へっぽこポケモン探検記




















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第四章 “ギルド”編
第四十二話 バトル!――VS“ヤンキーズ” 大将戦  前編
 ――僕ってどうなった? ……え? ギンジの“かわらわり”を受けて倒れたって? 




「……うーん……」
 頭が痛いー……!
 僕は頭を抱えながら目を覚ました。すると、僕の目の前にはスバルとショウさんの顔があった。
「カイ! 大丈夫……!?」
「……僕、どうなった?」
 どうやら僕はベンチに寝かされていたようだ。上半身を起こしながらそう聞くと、隣にいたショウさんがそっけなく答える。
「負けたんだよ。“かわらわり”を受けて一発KO」
「……は、はぁ……。そうですか」
 ま、負けたんだ、僕。当たり前か……。
「その様子じゃ心配ないみたいだな」
 ショウさんはそう言うと早々とベンチに姿勢を正した。
「さあ今から先輩のバトルだぞー! 頑張ってくださいせんぱーいッ!」
 ……態度がころりと変わったね、ショウさん……。
 僕がガンガンする頭を抱えながら横を見てみると、スバルもバトルフィールドに向かって叫び声を上げていた。
「師匠ーッ! 負けたら許しませんからねーッ!」
 シャナさんはすでにバトルフィールドにスタンバイしていた。相手側の大将はやはりサスケさんだ。両者がフィールドに対峙している。
 シャナさんはスバルの叫びを受けるとフクザツな表情でスバルの方を振り返った。多分、『何師弟逆転したみたいなこと叫んでるんだ』という意味だろうなぁ。
 観客席は先程から声援で沸き上がっていた。ルテアさんを筆頭に、“爆炎”として名を馳せるシャナさんを応援する者。もう一方はそれなりに有名らしいダイヤモンドランクの“ヤンキーズ”のリーダー・サスケさんを応援する者。公式戦ではないのにもかかわらず、まるで頂上決戦を見ているようだ。
「お手柔らかに頼むぜぇ」
「こちらこそ」
 二人がにこやかに(?)挨拶を交わしたところで、スバルが横にいるショウさんに話しかけた。
「ねぇショウさん? “ヤンキーズ”って有名なんですか?」
「ん? ……まぁ、ダイヤモンドランクっていうのもあるし、それなりに……。でも、リーダーのサスケはダイヤモンドランクの器じゃない。個人名はかなり有名だ、“マスターランクへの期待の新鋭”ってね」
「「へぇ」」
 僕とスバルは同時に声をあげた。シャナさん大丈夫かなぁ……。彼は五年の間バトルしてなかったし……。
 地下一階のボルテージがマックスになったところで、(僕と戦って無傷なのもあり)ギンジさんがコイントスを行った。
 先攻は――サスケさん。
「バトル開始っす」
 すると、サスケさんは特性である“いかく”を発動したのか、鋭い視線をシャナさんに飛ばした。シャナさんが一歩下がる。

「いくぜぇ――“すなあらし”!」





 ビュオッ!
 サスケさんの詠唱でバトルフィールドは一瞬にして砂塵に包まれた。
 砂嵐はベンチや観客席には来ていないけど、僕たちからじゃバトルの様子がわからなくなってしまった。ど、どうしょうこれ……。砂嵐が収まったらもう決着がついていたりして……。
「ルテアぁ! 中の様子見える!?」
 スバルがベンチから観客席に駆け寄ってルテアさんに叫んだ。すると彼は軽やかな跳躍でベンチの僕のとなりに降り立つ。お見事。横にいたショウさんとムーンさんがかなりビックリしていた。
「よっしゃ、俺が見てやるよ」
 レントラーの赤い瞳は、隔ての向こう側や隠れた物まで見透かせると言う。
「ちゃんと実況してね」
 スバルがハラハラしながら言った。
「任せとけって。お、どうやら展開が動きそうだぜ」





 吹き荒れる砂嵐にシャナは思わず目を細めた。目を閉じることはできない。そんなことをしては隙を作ってしまうからだ。
「さあ、あんさんよ……ショータイムと行こうじゃねぇか」
 どこからかサスケの低い――それはもう、幼い子なら一発で泣いてしまうようなドスの聞いた声が聞こえた。そのとき。
 ヒュオ……。
 いきなりシャナの視界が晴れた。彼は状況を確認するために目を開いて構えをとる。
「砂嵐が……晴れた? いや……これは……」
 シャナの周囲の視界は晴れたが、砂嵐自体が晴れたわけではなかった。
 サスケは砂嵐を、まるで台風の目のようにシャナを中心とする周囲数十メートルを無風状態にしていた。その外は依然としてトルネードのように砂塵が吹き荒れている。サスケの姿は砂嵐に隠れて確認することができない。
「……どこにいる……?」
「ここだぜぇ」
「!」
 背後から声が聞こえて、シャナは瞬時に振り返りった。すると、ちょうどサスケが砂塵の中に消えるところだった。
「“火炎放射”!」
 シャナが放った技はすんでのところで間に合わなかった。サスケは瞬時に砂塵の中に消える。
「闇雲に攻撃したって当たりゃあしねぇぜ……」
 再びサスケの声が響く。今度はシャナの斜め上だった。シャナは手首から炎をだしさらに警戒を強める。そして……。
「“つじぎり”!」
 サスケが叫んだと同時にシャナは声のした方に身構える。しかし――。
「ぐぁぁ!?」
 “つじぎり”は、シャナの背後から訪れた!
 背中から直撃を食らった彼は、痛みにうめきながら膝をついた。
 ――なぜ声のした方の反対から技が来たんだ!?
 シャナは嫌な悪寒を感じながら必死に考えを巡らせる。
「焦ってるな、あんさんよぉ。これが俺の戦法だ。……さあ、“爆炎”の力を俺に見せてみろや!」





「なかなか苦戦してるみてぇだな、シャナの奴」
「ルテア! 師匠はどうなってるの!?」
「いててて! お前尻尾を引っ張るなッ!」
 先程からルテアさんが実況をしてくれてるんだけど、正直言って全く状況を理解できない。そのせいか、スバルはルテアさんの尻尾を思いっきり引っ張っている。やりすぎだよ……!
「どうやら相手側はすでに技を詰んで作戦を発動させているみたいだ」
『えぇええ!?』
僕、スバル、ムーンさん、ショウさんが同時に叫んだ。それってシャナさんが押されてるってこと!?
「ケッ! 出たぜ、兄貴の必殺コンボ!」
「姿を隠し相手を狙い打つっす! その名も――“砂漠の狙撃(デザートスナイプ)”!!」
 復活したカガネとギンジが向こうのベンチから高らかに叫んだ。
 “砂漠の狙撃(デザートスナイプ)”!? 何、そのおっかなそうな技は!?
「あー! 思い出したなのです! あのひと、“デザートスナイパー”っていう通り名を持ってたです!!」
 ムーンさんが目を見開いて(エネコだから目の大きさ全く変わんないけど)叫んだ。
「くそっ、あいつダイヤモンドランクとか言っておきながら、実力はシャナと互角なんじゃないのか!? それにシャナの奴には五年のブランクがある。倒されなきゃいいんだがな……」
 ルテアさんが顔を歪ませて呟いた。そこにすかさずスバルが食って掛かる。
「師匠がそんな簡単に負けるわけがないッ! 絶対にそのなんとかかんとかも攻略するに決まってるよっ!!」
砂漠の狙撃(デザートスナイプ)ね」
 ショウさんが律儀に訂正した。





 場所は変わりギルド二階、親方(代理)の執務室。
 キュウコンのリオナは、たまった書類をラゴンに届けに来ていた。
「いつもすまないな」
「いつものことですから」
 リオナはラゴンのお礼に、自分はさも当然のことをしたという風に答えた。「わたしはこれで失礼します」といって執務室から出ようとする。ラゴンは、そんなリオナの背中を見てニヤリとした笑みを浮かべた。
「そう言えばリオナ、いま地下でシャナがバトルをしているらしいが?」
 ピタッ。リオナは歩みを止めた。
「……なぜ私にそれを伝えるのですか?」
「行ってやらないのか?」
「私が行く必要はあるんですか?」
「いいや? 興味で聞いてるだけだが」
「……私はあなたから受け取った書類を片付けなくてはなりませんから」
「おっと、それは失礼」
 ラゴンは笑いを必死にこらえながら去っていくリオナを見送った。
「……まったく、素直じゃないな。本当は気になってしかたがないくせに」





「“爆炎”の力を俺に見せてみろや!!」
 サスケはそう叫んだと同時に、再び“つじぎり”が声とは別の場所から飛んできた。シャナは後ろに飛び退きそれを交わす。しかし、反撃しようにも相手の姿が見えず、予測もできないことには相手にダメージを与えられない。だかといって技の無駄撃ちは避けたいところだった。
 シャナは考えを必死に巡らせた。なぜ声とは別の場所から“つじぎり”が迫ってくるのか? 砂嵐のなかで何が起きているのか?
 一度は台風の目から上に跳躍して逃げることも考えたが、ここ以外に無風地帯は存在しないので逃げ場がない。
「“つじぎり”!」
「“炎のパンチ”!」
 三発目の“つじぎり”は、当たる瞬間に“炎のパンチ”で相殺した。そしてシャナは、“つじぎり”を打つために一瞬だけ顔を出したサスケに向かって技を放つ。
「“火炎放射”!」
 シュン!
「なにっ……!?」
 サスケは――いや、サスケだと思っていたものは、シャナの火炎放射がヒットしたと同時に……消えた。
「消えた……!?」
 ――なるほど、そういうことか!
「読めたぞ……このコンボ技の仕組みが!!」





「そういうことかッ! わかったぜッ!」
 うわあっ!
 実況を交えながらバトルの様子を確認していたルテアさんは、急に閃いたように叫んだ。び、びっくりした……!
「わかったって、なにが!?」
 スバルが興味津々にたずねる。
「あのコンボ技は、砂嵐の中に標的を閉じ込めて、相手が予測できない場所から攻撃するんだ。その時にサスケは“かげぶんしん”を使っているに違いない」
『“かげぶんしん”?』
 僕らは全員で大合唱した。“かげぶんしん”なんて使うタイミングがあるの?
「砂嵐のなかで高速で動き分身を作り出すことで、技を無差別な方向から放つことができるようになる!」





「声がした場所とは別の場所から技が放たれたのは、喋った後に“かげぶんしん”を使い高速で移動、分身に紛れて技を出したからだ」
 シャナは砂嵐が吹き荒れるなか、外でルテアが説明をするのと同じタイミングでサスケに“砂漠の狙撃(デザートスナイプ)”の種明かしをしていた。
「……見事だぜ、あんさん。こいつを見破ったのはあんさんが初めてだ……だが」
 シャナが説明をしている間沈黙を貫き通していたサスケは、静かに言った。
「……俺の“砂漠の狙撃(デザートスナイプ)”のからくりを見破ったからといって、今のあんさんにそれを防ぐことができるのか?」
 サスケはさらに続ける。
「五年前のあんさんの強さはこんなものじゃなかっただろう。なぁ……? もっと俺にあんさんの強さを見せてくれやッ!」
「……!」
シャナの目付きが変わった。サスケは再び砂嵐の中に消える。そして――。

「――“つじぎり”ッ!!」


ものかき ( 2014/03/13(木) 12:45 )