へっぽこポケモン探検記




















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第五章 “眠りの山郷”編
第五十二話 対決当日!3 張り込み開始
 ――僕がナハラ司祭の家で仮眠をとっている間に、いつの間にか日は西に沈もうとしていた。そしてついに、怪盗“D”との対決のときが来た!





 日没の直前に再び僕らは祭壇の入り口に集合していた。ついに怪盗“D”の犯行時刻が迫っているだけあってみんな緊張した顔つきになっている。もちろん、自然と僕らを取り巻く空気はピンと張りつめる。僕、こういう雰囲気ちょっと苦手だなぁ……。
「さて。全員揃ったところで、さきほど決めた祭壇の見張りの配置を言いますね」
 ヴェッタさんは片羽を広げながら僕らに言う。彼の宣言した配置はこうだ。
 まず、入り口の目の前にシャナさん、ヴェッタさん、ローゼさん……なぜか僕!? そして、祭壇へと続く洞窟の入り口にルテアさん、ミーナさん、スバル。ナハラ司祭と数匹のムンナたちは、宙に浮遊できると言うことで、祭壇の崖側を見張る。もちろん、その間はバリアを終始張っておく。次に日が昇るまでの長期戦だ。
「申し訳ありません。“D”がバリアを掻い潜ったトリックを私が見破ることができていれば、もっと確実な対策が練れたのですが……」
「いや、ヴェッタさんにトリック解明を押しつけてしまったこちらも悪いんだ。協力してもらえただけで感謝している」
 シャナさんがまっすぐにヴェッタさんを見てすかさず言った。そうだ、彼はつい昨日の夜になりゆきでここに来ただけなのに、怪盗の逮捕に協力してもらえるなんて……感謝してもしきれない。
「……ありがとうございます。では、今から張り込みを開始します。不審な点があれば、すぐにでも報告をお願いします」
 ヴェッタさんのその言葉に、全員が固く頷いた。そして、ナハラ司祭が前に出る。
「では、最後に宝玉を全員の目で確認してから、バリアを張ります」
 そう言って彼(ナハラ司祭はオスだった!)は祭壇の扉を“念力”で開いた。そこには、いつもと変わらず二つの宝玉が静かにたたずんでいた。……怪盗“D”は、今からこれを盗みに来る……!
 いったい、怪盗はどうやってこれを盗むつもりだろうか……? 盗みに来るってことは、僕らの目の前を通るかもしれないってことで……! そう思うと僕は自然と全身が強張ってしまった。
「みなさん確認しましたね?では、扉を閉めバリアを張ります。下がっていてください」
 いつのまにかナハラ司祭がそう言って僕らを見渡した後、扉の前に立ってさきほどのように“念力”を使い扉を閉める。そしてやはり……!

 ――カッ!

 ……か、開眼した……! う、うーん……やっぱり怖い……!
 目に見えないバリアが祭壇の周りに張られたらしい、また空気が微妙に揺れるのを僕は肌で感じ取った。
「よし、じゃあ俺たちは洞窟の入り口だな。スバル、ミーナさん、行こうぜ!」
 ルテアさんは自分を鼓舞するかのように意気揚々と二人に声を張り上げた。そして三人は広場から退場する。去り際に、スバルが僕に向かって振り返る。
「カイ、そっちは頼んだよ!」
「う、うん……」
 そ、『そっちは頼んだよ』って……! もし僕が怪盗と鉢合わせしたらどうしよう……ぜったい足止めなんかできないよぉ……!





 日没と同時に怪盗との知力……いや、体力勝負が始まった。
 どちらかというと、怪盗より睡魔との戦いなんじゃないのか? まあ、俺にとって徹夜の張り込みは初めての体験ではないが。
 ヴェッタさんは怪盗が予告状を祭壇のなかに入れたトリックを見破れなかったといっていたが、トリックを見破るのに時間を費やすよりはこうやって今みたいに全員で祭壇、もとい二つの宝玉を見張っていた方が確実だと思う。
 ……しかしそれ以前に、彼が余計な横槍を入れなかったら、今頃宝玉は確実に安全なギルドにあったはずだったんだ! あのフローゼル、いったい何を考えている……!?

 まさか……こいつが怪盗なのか?

 “器”を犯行前にギルドへ持ち帰ろうとする俺たちをとどまらせるために、あんな最もらしいことを言ったのか? だとしたら、俺たちはまんまとその策に嵌まったということだが……。
 いや、もし彼が怪盗だとしたら、どうやってこの状況のなか宝玉を盗み出す? ここには今、俺とヴェッタさん、ついでにカイがいるんだ。普段のカイの戦闘力はアレだが、もし彼自身の身に危険が訪れれば“もう一人のカイ”が黙っていないはず。実際に見たことはないが、ダークライを下したあの強さが怪盗に劣るとも思えない。
 だがもし、ローゼイコール怪盗“D”だったとすると、なんのために二つの宝玉を盗もうとしているんだ? それ以前に、宝玉を盗むのが困難になるはずなのに、俺たちに接触している理由は? たしか俺たちがローゼさんに初めて会ったのはシェイミの隠れ里に行く前だ。そのときからすでに俺たちと接触するのが計算の内にあったのか? だとしたら……恐ろしいほどの策士だぞ、ローゼさんは。
 俺はふとローゼさんの方を見てみた。彼は相変わらず胡散臭い微笑をたたえつつその場に立ち尽くしていたが、俺の視線に気づいたのか、わずかにこちらに目を向けるとニコリと笑いかけてきた。
 ……こいつ……まさか俺が疑っているのをわかっていたりして……。
 ――いや、まさかな。





 張り込みを初めてからすでに三時間ほど経過した。
 外は当たり前だが真っ暗なはずだ。残念ながら広場からは外の様子を見ることができないが、今頃満月が真上に到達しているはず。
 いつ来てもいいはずの怪盗は姿を見せておらず、広場に目立った動きは無い。 俺はカイの方を見てみた。普段ならそろそろ寝る時間なんだか、まさか張り込み中でもそこまで体は正直じゃないだろうな?
「……ぐぅ……」
 おいぃいいいッ!!
 しっかり寝てるじゃないかカイぃいいい! 正直すぎるだろう、体が! 体内時計が正確無比すぎる!
「おい、カイ! 起きろ寝るな!」
 俺はカイを小さな声で叫んで起こした。すると。
「……はっ!」
 起きるのも人並み以上に早かった。……スバルやルテアじゃ、こうはいかないな。
「うわ……シャ、シャナさんっ! 僕寝ちゃってました?」
「それはもうばっちりとな」
「うわぁ……! す、すいませんっ!」
 別にそこまで謝ってもらわなくてもよかったが。まぁいいか。まあ、こんな幼いカイやスバルにこんなことをやらせる俺たちもどうかと思うが。つくづく二人を器捜索メンバーに入れたラゴンさんの考えが読めない。
「まだまだ先は長いぞ、カイ。眠いだろうが頑張ってく――」
 ――ん? なんだ?
「……シャナさん、どうしたんですか?」
「シッ! 静かに」
 心配そうに俺のことを見上げるカイを、俺はすかさず制した。

 ――誰かが、いる?

 なんだ、この感覚は? ここには俺、カイ、ヴェッタさん、ローゼさんの四人しかいないはず……! なのに……それ以外の気配を感じる。怪盗か?
「どうかしましたか?」
 俺の反応に気づいたヴェッタさんが尋ねる。俺以外にこの違和感を感じていないのか?
「なにかいるぞ……この空間に!」
「なんですって!?」
 俺たちは全員で辺りを強く警戒した。辺りにくまなく目を光らせる。しかし、気配の正体がわからない。
 なぜだ!? なぜ見つからない! 気配はまだ続いているんだぞ、すぐ隣に!
「な、なんにもないですよ?」
 カイが控えめに俺に向かって言った。
 その瞬間、俺が感じていた違和感が……消えた。
 どうしてだ?俺の感じた違和感はなんだ? 気のせいか? いや、しかしさっきまでは感じていたんだ!
 何者かの気配を!





 シャナさんが何かの異変を察知したようだけど、結局なんの状況の変化も訪れなかった。
 なんでだろう?
 シャナさんは勘、というか本能に近いものが桁外れに優れているし、実際いままでそれに助けられたことはたくさんあった。だけど今回は、それが外れた? 珍しいこともあるんだなぁ。



 僕らが張り込みを開始してからすでに、かなりの時間がたった。僕の体内時計によると、もう朝日が差してもおかしくない時間だ。でも、怪盗は結局現れなかった。つまりそれって――。
「――もしかしたら怪盗は、犯行を諦めたのかもしれませんねぇ」
 うわぁっ!?
 ローゼさんはいきなり僕に向かってそう言った。もう! 驚いたなぁ……!
「どうやら日は完全に昇りきったようです。一応皆さんを呼び戻しましょう」
 ヴェッタさんはどこか腑に落ちないような顔をしながらも、僕らに向かって言った。たしかに、怪盗が現れなかったのはなんだか納得いかないけど、犯行時間が過ぎちゃったんだからしょうがないよね。





 再び僕ら全員は広場に集合した。何時間ぶりに会ったスバルの目はかなりしょぼしょぼしている。僕といい勝負だね。
「結局怪盗は現れなかったのですか?」
 ナハラ司祭は気が気じゃない様子で僕らに言った。ヴェッタさんが固い表情を崩さないままメガネを押し上げる。
「取り合えず宝玉の無事を確かめましょう。ナハラ司祭、バリアを解いてもらえますか?」
「はい。では下がっていてください」
 僕らは彼の言う通りに一歩後ずさった。そして、三回目となる開眼をしてバリアを解く。
「では、扉を開きます」
 ナハラ司祭がそういうのと同時に、扉は重い音をたてて開いた――。
「……え……」
 声をあげたのが誰なのか僕にはわからなかった。なぜなら僕は、目の前の光景に釘付けになっていたからだ!

「――宝玉が……無いっ!?」

ものかき ( 2014/03/26(水) 14:03 )