へっぽこポケモン探検記




















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第五章 “眠りの山郷”編
第六十話  お邪魔虫、再び
 ――流浪探偵・ローゼは、文字通り三秒で怪盗・ヴェッタを撃破して見せた。そんな彼がヴェッタを引きずって山郷に向かっている頃……。





「……なん、だとッ……!?」
 やっとのことでシャナはその言葉を吐き出した。
 ――生きていないかもしれませんわよ――。
 目の前にいるジャローダ――四本柱のミケーネは、確かにそう言った。確かにもし、カイとスバルがそのもう一匹の四本柱と鉢合わせてしまったら……。そう考えると、彼女の言葉も決してハッタリなどではない。
 シャナは冷や汗をかいた。カイとスバルが危ない!
 他の二人もシャナと同じ結論に行き着いたらしい。押し黙ったままどちらも口を開こうとしない。
「あら、どうしまして? 先程の威勢はどこへいってしまったのかしら」
 ミケーネはねっとりとした口調で、体をのけぞらせながら言った。
「……シャナさん、どうしましょう……?」
 ミーナが不安そうな瞳で彼を見上げた。すると。

「――助けに行くっきゃねぇだろ!!」

「「!」」
 すぐ横で叫び声が轟いた。その声の主――ルテアは、鋭い眼光を放ちながらシャナに詰め寄る。
「お前が助けに行け! ここはミーナさんと二人で何とかする」
「いや……ッ、しかし、戦闘力が未知数な四本柱相手に二人では……!」
「てめぇはまたそうやって失った後に後悔するつもりか馬鹿野郎ッ!! 行けっつってんだよ文句あんのか!?」
 ルテアの叫びが鼓膜をつんざいて、シャナは息を飲んだ。
「それともあれか!? てめぇは俺たちじゃジャローダ一匹も倒せねぇとでも思ってんのかよ!」
「……」
 シャナはしばらくルテアの叫びを頭のなかで処理するのに時間がかかった。
 ――失った後に後悔する……。そうだ、俺が……俺が行かなくては……!
「ルテア、ミーナさん……頼めるか?」
「おう……まかせとけ」
「大丈夫ですよ!」
「……ありがとう」
 決心がついた。シャナは光の宿った目をまっすぐにミケーネへ向ける。
「ふん……誰一人として逃がしませんわよ! “くろいまなざし”!」
 ミケーネの赤い目が一瞬黒に染まった。しかし、技が発動される前にルテアが動く。
「させるかッ! “守る”!」
 ルテアはミーナとシャナにまで範囲を広げて緑色のバリアを張った。“くろいまなざし”はそのバリアの前で効力を失う。
「キィイイイイ! “守る”ですってぇ!?」
「シャナ! “守る”を解くぞ!」
「了解!」
「……今だ!」
 ルテアが叫んだと同時に、彼はバリアを解く。そしてシャナは障害物がなくなっ瞬間に……。
 ダンッ!
 その足を使って思いっきり地面を蹴った!
「なッ……!?」
「高い……!」
 シャナはその脚力で、軽く周りの木は越えられるぐらいの高さで跳躍した! そして彼はルテアたちやミケーネのいる場所から少し離れた木々のなかに着地、木の葉が掠れる音を響かせた。
「よし!」
 ルテアは思わず叫んでいた。もし彼が二足歩行だったなら、ガッポーズでもしていたところだろう。
「な……!」
 ミケーネはまたもや敵を逃がしてしまい、言葉をなくしてしまった。そこへ不敵に笑ったルテアが挑戦的な口調で言う。
「さて、ミケーネとやら。そろそろてめぇをボコボコにするときが来たようだな」
「キィイイイイ! なんですって!? 私があなたたちごときに倒されると思いまして!?」
「強がったって無駄ですよ! こっちは二匹なんですから、あなたが捕まるのも時間の問題です!」
「……ふん! あなたたち……。まさか戦う相手があたくしだと思いまして?」
「……なに?」
 ミケーネが、思わず聞き返したくなる意味深な台詞を口にしたので、ルテアは思わず低い声で聞き返した。
 ――戦う相手が自分じゃない、だと……?
「ハッタリですか?」
 ミーナが慎重にルテアへ尋ねる。彼は曖昧に答えるしかない。
「さあ……わからねぇ」
「ふん! 信じてないといった顔ですわね。ならば、見せてあげますわ、あたくしが用意した戦力を!!」
 ミケーネが、高らかに叫んだ。すると、示し合わせたようにミケーネの近くの茂みがカサカサと揺れる。二人はその方に警戒を強めた。そして……。
 ビュンッ!
 茂みの中から、素早く何かが飛び出してきた。その何かは、ルテアとミーナの前に立ちはだかる。そして……。
「あ、あなたたちは……!」
 思わずミーナがそう叫んだ。はたして、その相手とは――。





 ミケーネをうまく通り抜けることに成功したシャナは、そのままカイたちが去っていった方向に向かって走り出した。
 もうひとりの四本柱の存在……。
 ただでさえ自称“イーブル”で一番強い四匹のうちの一匹がシャインズの前に現れるかもしれないのだ。ローゼの戦闘力は未知数だからまだわからないが、四本柱が二人と鉢合わせたら確実にやられる。
 ――くそっ! これならラゴンさんに殴られてでも、あの時に二人のメンバー入りを反対すべきだった!
 後悔先に立たず。シャナは自らのミスを噛み締めながら、なんとか二人に間に合うように走った。


「おや? シャナさんではありませんか」
「!」
 不意に横から自分を呼ぶ声がかかり、シャナは急ブレーキをかけた。この声は……。
「ローゼさん!? あんた……!」
「いやはや、シャナさん。あなた、ジャローダと戦っているのではなかったのですか?」
 ローゼはシャナから少し離れた所から、そう言いながら歩み寄ってきた。シャナは歩み寄ってくるローゼの姿に、少なからず驚きを覚える。
 片手には“器”を持っていることから、怪盗から宝玉を取り返してくれたのはわかった。しかし問題は……もう片方の手が、白目を剥いているヴェッタを引きずっていて、ローゼの顔になぜか見通しメガネが乗っていると言うことだ。
「いったい何が……?」
「あ、これですか?はっはっは。ヴェッタさんを捕まえたついでに、戦利品としてもらっておこうかと……」
「……」
 シャナは一瞬複雑な気持ちになりかけたが、今の自分のやるべきことをなんとか思いだし、突っ込みたい気持ちをなんとか抑える。
「いや、今はそれどころじゃない!」
「……どうしたのですか?」
 ローゼは、シャナの焦燥を敏感に捉えた。彼の口調が真剣なものに変わる。
「実は――」
 シャナはローゼに、ミケーネが言ったこと、そしてシャインズ二人の身の危険について簡潔に話した。
「てっきりシャインズはあんたと一緒にいると思っていたが、いないのか!?」
「途中で彼らとは二手に別れたんです。あちらはトニア君を追っています」
「どっちにいった!?」
「あっちですね」
 ローゼは、先程自分が来た方向とは別の方向を指差した。
「……」
「わたくしも、このひとをナハラ司祭に引き渡したらすぐに向かいましょう」
「頼む。……だが、信じていいのか? その方角」
「はっはっは。嫌ですねぇ、シャナさん。どうしてそんなことを聞くのですかー」
「……」
 シャナはしばらくの沈黙の後、ローゼが指差した方向とは反対方向に走り出した。
「おや!? シャナさん! 二人が向かったのはそっちではありませんよ!? おーい!」





「あ、あなたたちは……!?」
 ミーナが茂みから現れた“戦力”を見た瞬間、その顔色が一瞬で驚愕に変わった。信じられない、というふうに声をあげる。
 彼らの前に現れたポケモンは――三匹。そして、その種族は……。
「フワライドにバクオング……スカタンクか」
 ルテアが冷静に分析する横で、ミーナは苦虫を噛み潰した時以上に苦々しい顔になりながら呻く。
「……クーガンと、バソン……! あなたたちが、“戦力”……!?」
「なんだミーナさん。知ってるのか?」
「フワライドは面識がありませんが、後の二匹は“空の頂”でさんざん私たちの邪魔をしてくれた“イーブル”の自称幹部です……」
 ミーナがそういうと、幹部たちの背後にいるミケーネが嘲るように鼻を鳴らした。
「ふん! こいつらが幹部だったなんて組織の恥以外の何でもありませんわ!」
「あっちのフワライドは……まさかシャナがボッコボコにした奴か? 残りの二人……弱いのか?」
「ええ」
 ルテアの問いに、ミーナは清々しいほどの即答をして見せた。しかし、そのミーナの反応が逆にルテアの危険信号を刺激する。
 ――なぜ、このくそむかつくジャローダはわざわざミーナさんに「弱い」と言わせるほどの戦力を連れてきた……? こいつはそんなに馬鹿ではないはず……。おかしい。何かがおかしいぞ……!
 ルテアが毛を逆撫でて警戒を露にしたのと同時に、ミケーネは叫ぶ。
「さあ……行きなさい! この二人を倒すのですわ!」
 その瞬間、命令を受けた三匹は不気味なほど静かに、そして忠実に、ルテアとミーナに向かって走り出した!
「また猪突猛進ですか! させませんよ――“エナジーボール”!」
 ミーナは、“空の頂”にてクーガンと手合わせをして相手の力を見切っていたのもあってか、まっすぐに向かってくる三匹に向かって正面から緑色の球を三発連続放った。
 それらは見事に命中! ……したはずだったのだが。
「なっ……!」
 彼らはダメージなど始めから無かったかのように、“エナジーボール”を受けて崩した体勢そのままで、まっすぐミーナに向かって迫った!
「きゃっ……!?」
「“守る”!」
 バシィン!
 三匹のポケモンたちは、ミーナの前に唐突に現れた緑色のバリアに激突した。思わず目をつぶっていたミーナは、自分のすぐ横でバリアを張ってくれた相手を見る。
「ルテアさん……! ありがとうございます」
「ああ……。チッ、やっぱりバリアに激突しても叫び一つ上げねぇか」
「これは、どういうことなんですか!? 確かに“エナジーボール”は当たって、相手はバランスを崩したはずです! なのに、あんな体勢でも無茶して私に向かってくるなんて! あんなことしたら怪我しますよ! なのに、これじゃあ……まるで……!」
「――”痛みを感じないかのようだ”、と?」
「!」
 ミーナの叫びの後を引き継ぐかのように、いきなりそう言ったのはミケーネだった。彼女はミーナの反応を面白がるかのように見下ろして、こう言う。
「フフ、そんなのは当たり前ですわよ」
「あのな、ミーナさん。恐らくあいつらは……」
 ルテアがミケーネを睨みながら慎重に口を開いた。
「――NDに侵食されすぎて我を失っているんだ」

■筆者メッセージ
2014.4.3 前回投稿分と同じ内容を投稿してしまいました。申し訳ありません! これからもへっぽこをよろしくお願いします!
ものかき ( 2014/04/03(木) 22:39 )