カイ先生に教わる“英雄伝説”
ふう……。
なんか中途半端なところで切っちゃったね。いや、なんであの人が助っ人として来たかはちゃんとあとで説明するよ? とりあえず今は隅に置いておくととして……。
ねぇ、カゴ茶のおかわりくれない? ……ん? ……うんそう、熱いやつね。このまましゃべってたら眠くなって脈絡のない言葉を発しそうだから。
――さて、本来ならこれから“満月のオーブ”の回収作業に入るところから話さなきゃいけないんだけど、その前にひとつ話をしなきゃならないんだ。
ちょっと前に僕らがギルド案内をしてもらったのは知ってるよね?そう、ムーンさんの案内で、カガネとギンジに遭っちゃったあれね。その時に“英雄伝説”という単語がチラッと出たと思う。スバルが言うに、その“英雄伝説”というのは、子供も大人も必ず一回は聞くって言う有名な伝説……というかおとぎ話……というか史実、らしい。
で、世間知らずな僕だから、“英雄伝説”のことを知らないって控えめにシャナさんに言ったんだ。すると彼は、かなり古びた絵本を僕に貸してくれた。(本人は譲ったつもりらしいけど。)……そう、“英雄伝説”の絵本ね。この絵本は、昔シャナさんが親に読み聞かせをされていたらしい。なんで今でも持っているのか聞いたら、愛着がわいてしまって捨てられなくなってしまったと答えたんだ。去り際にスバルには絶対に言うなよ、って釘を刺されちゃった。
で、部屋に戻った僕はそれを読んでみたわけ。今ここに実物があるから、ちょっと読んでみるね。
★
――昔々、この大陸がひとつの王国として栄えていた頃のお話です。
その王国は偉大な国王、王族と家臣である二つの忠実な貴族によって治められ、王国は平和そのものでした。
その王国の二つの貴族は、それぞれ“大いなる竜の石”というのを奉っていました。
一方の貴族は、蒼い炎を操る白き神竜が宿った純白の石。
もう一方の貴族は、黄金の雷を操る黒き神竜が宿った漆黒の石。
二つの貴族はそれを家宝とし、またその中に宿った神竜を神として崇めていました。
しかし――。
平和だった王国はある些細なことをきっかけに崩れ去ってしまいました。
二つの貴族が、どちらの神竜が優れているかで対立してしまったのです。
一度始まった対立は、時が経つにつれひどくなっていき、しまいにはお互いに戦争を始めてしまったのです……。
平和だったひとつの王国は、山脈を境に二つの国に分かれてしまい、お互いに傷つけ合いました。
戦争で出会う“敵”たちは、かつて共に戦った同志たちでした。それでも、軍のポケモンたちは戦わなくてはなりませんでした。
国民たちはお互いが戦うことに嘆き悲しみました。戦争の不安や恐怖に苦しみました。
しかし戦争は、いつまで経っても決着がつきませんでした。お互いの軍はだんだん数を減らしていき、しまいには戦うことすらできなくなったのです。
戦うことができなくなった二つの国は、違う方法で相手に勝とうと考えました。その方法とは――。
――願いを叶えるという伝説の秘宝を使うことです。
この大陸のどこかに眠ると言われる秘宝を使って、相手を負かせてしまおうと両者は考えたのです。
その秘宝は正確な名前が知られていませんが、ポケモンたちはそれを“対価のオーブ”と呼びました。なぜそんな名前がついたのか。それは“対価のオーブ”が、『願いを叶えるためには、それに見合った“対価”を払わなければならなかった』からです。
国を負かすという願いには、大きな“対価”が必要でした。しかし、二つの国は“対価のオーブ”を探し続けました。
どんな犠牲を払っても、自分の神竜の方が優れているとわからせたかった……。いえ、もうすでに両者は、相手に勝ちさえできれば他はどうでもよかったのです。軍が傷ついても、国民が疲弊しても。
“対価のオーブ”の場所がわかり、それを奪い合うのに躍起になった両国は、戦争の時よりさらに激しくお互いを傷つけ合いました。
そして、お互いは“対価のオーブ”が眠る場所にて決着をつけるために――神竜を目覚めさせました。
復活した神竜は、国のためにぶつかり合おうとしました。
その時です。
神竜がぶつかり合う寸前、その場にまばゆい光と共に、ある一匹のポケモンが姿を現しました。そのポケモンは、不思議な力をたたえながら、神竜たちをあっという間に鎮めました。
驚いている両国の王に、そのポケモンは語ります。
『――見よ、二つの国のありさまを!どちらかが優れているかという……優れていたいかという自分勝手な欲望で、一つの国は引き裂かれ、国民は苦しんでいる!これが、あなたたちの願ったことか。そうまでして叶えたい願いなのか!』
……その言葉に、両者は我に返りました。今までやって来たことは、自分達の“欲望”でしかないことに、やっと気づいたのです。
二つの国は、争いをやめました。今までの過ちを悔やみました。
不思議な力を持ったポケモンは、もうこんなことが二度と起こらないように“対価のオーブ”を壊す、と言って姿を消しました。
その後、そのポケモンの姿を見たものはいません。
両国は、そのポケモンに感謝の意を示しました。そして、国はそのポケモンを戦争を止めた“英雄”と呼ぶようになりました。
その後“対価のオーブ”は誰も見ていないと言います。“英雄”が壊したのか、そうではないのか、知る術はもうありません。
国を救った“英雄”は、今でもポケモンたちの間で語り継がれています。
★
まずこれを読んで思ったのは……。
――これ、本当に絵本なの?
“疲弊”とか、“対価”とか“犠牲”とか……。子供の絵本で使われる単語じゃないでしょ!
……まあ、それは置いといて。この本はちょっとばかし曖昧なところが多かった。(絵本の曖昧さを追求し始めたら、それこそキリがないけどね。)
“英雄”や“対価のオーブ”はどうなったのか? それ以前に、“英雄”と呼ばれたポケモンはいったい誰だったのか?
まあ、実際にわからないものはわからないよね。
この“英雄伝説”は絵本だったけど、他に本格的な小説や資料もあるんだって。(ちなみにシャナさんやラゴンさんは小説の方を読んだらしい。なんと十巻もあるぶっとい本全部をね!)
まあでも、ひとつだけ言えることがある。
この“英雄伝説”は、確実に過去に起きた事実だってことだ。このギルドの建物自体が、両国が栄えていた時代の要塞だったみたい。スバルが悪趣味って言ってたけど、当たり前だ。ビクティニのギルドは、要塞だったこの建物をウィントさんの祖先――インビクタ家がギルドにしちゃったらしいから。(ちなみにインビクタ家は“英雄伝説”の頃からあった家系らしい。)
その他にも、“英雄伝説”が史実だったってことを裏付ける証拠があるらしい。
……え?
この“英雄伝説”は物語の内容と関係ないんじゃないかって?
うーん。そんなこと言わないで頭の隅に置いておいてよ。何でこの話をしたかは後でわかるだろうからさ。
ふう。
まずいな、カゴ茶飲んでるのに睡魔が襲ってくる……。
ねぇ、仮眠取っていい? 数時間したら起こしてよ。その後で続きを話すからさぁ。うん。布団借りるね。
……じゃあおやすみ、後でね。