれ思い思いの技で、とどめを刺す。蹴、針、星、氷。三体。

 へー、
「結構やるじゃない、あんた」
 んひひ、
「どーもね。お嬢さんもあれだね、やっぱりお兄さんの娘さんだね」
 む、
「どういう意味よ。ていうかそもそも誰なのよ」
 ふう、
「あまり浮かれるな。ほら行くぞ」


   ― † ―


 こちらと同じような組織的な迎撃はあれが結局最後となり、残るは首級挙げを狙って独走する伏兵のみとなった。逃げ惑う者をわざわざ追う必要はなかったため、いまだ敵意を向けるやつらだけを意識すればいい。セブンは雑魚ちらしに躍起となり、敵よりむしろレッパクより先に反応しようという気概を思わせた。その気持ちを少しばかり察したレッパクもわざと数瞬を遅らせ、セブンのミサイルばりとスピードスターの弾道を見届ける。どうよとばかりのセブンの横目を受け、同じく横目を返してみる。その目の意味をたちまち誤解したセブンはすんと鼻を鳴らした。一方のレッパクは、セブンの戦い方を間近で見て、希望を内心につのらせていく。
 心配しなくてもいいかもしれない。
 今の、セブンなら、きっと――
 すがれるものならば命を捨ててでもすがりたいその結論を、レッパクはとうとう自分で突き放す。もっと単純で直接的にでなければ、こころの奥底では納得できないと、悲しくもわかっていたから。

 外からの空気と匂いをより強く感じられ始めたその時、
 ――ぅあっ!
「主人!」
「んわっ、ちょ、お兄さんお嬢さん、待って待って!」
 キュレムとツノマルが揃って反応した。
 暗くて慣れない道を長時間走らされていれば無理もなかった。少年が石を踏み損ね、足首をあらぬ方向へくじいた。つんのめる姿勢をかろうじてとどめたのは対の出足で、キュレムとツノマルの支えを受けてその場にしゃがみこむ。
 ツノマルが慎重に少年の靴を剥がし、靴下を脱がす。汗ばむくるぶしの奥から、いずれ腫れが浮き上がってくるだろう。せめてもと考えたのか、ツノマルが口から冷水を流して熱を逃す。
「あと少しで出口なんだ、頑張ってくれ」
 かといって、チャンピオンロードから脱出した先が安全という保証はどこにもない。それどころか、いよいよ本番となるのだ。どこか安全なところで一旦落ち着くべきかとレッパクは迷ったが、最後に託された道はこれ一本だけ。とりあえず出口を確認しようと、最後の曲がり道までレッパクは先行し、壁を味方にそっと向こうを覗き込む。

 夜を切り取った出口があって、何者かがいた。
 コジョンドだった。

 後ろ向きに座っていて、光満ちた月でも眺めているらしかった。
 さっきからずっと気づいていたくせに、そいつときたらこちらが気づくまでぼんやり待っていたようだ。気配を察知しあうと、やれやれとばかりに起き上がった。一度だけゆっくりと首を回す。独特の呼吸術を、レッパクはその背中で思う。いったいどこに臓物が詰まっているのかというほどの細い体へ、狂暴な戦意がみるみる収束していく。
 少年のみを死角の曲がり道に残し、以外の全員が集結してコジョンドの佇まいに警戒する。
 更にキュレムが一歩前へ。子供番組に出るお姉さんが持つマイクのようにくさびを構えて叫んだ。
「あーあー、聞こえますか、そこのコジョンドさん! おとなしくしていれば危害は加えないので、ちゃちゃっとそこをどいちゃってーください! 私たちの邪魔をすると言うの」
 ならば、と言おうとしたのだろう。

 定石、『一本橋(いっぽんばし)』。
 コジョンドはまず上体をねじってふりむいて、その勢いを下半身にも付加し、最初の一歩を作った。狂ったような笑顔だった。
 サポート役の人間も寄せず、単独で守衛を請け合うからには、相当の手練だったのだろう。その点に関してはレッパクの見澄ましは的中しており、このコジョンドの若者、字はナイファ。敵も味方もひっくるめて、数多くの人間とポケモンに地面を舐めさせてきた札付きの暴れん坊であり、プラズマ団内でも一部の人間たち以外には決して懐かない。『あばれることがすき』という評判をまさに地で行く鼻つまみ者だったが、今回の大がかりな暴動では巡り巡って業前を買われ、用心棒を担うまでにいたった。二転三転の末にここへ落ち着くまでに犠牲となったポケモンたちは、身内だけでも(とお)は軽く越えたはずだ。
 最初の餌食を決めたナイファが、闇先の輪郭を捉える夜歩きの術で一目散に駆けてくる。狙うはキュレム。速度を混じえた錯覚を利用しているのか、開けた半身からの右手が恐ろしくどこまでも伸びる。手形は剣。意念は貫。正鵠は首。袂のような腕のヒレがなびき、腕と共に一筋の長剣となる。少年ならば十回死んでおつりがきそうな殺意がキュレムの真正
 中途半端な(てい)での待ち伏せに苛ついた、というのが全員の本音であった。稲妻の反応を示し、ナイファの進撃を最初に覆したのはレッパク。転身からの回し蹴り、ではなく、両前足を地に預けての後ろ蹴り。体勢は(コンパス)。意念は浮。正鵠は顎。電力を付加させた悪夢のカチアゲを下顎にくらい、ナイファは体をひっくり返して上へ吹き飛んだ。
 定石、『九時三時(くじさんじ)』。
 ナイファよりもずっと早くセブンが天井へ跳びかかり、重力と後ろ足の弾性力を使って、下へ突貫した。両前足を綺麗に揃え、全力の虎撲を腹へ突き立てた。
 上へやられ、下へやられ、挟み撃ちの果てに、ナイファは(まり)のように地上ではずむ。後頭部をもう一度地へ落とせば、間もなく失神するほどにもう意識が削られている。
 が、ツノマルがたくましい両腕を左右へ回して大げさに(いだ)き、地上へと優しくおろした。
 もちろん。
 仰向けで。
 朦朧とするナイファを寝かせたツノマルが、拳を真下へ振り落とす。レッパクのカチアゲとセブンの叩き返し。ふたつの残勁がナイファの体内で暴れている模様を更に乱すべく、追い打ちの掌底を垂直に見舞った。
 三つ目の衝撃に、今度こそナイファの内部はぶち暴れた。

 またたく間の出来事だった。

「ならば、そのように痛い目に遭ってもらうこととなりました!」
 四つ目の衝撃が、キュレムの手によって頭上へくだされる。
 カキン、と肉を無視して骨を直接叩いたような乾いた音があった。
 どうだまいったかこのやろー、というカラカラの声を皮切りに、ナイファの意識は水底に沈んだ。
 役割を終えた横槍にくれてやる時間や言葉などもうない。


   ― † ―


 チャンピオンロードに入る前と同じ夜空があった。
 文章でも映像でも語り尽くせない、当のトレーナーたちしか味わえない極上の闘いというものを思う。イッシュはジョウトより多くの点で発達している地方だと聞いたが、それだけにこの厳かな雰囲気と年季の入りようは目立つ。背後には、ポケモンリーグよりも更なる洋館が、夜に溶けて宇宙へ同化するがごとく存在感を現している。傀儡の糸ともいうような長い階段がポケモンリーグの背中へ突き刺さっており、初見ならば判断に迷うほど一体化していた。一度ならず二度までも、真っ当な手段と手順でここへたどり着けない自分の運命を、レッパクは少し悲しんだ。
 ポケモンリーグの大広間を視認。正規のトレーナーはおろか、プラズマ団員すら一人として見当たらなかった。これ幸いとレッパクの手引の元、少年を最初の段差にまで導いた。かえって不気味だったが、Nの企みであったことをレッパクは後に知る。
 ちょっとやそっとでは破壊されないほど頑丈な氷を生成し、キュレムはチャンピオンロードの出口を完全に封印した。いい仕事だ、とレッパクは思わず歓声を上げた。
 寡黙なレッパクに褒められてすっかり気分をよくしたのか、キュレムはそのまま少年の隣、正確には階段の二段上へぽとんと座る。段違いで肩を並べる形をとり、少年の足へいでんしのくさびをかざす。みるみるうちに現れる氷が患部を閉じ込め、応急手当を施した。
「この体のせいで上手く加減できないから、かなり冷たいよ、ごめんね」
 ――君は、一体。
 危機一髪というか、危機連発を命からがら抜けだした少年の頭はまだ整理がついていないようだった。無理もない、とレッパクは思う。セブンと瓜二つの姿をしたオスのサンダース。へんてこな杖を持って、変幻自在の氷を魔法のように呼び出すカラカラ。それに――
 そのカラカラが、手にしている杖でそのブースターを指し、注意を促す。
 システム上、ボールの中で一時的な回復処置をなされたのか、ミリィの息は先ほどよりも大分整っていた。ためらいつつもゆっくりと伸びる少年の手が、いまだ意識失っているミリィの頬を優しく撫でた。
 ――本当に、ミリィ、なんだね?

 索敵完了、敵影なし。腕時計の回転も止まって現在時刻を示す。安全と確信を得たレッパクもついにひと安心した。そろそろと歩き、真剣な眼差しで段差の一番下から少年を見上げる。少年もレッパクの気配に気づき、視線をこちらへ戻してきた。
 姿勢を正す。腰を下ろし、耳を傾け、右前足をすっと差し出して前傾。
「これより仁義を切らせていただきます。向かいましたるお(あに)いさんには、初の御目見えとこころ得ます。どうぞ控えてください」
 ――え、なに?
 少年やツノマル、キュレムからすれば、端倪(たんげい)すべからざる、小難しい口上。よくわからない単語をぶつぶつとよどみなく並べているだけにしか聞こえなかっただろう。戸惑いを見せるのは作法を知らぬ文化の違いからだと思うが、それでもレッパクは、むしろ自分のために仁義を切る。挨拶する時間すら用意できなかった自分の不甲斐なさを戒めるがために、レッパクは考えうる限り、最上の言葉を選んでいく。その時の雰囲気が雰囲気だった、なんてのはただの言い訳だ。以前主人とともにミリィへ約束した、土下座の意味も深く含まれていた。

 少年の隣で同じく仁義を切ってもらったキュレムが、反対側のセブンに、意味を訊ねる。
「ねえお嬢さん、あれ、何?」
「仁義。ジョウト地方での、堅苦しい挨拶みたいなもん」
「ふうん、とことん真面目だねえ」



水雲 ( 2016/06/17(金) 18:48 )