“イーブル”――動き出した四本柱
――連盟と“イーブル”との攻防の火蓋が切って落とされようとしている。来(きた)る戦闘に向け様々な対策を練る連盟側だが、熾烈化するであろうバトルに備えていたのは、彼らだけではなかった……。
★
薄暗い広場のような場所にいくつかの席が用意されている。その数は、五。
広場――“イーブル”本拠地の一角であるこの部屋におかれたその五つの席の中心とも言える席には、すでにあるポケモンが腰かけていた。しかし、やはり薄暗く種族がなんなのかはわからない。と、その時。
「――“フラッシュ”」
掛け声と共に部屋の中心に光の球が撃ち込まれた。すると、薄暗かった部屋が一気に明るくなる。姿があらわになったポケモンが顔をしかめた。そして“フラッシュ”を撃ち込んだポケモンをにらむ。
黄緑色のゼリーのようなものに包まれた体に、異様に長い腕、目が真っ黒なポケモン――ランクルスだ。
「ふわぁああ……。なんでボスはいちいちここを薄暗くするんだわさ? 喋りにくくて叶わないだわさ……。ふわぁああ……ねむ……」
ランクルスは“ボス”と呼んだ相手にそういった。仮にもボスというからには地位が上なのだろうが、そんなことはお構いなしな態度のようだ。ランクルスは残り四つの席のひとつに腰かけて……一瞬で寝た。むにゃむにゃと寝言が数秒後に聞こえてくる始末である。
「――あぁら、まったくボスの前でいい態度ですわね……」
ランクルスをあきれながら見ていたボスの耳にまた別の声が響く。ねっとりとしたメスの声だ。
緑色の長い胴体、神秘的な模様の尻尾、威圧するような赤く鋭い目が特徴のポケモン――ジャローダだ。
「ボスは明るい場所がお好きではないはずですのに……まったく、場をわきまえないゼリーは……」
「聞こえてるだわさ、この蛇」
ジャローダの言葉に突っ伏していたランクルスがすかさず言い放つ。するとジャローダは種族特有の長い胴体をのけぞらせた。
「キィイーー!! 何が蛇ですって!? ゼリーに言われたくありませんわ!」
「よく言うだわさ。あんたが蛇じゃなかったら何だわさ?」
「キィイーー! ボス! 今日こそこの生意気なゼリーをどうにかすべきではありませんの!?」
いきなり話を振られたボスは「……私を巻き込むな」と小声で返した。
「――グヘヘへ……。今日もやってるね……」
二人の口論がヒートアップしそうなところに、三人目の声が響く。
「来ましたわね……ド変態」
ジャローダが完全に相手を見下して呟いた。
異臭が漂う体の色は灰色を基調としたヘドロのような色、様々なガラクタのようなもので出来た腕……。ダストダスである。
「グヘヘへ、ぼくちんへの扱いが酷くない? あ、でもぉ、君の暴言ならぼくちんは大歓迎だなぁ……グヘへ」
「黙らないとボコボコにしますわよ」
ジャローダはダストダスに向かって“つるのムチ”を構えつついい放つ。
「おお怖っ」
「――騒がしいな」
ダストダスがそういった直後に、最後の一匹であろう声が響いた。
「あら、ずいぶんと早いご登場ですわね」
ジャローダが皮肉か冷やかしのつもりで言う。しかし、その言葉を受けたポケモンは、別段反応することなく最後の空席に腰かけた。
白く長い四肢、青いツノに凛とした目――エルレイドだ。
「遅れたくせに態度がよろしいんじゃありませんの?」
「……」
エルレイドは沈黙を貫き通した。ジャローダはもちろん「キィイーー!」と唸ろうとしたが、その前にボスが声を上げる。
「四本柱の諸君、よく来てくれた」
「ねぇ? ボスが僕らを召集したってことは、そろそろ僕らの出番だわさ?」
ランクルスが四匹を代表する形で言う。……もちろん眠そうに。
「グヘへ、やっぱり部下は役立たずだったねぇ……」
「あたくしたちなら、必ずやボスのお役に立って見せますわ」
ランクルスに続き、ダストダス、ジャローダが声をあげる。ボスは小さく頷いておもむろに口を開く。
「連盟の方で“器”を回収する動きが出ている。“器”を回収されると言うことは、同時に“アレ”を回収される危険性がある」
そこまで言うと、ボスはジャローダ、エルレイドに視線を移した。
「二人に“アレ”の回収、そして“器”の破壊を命じる」
「わかりましたわ」
「……了解」
「ねぇ? 僕らは出番なしだわさ?」
「グヘへ、せっかく敵をいたぶれるチャンスだったのに……グヘヘ……」
バシィン!
「グヘェ!?」
なぜかジャローダの“つるのムチ”がダストダスに炸裂した。
「グへ!? なんだい!?」
「あたくしの前……もといボスの前で気違いな発言はやめなさい!」
「“つるのムチ”を振るう君もかわいいなぁ? グヘヘへ!」
「……なっ……!」
ジャローダの額に縦線が増えていく。そして……?
「――こんの変態ッ! “リーフストーム”ッ!!」
「グヘェェエエエ!?」
ジャローダの放った“リーフストーム”がダストダスに炸裂した。直撃を食らったダストダスは、壁を突き破り外に飛んでいった。
「あ、星になっただわさ……」
そんなダストダスを見たランクルスは、そういった直後に寝息をたてた。どうやら、これがお決まりの光景のようである。
★
四人全員が広場から去り、少したった後――。
エルレイドはひとり、席にて呟いた。
「……もうすぐ、だ。もうすぐ俺は、お前と決着をつける――」