あとがき
この手のあとがきがとても苦手な人間なので、あまり関係の無いところから始めたいと思います。
思うのですが、日本のRPGにおける重要な演出って、ラストバトルよりもファーストバトルではないのでしょうか。
最終決戦は、ほら、なんと言いましょうか、キャラのレベルも十分ですし、プレイヤーもコツを掴めきった状態ですし、回収すべき伏線バリバリですし、直前にセーブもしましたし、ムービーも入っちゃったりしますし、後ろには平和を望む人たちが待っているんです。それはもう負けていられません。実際に大抵のゲームではそこで勝ってハッピーエンドです。題材によっては勧善懲悪です。怒涛のエンドロールです。涙のひとつもこぼすでしょう。めでたしめでたし。
ところが。
最初のバトルはそうはいきません。
主人公もプレイヤーもレベル1です。ちまたのラスボス戦には必ず用意されているであろう、ド派手な「トドメ」というものがあまりありません。今まで遊んできたゲームの戦闘画面のインターフェースとは一旦おさらばして、新たな戦法を体で覚えていきます。
その「え? ここでいきなり戦うの?」状態のプレイヤーさんの心理に、「このゲームの戦闘はたとえ雑魚戦(チュートリアル)だろうとこんなに熱くて面白いんだぞ!!」という理念をいかにして叩き込ませるか、という開発者さまの「売り」が少なからず入っていると思うのです。バランスをミスると、あるいは意図的にそうすると、デバッガーさんでも最初の戦いで負けちゃったりします。ラスボスとはわけが違う。諸刃の剣です。マリオストーリーのクッパ戦とかは負け戦ですが。
その諸刃の剣が、「このゲームを最後までやってみよう」という意気込みと、「エンディングを迎えたうえでの評価」を真っ二つに左右するのでは、と。
実際、ポケモン初代がそれでした。御三家を手にしたあとに勃発するライバル戦。そこで物語の列車が動きます。そしてラストもライバル戦です。ライバルで始まり、ライバルで終わる演出の熱さに共感できる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
金銀もちょっとテンポがずれますが、トレーナー戦(実戦)という形では、やはりライバル戦が最初でした。ルビー・サファイアのようなお助けイベントも面白いですね。
いきなりそのようなレベルデザインでイベント戦をかますのも、最近では特に珍しくなくなりました。RPGツクールアドバンスとか早速中ボスです。エストポリス伝記(SFC)とか桃太郎まつり(GBA)とか、否応なくラストバトルのプロローグです。
FF7なんかも特殊ですね。通常戦闘ですが、警備員が2人押しかけてきてさくっと倒すとあら不思議。もうレベルアップです。これはこれでいい見せ方なんじゃないでしょうか。
ところで。
そんなRPGを小説にしてみると、やはり空気が違います。文章描写による間合い、というものがあります。今まで滔々とたらしてきた持論がぐちゃぐちゃのシロモノです。文字は画面とは打って変わって、決してシームレスではありません。
主人公もレベル1。読者様もレベル1。でもって、作者であるわたしもレベル1です。足並みを丁寧に揃えて歩き出す、そんな最初の戦いです。こういう自分流かっこよさを見せたいな、こんなスキル使えるキャラクターを考えたんだよ、が盛りだくさんの見せ場です。詰め込み過ぎると自爆するので、本当に微妙な調整が必要です。
そしていざ。第二話で描かれた「おいうち試験」。上のようなことを頭の片隅に控えつつキーボードぱしぱし叩いてみたら、「ああ、やはり自分もいいかっこしいだったのだ」と自覚せざるをえない事態に。レッパクの特徴。専門用語である「定石」。内面的な臨戦心理。頭に入りきりません。そもそも、ゴールドたちはこれが初バトルではありません。いわゆる「つづきからはじめる」、「強くてニューゲーム」状態です。星の数よりメンコの数。わたしはその肝心なギャップを完璧に忘れてしまっていたのでした。勝てっこありません。
そんな形で良くも悪くも、わたし(Lv1)とゴールド(Lv30くらい)とレッパクたち(Lv45くらい)の初陣は幕を下ろしたのでした。
作家・シナリオライターさんの中には、もしかしたらですが、最後の山場を先に書きあげてしまうお方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。でもやっぱり伏線を完全に練り込められなかったりで校正しなおし、結局、本来の脚本と毛色が随分と変わってしまったり。
ちなみに、わたしが一番好きなファーストバトルはFF9です。あの限定された狭苦しい部屋の中で、4人と1人がいきなり戦う――これに熱くならなくてどうしますか。バテン・カイトス2のような内輪揉め初戦もなかなか面白かった思い出があります。ブラック・ホワイトにいたっては家具がぐちゃぐちゃです。大変です。
あなたの好きなファーストバトル、ラストバトルはなんですか?
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この小説にとどまらず、あとがきも読んでくださったみなさまに胸いっぱいの感謝を。
ここから先は、レベル1に戻ったゴールドたちの物語です。
続編は……どうしましょう。150年前の動乱を描いた過去編である、語り口調ドキュメント「ゼノアルマ」。もしくは、レッパクの娘が登場した短編をプロトタイプとし、延長させた未来編「Se7eN」。いずれにせよ長くなりそうです。
言葉の蒼穹で、またお会いしましょう。