へっぽこポケモン探検記




















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第五章 “眠りの山郷”編
第五十話 対決当日! 祭壇へ
 ――怪盗“D”とかいうふざけた名前の怪盗を前に、渡りに船といった感じで現れた“さすらいの探偵”・ヴェッタさん。僕らは果たして無事に怪盗を逮捕して“器”を回収できるかな……?





 ……ぅーん……。そろそろ起きなきゃって僕の体内時計が訴えてるんだけど……。なんでだろう……?
 なんか、苦しい……!!
 体に重くのし掛かる違和感のせいで僕の寝起きは最悪だ。なんなんだよ、もう……。僕は違和感の正体を探るためにゆっくりと目を開いた。すると……?
 息がかかるほど近くに……スバルの顔が……!?
「う……うわぁあッ!? ちょ、ちょっとスバル!? 離してー!」
「……むぅ……」
 ギュッ! なぜか僕に抱きつくスバルの腕の力が強まる。
「うわぁ!! スバル起きろー! 正気になれぇえッ!」
「……んぅ?」
 ぱちっ。
 ……目を覚ましたスバルと視線が合った。そして……?
「っ……きゃあああああッ!」
「え、ちょ、まっ――ぎゃぁああああッ!?」
 ……電撃の炸裂音と僕の叫び声が“眠りの山郷”にこだました……!!





「……おい。どうしたんだよ、カイ? そんなシケた面しやがって」
「い、いや何でもないです……」
 僕はルテアさんの質問に曖昧に答えるしかなかった。
 まさか……『寝相が最悪なスバルが自分のベッドを通り越して僕にものすごい力で抱きついてきて、あげくに電撃を放ってきました』……なんて言えない……。
 スバルの寝相がお世辞にもいいと言えないのは前から知ってたけど……。まさかあんな……相手(ぼく)のテリトリーに進入したのは初めてだ……! 寝てるんだから無意識なのはわかるよ。だけどさぁ……。
 地味に距離が近いんだよ……! いや、“地味に”というより“派手に”! 僕が狼狽して取り乱すには十分な威力なんだよ……。しかも、無意識とは言えあっちが抱きついてたのに“十万ボルト”だなんて……。
 ……君ってさぁ、“かわいい”か“美人”かは知らないけど、とにかく世間から見れば“顔が良い”の部類に入るんだよ? スバル……。そんな顔にあんな近くまで近寄られたら、僕は……!
 ん? 僕は……?
「まあとにかく、朝飯を済ましちまえよ。その後でナハラ司祭が祭壇に案内してくれるだとさ」
「は、はぁ……」
 もう……僕はどうすれば良いんだ……。





 とりあえず僕は、スバルの電撃でチリチリになってしまった毛を整え食堂に向かう。するとそこには“さすらいの探偵”――ヴェッタさんの姿が。彼は僕の姿を認めると、穏やかな笑みを浮かべてメガネを押し上げた。
「おはようございます。えっと、あなたは……」
「か、カイです」
「ああ、そうでした。いや……昨夜ミーナさんに教えてもらったんですが、なかなか物覚えが悪いんですよ、私」
「は、はぁ……」
 初対面のポケモンと朝ごはんはやりにくいなぁ……。
「ホホッ、そんなに構えてもらわなくても結構ですよ、私は間違ってもいきなり噛みついたりはしませんからね」
「は、はぁ……」
 僕の気持ちはヴェッタさんには筒抜けのようだった。それでいて一緒にいても嫌な感じがしないのはこの人の持ち味なのだろうか。
「よろしくお願いしますね、カイさん」
「あ、こちらこそ」
 僕とヴェッタさんは、朝ごはんを一緒に食べたんだけど、彼は予想以上に気さくで優しい人だった。初対面でこんなに気負わずに相手と話をしたのは初めてかもしれない。
 探偵であるヴェッタさんは、やはり各地で普通なら誰も解けないような難事件を解決しているようだ。僕は、祭壇を案内してもらうためにナハラ司祭のところへ行く間、解決した事件のうちのひとつをこっそり教えてもらったりした。
「――というわけでしてね、こうして犯人はジバコイル保安官に逮捕されたということですよ」
「すごいですね」
「運がよかっただけですよ……っと、どうやら私たちが最後のようでしたね」
 ヴェッタさんがそう言うので前方を見てみると、火が灯されていない巨大な松明の前で全員が待っていた。僕らが揃ったのを確認したナハラ司祭は、くるりと全員を見回した。
「これで全員ですね? では、祭壇へ案内しましょう」





 祭壇は崖に埋め込まれているように建っているので、そこまで行くには崖に掘られた人工的な洞窟を通る必要がある。……つまり、ぼくは息切れまっしぐらだ。
 ちなみに先頭はナハラ司祭で、彼(いまだに性別がわからないけど)は“フラッシュ”を使って洞窟を照らしている。洞窟の中は意外と狭い。元々ムシャーナ族仕様の洞窟なので天井までがローゼさんの背ぐらいまでしかないのだ。僕やスバル、ミーナさんは小柄だし、ルテアさんは四足歩行だから大丈夫だけど……。
「――痛っ!? ……くそっ……!」
 シャナさんは涙目になっていた……。身長約一九〇センチは伊達じゃない。
 僕は、息を切らしながら上り坂な洞窟をしばらく歩くと、唐突に広場のような所へ出た。
「さあ、着きました。ここが祭壇の入り口です」
 広場の奥には巨大な扉が威圧的に僕らを待ち構えていた。広場自体は所々に松明が灯されていて比較的明るい。
「本来なら司祭(わたし)と徒弟(ムンナ)たち以外は入れない場所です。くれぐれも、ここでの事は内密にお願いします」
 ナハラ司祭は厳かに僕らへそう告げると、扉の前に立って“念力”――司祭しか使えないという特殊なものらしい――を放つ。すると……?
 ゴゴゴゴ……。
 扉は地面に擦れる音を放ちながらゆっくりと開いていった。僕らは静かにその様子を見守っていたが、完全に扉が開くとルテアさんが……?
「ようし、やっと中には入れるぜ」
「あ、ちょっと……!?」

 バチィンッ!!

「のわッ!?」
 な、なんだ!?
 ナハラ司祭の制止の声より先に中へ入ろうとしたルテアさんは、入り口に通りかかった瞬間……見えないバリアのようなものに弾かれた!
「いってぇッ! 何が起こったんだ!?」
「だから言ったでしょう! この祭壇には司祭(わたし)が敷いた“絶対防御”のバリアに守られていると……」
「まさか……本当になんでも弾くんですね……」
 ナハラ司祭が困惑しながら言う後ろでミーナさんが納得したように呟く。ローゼさんはこのバリアによほど興味を示したようなのか、入り口ギリギリまで来るとこう言った。
「ほう……? これはポケモンだけでなく技も弾くのですか?」
「ええ。どなたか試してみますか?」
「じゃあヴェッタさんやってみます?」
 ローゼさんはいきなりヴェッタさんを指名した。っていうか、なんでこの人は勝手に話を進めているんだ……?
「え? 私が、ですか?」
 指名された当の本人は困惑気味になっていた。当たり前だ、いきなり指名されたんだからね。
「しょうがないですね……行っちゃいますよ?」
 ヴェッタさんはナハラ司祭をちらりと見ながら言った。彼がうなずくのを確認すると、ヴェッタさんは羽を広げ……?
「――“エアスラッシュ”!」
 ザンッ!
 ヴェッタさんは祭壇の入口に向かって技を放った!威力が高いその技は、入口に触れる寸前に……?
 バチィンッ!!
 ルテアさんが弾かれたのと同じように“エアスラッシュ”はバリアを侵すことなく弾かれて消滅した。凄い……。
「これでお分かりでしょう? このバリアは部外者には――たとえ壁をすり抜けられるゴーストタイプのポケモンでも、“念力”を使えるエスパータイプのポケモンでも――侵入不可能です。怪盗はいったいどうやって……?」
 ナハラ司祭が一人悶々と考えている横で、シャナさんは「とりあえずなかに入ろう」と言った。
「はい、ではバリアを解きます。下がっていてください」
 ナハラ司祭がそう言うので、僕らは全員一歩後ずさる。彼は入口の前に立ち、今まで閉じていた目を……?
 カッ!!
 か、開眼したッ!?
「ひぃいいいッ!?」
 僕は思わず小さな声で絶叫した。小声で絶叫なんてなかなか器用なことをしたと思う。だ、だって! ムシャーナの……ムシャーナの目がぁあ! 言葉で説明できたらどんなにいいか!
 僕が取り乱して口をパクパクさせていると、辺りの空気が一瞬だけ揺れたような気がした。そしてナハラ司祭は、何事もなかったかのようにこちらに振り返る。僕が一歩後ずさりそうになったのは誰にも言えない秘密だ。
「では、祭壇の中へ参りましょう」





 祭壇の中の前方は、壁ではなく柱が埋め込まれているので、景色が開けていて外が丸見えだ。そして、部屋の真ん中に台座のようなものが置かれていて、その上に二つの丸い不思議玉のようなものが置かれていた。
 そう、なぜか二つだ。
 僕らはアリシアさんから“満月のオーブ”の“器”がここにあると聞かされていたので、てっきりこの祭壇に守られているのは“器”ひとつだけだと思っていた。なのに、なんで二つもあるんだろう……?
 その二つの宝玉のようなそれはどちらも完璧な球状で、片方は透き通った透明な球。もうひとつは光の加減によって七色に見える不思議な神秘を醸し出す球だった。その二つの宝玉に見とれていた僕たちに、ナハラ司祭は厳かな声音で告げた。
「これが、あなた方が探している“器”です」
 その言葉にシャナさんが首をかしげる。
「“器”は……その二つでひとつなのか?」
「……いいえ」
 ナハラ司祭は少しためらいがちに首を振った。……“いいえ”ということは、片方は“器”じゃないということかな?
 僕と同じ考えに行き着いたヴェッタさんは、ナハラ司祭に向かってこう言った。
「どちらが“器”なのですか?そして、もう片方の宝玉は一体なんです?」
 ちなみにヴェッタさんは、昨日のうちからミーナさんから“イーブル”や僕らがここに来た目的、そして怪盗“D”の予告状に関して話を聞いておいたという。質問に対してナハラ司祭は。
「……透明な宝玉が“器”です。そしてもう一方は――“命の宝玉”と呼ばれるものです」
『命の宝玉??』
 僕らは全員で首をかしげた。残念ながらそんな代物は聞いたことがない。
 しかし、ナハラ司祭はまるで僕らのそんな反応は予想済みだという風な表情だった。そして……僕らにとっては衝撃的な一言を放つ。
「その“命の宝玉”は……そうですね、あなたたちにはこう言った方が分かりやすいですか? ――“対価のオーブ”……と」

ものかき ( 2014/03/24(月) 13:34 )