へっぽこポケモン探検記




















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第五章 “眠りの山郷”編
第四十七話 目覚めたらそこは
 ――“器”の回収は初っぱなからいきなり波瀾万丈。道に迷ったかと思ったら、ムンナの大群に“さいみんじゅつ”をかけられた……! 僕たちいったいどうなっちゃうのぉ!?





 ……。
 ん……ふぁああ……。あれ、僕ってどうしちゃったんだっけ?
 ……ああ、そうか。確かムンナの大群に“さいみんじゅつ”かけられて……。
 僕はゆっくりと目を開けた。天井は土くれのような色をしていて、地面と接触している背中はひんやりと冷たい。
 寝ぼけ眼な僕は寝起きの余韻に浸ることにした。しばらくこのままでいよう――。
「――おい、どういうことだよ!?」
 ビクゥッ!?
 ドスの効いた声がいきなり僕の鼓膜を切れそうなほど振動させた! その声量といったら、寝起きな僕の全神経をもびくりと震えさせる。
 だ、誰ッ!? 僕はバッと起き上がり、ミネズミよろしく辺りをキョロキョロと見回した。
 その部屋は三方向が圧迫感のある土色の壁になっていて、僕から見て正面には……鉄格子? がはめられていた。
 あれ……ここって……牢屋……?
 なんで? どゆこと?
 僕の頭に疑問符が飛び交っていると、さっきの叫び声とは違う声が。
「耳元で叫ぶな……」
「あん? お前この部隊のリーダーだろうが! なんでこんなことになっていやがる!? 説明しろチキン!」
「だからなお前! その呼び名やめろといってるだろう!? だったらお前は赤目野郎か!?」
「んだとゴラァッ!! レントラーの赤目を侮辱するつもりかてめぇ!」
「お前、チキンだって侮辱じゃないのか!? だったらその両目でここから出る方法を見極めろ!」
「ああそうか! チキンは侮辱罪にあたるか。んならネガティブでどうだ? お前にお似合いだろ!?」
「ふ、二人ともやめましょうよ……!」
 ……えっと。
 今僕が見ている光景をそのまま伝えると、ルテアさんとシャナさんが大人げな……ごほん、知的な言い争いをしていて、ミーナさんが恐る恐る仲裁に入ろうとしている……かな?
 寝起きの僕には少々刺激的な光景だ。
「あ、カイ起きた?」
 ふと、僕の隣で声がした。僕がその方を振り返ると、ピカチュウ特有のくりくりの目が僕を心配そうに見つめている。
「スバル……なんともない?」
「うん……寝かされただけだから」
「ここ……牢屋だよね?」
「うん……。さっきのムンナたちがここに入れたみたい」
 うーん、“ねんりき”かなにかで運んだのかな。
「で……なんであっちのお二方はご乱心なの?」
 僕はちらりとお二方――シャナさんとルテアさんを見ながら言う。いまだに彼らは口論中だ。仲裁に入るミーナさんがかわいそうに思えてくる。
「ああ……先に吹っ掛けたのはルテアなんだけどね。リーダーなのになんでこんな状況になったんだ? って……。師匠も売り言葉に買い言葉って言うか……早くここから出る方法を探さなきゃいけないのに……」
「――ああ、それなら心配ありませんよ。スバルさん」
 僕たちの会話にいきなりローゼさんが割って入った。その瞬間、スバルの表情が強張る。っていうか、この人いたんだ。
 それにしても、心配ないって……ローゼさんにはここから脱出できる何らかの方法があるってこと?
「恐らく九十七秒後には、この牢屋の格子はひしゃげてます、ええ」
「はい?」
 どうやって見積もったらそんなことになるんだ? 97秒後って……。するとローゼさんは「興味あります?」と言って僕らの方に顔を近づける。
「まあ、見ていてください。お二人の口論は次第に技の出し合いに発展していきます」
 僕らは二人の言い争いをBGMに、ローゼさんの説明を聞く。
「てめぇ、やっぱり今ここで決着をつけた方が良さそうだなぁ、ああ!?」
 ビリッ、とルテアさんの体毛が帯電した。
「いいだろう。今のお前には負ける気がしない」
 シャナさんの手首から炎が吹き出る。……ローゼさんの言う通りになってきた。
「――するとですねぇ、やっぱりミーナさんは仲裁に入らざるを得ないじゃないですか。これまで以上に」
 ローゼさんがそう言うと……?
「もう! いい加減にしてくださいよ! 今は喧嘩をしている場合じゃ……」
「――しかしですね、頭に血がのぼった二人に、今さらミーナさんの言葉が耳に入るわけがないんです、はい」
「覚悟は良いか」
「俺を誰だと思っていやがる! 来いよ!」
「――するとどうでしょう。ミーナさんの堪忍袋が切れてくる頃ですねっ」
 なんで楽しそうに言うんだこの人……。
「……あなたたち……もう怒りましたよ……ッ!」
「――おっと。さあカイ君、スバルさん。伏せた方がよろしいですよ」
 僕らは半ば技の恐怖よりミーナさんの形相の方に危機感を覚えながら地面に伏せた。

「……いい加減にしなさーーーいッ!! ――“エナジーボール”ッ!!」

「な……!」
「うおっ!?」
 ガッシャーーーンッ!!
 ミーナさんは味方相手になんの躊躇いもなく“エナジーボール”を放った! 標的にされた二人が慌てて飛び退くと、その後ろの鉄格子が被害を被った。そのまま鉄の軋む音と共に、鉄格子は牢屋から外れて派手な音をあげながら吹っ飛んだ。……このひしゃげた鉄は、もう格子として再起不能だろう。ご愁傷さまだ。
 ……でも、結果オーライとはいえ脱出できるようにはなった。
「さあ! 外に出られるようになりましたし、さっさとここから出ましょう、みなさん!」
 ミーナさんがそう激を飛ばすと、言い争いをしていた二人は……。
「決着はまた今度だ。命拾いしたな」
「その台詞そのまま返すぞ」
 ……と物騒なことを言いつつ牢屋の外へ出た。なんだかなぁ……この二人。
 それにしても……敵に回して一番怖いのはミーナさんかも……。
「カイ、私たちも行こう!」
「う、うん」
 ……まあいっか。結果的に外に出られたんだし……。僕はスバルに頷いて、彼女と一緒に牢屋の外へ飛び出した。


「ほら! きっかり九十七秒だったでしょう? って……あれっ……?」





 牢屋から外に出たのはいいんだけど……ここはどこだろう?
「みんな、またさっきのムンナたちが“さいみんじゅつ”で襲ってくるかもしれない。カゴの実を食べておくんだ」
 シャナさんがそう言いながら僕たちに向かってカゴの実を放る。先頭を走るルテアさんへの放り方がアレだったのは僕の気のせいかな?
「しかし、ここはどこなんだよ! “眠りの山郷”なのか?」
 ルテアさんが走りながら四方をキョロキョロと見回す。周りの壁には窓がついていない。ということは、ここは地下かもしれない。
「とりあえず状況を確認するにはここから出るのが手っ取り早そうですね」
 ミーナさんが声を上げた。
「ルテア、上へ続く階段を探せ!」
「わぁってるっつうの!」
 ルテアさんはシャナさんの言葉を乱暴に返すと、赤く鋭い双眸を光らせた。そしてしばらくすると……?
「――こっちだ! ……っと、あの角を曲がったらムンナたちがいるぞ、気を付けろ!」
 ルテアさんが僕らに注意を促したことで全員の緊張が高まる。僕の横にいるスバルのほっぺがビリッと帯電した。そして僕らが角を曲がるとそこには……?
「……しんにゅうしゃ」
「だっそう」
「ほかく」
 数匹のムンナが僕らを見て物騒な単語を口にしつつ攻撃体勢に入る!
「させません! “エナジーボール”!」
「“電気ショック”!」
 ミーナさんとスバルが同時に放った技がムンナたちにクリーンヒット! 体力がありそうに見えるムンナだけど、やっぱりこの二人の技を受けては立っていられないようだ。
「しんにゅうしゃって……やっぱり“侵す”方のしんにゅうしゃですよねぇ」
 ……ローゼさんの言葉は無視しよう……。
「いいぞ、このまま一気に――」
 ルテアさんが嬉々とした表情で僕らに叫んだ……その時――。
「――“サイコキネシス”」
 僕らは、突然見えない力に動きを封じられた。
「なっ……!」
「くっ」
 六匹全員、何者かの“サイコキネシス”に捕らわれてた! 脱出を試みるが……っ……なんて力だ……!
 キリキリと締め付けられるような痛みに、僕は意識が飛びそうになる……! まって! 僕は格闘タイプなんだよ!? あ、シャナさんもだけど。
「……くっそ……! 誰だ!?」
 ルテアさんが正面に向かって鋭く叫ぶ、すると……?
「――あなたたち、ここへいったい何をしに来たのです!?」
 鋭い叫び声と共に、僕らの目の前にある一匹のポケモンが姿を現した。
 容姿はムンナに似ているかもしれない。ピンクと薄紫の丸っこい体、体の先からなんだかピンクの煙がモクモクと上がっているけど、これは体の一部?
 僕がそんなことを考えていると、そのポケモンは鋭く声をあげる。
「私はムシャーナ。この“眠りの山郷”を守護する者。ここへの侵入は、何人たりとも許しません」
「や、やっぱりここは“眠りの山郷”なんだ……!」
 スバルが苦しそうにしながらもそう呟いた。それに続いてシャナさんは“サイコキネシス”の苦しみに耐えながら叫ぶ。
「ま、待ってくれっ……! 俺たちは“器”の回収に来ただけで……」
「なんですって……!?」
「う゛わ!」
「ぐぅっ!?」
 待って待って待って! なんで“サイコキネシス”の出力を強めるの!? タイプ相性が悪い僕とシャナさんだけが呻き声を漏らした。
「……あなたたちは……やはり“器”を狙う怪盗ですね……! 許しません!」
 かっ……?

『――怪盗ッ!?』

 全員の声ががきれいに重なる。か、怪盗って……僕らが!? 何をどうしたらそんな誤解が!?
「……くっ……聞いてないぞアリシアさん……ッ! 何がどうなっているんだここは……!?」
「――アリシア?」
 フッ。
 うわぁっ!?
 シャナさんの言葉を聞いた瞬間、いきなりムシャーナは“サイコキネシス”を解除した。空中で締め付けられていた僕らは重力で地面に下ろされる。その際に僕は尻餅をついた。痛い……!
 ふう……死ぬかと思ったよ……。
 一方ムシャーナの方はさっきの態度とはうって変わって、なぜか狼狽したような口調になる。
「ま、まさかアリシアとは……あのクレセリアのアリシア様ですか……!?」
 アリシア……様?
 僕らはお互いに顔を見合わせて首をかしげた。アリシアさんは“様”付けされるようなキャラじゃないと思うけどなぁ。
 しかし、いつまでも黙っているわけにはいかないので、ミーナさんがみんなを代表する形でムシャーナに言う。
「ええ。間違いなくアリシアさんはクレセリアですよ? 私たち、彼女のお願いでここに来ましたから」
「……な、なんですって……!? あ、アリシア様のお願い……!?」
 なんだろう、ムシャーナの反応が面白いほどの狼狽ぶりなんだけど……?アリシアさんって……このムシャーナにとってどんな存在なの?
 そこんとこ説明不足だよアリシアさん……!





 一方その頃ギルドでは……?
「くしゅんっ! ……風邪……でも引いたのでしょうか……?」
 アリシアはその日、一日中くしゃみが止まらなかったと言う。

ものかき ( 2014/03/21(金) 12:28 )