第四十一話 バトル!――VS“ヤンキーズ” 先鋒・中堅戦
――一度はスバルが有利かと思われた先鋒戦。しかし、ドクロッグのカガネの毒を食らってしまった彼女は……?
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「先輩。自分、救急箱とモモンの実を準備してきます」
ショウさんは、完全にスバルの敗北を確信したような口調でベンチから降りた。ねぇ、まだスバルは大丈夫だよね!? そうだと信じたい……!!
「確か“毒”って、ちょっとずつダメージが蓄積される状態異常ですなのよね?」
ムーンさんが心配そうに言う。毒、ねぇ……。するとシャナさんは腕を組んで唸る。
「“毒”の状態異常は口での説明より何倍もきついぞ。意識が朦朧として体が思うように動かなくなる。医療班のポケモンも、状態異常の中で一番細心の注意を払うものだといっていた。こういう形式的なバトルでも……最悪死に至る場合がある」
「「えぇ!?」」
し、しんじゃうの!? スバルが危ないじゃないかッ!!
「ここからスバルは時間との勝負だ。もし長引いたら……その時は俺が止める」
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はぁ、はぁ……。まったく、冗談じゃない……。毒なんか食らうなんて……!ヘドロの電気分解なんて、聞いてない……!
「ケッ! 俺に楯突いたらこうなるんだぜ! ジワジワと苦しませてやる。まぁ、謝ったら降参させてやってもいいぜぇ」
「だ、誰が……!」
私は嫌らしくそう言ってくるカガネに反論しようと思ったけど……。まずい……目の前のこいつが二重に見える。
ここからは私は時間との勝負。
恐らく相手は毒を負って隙だらけの私に一瞬で畳み掛けてくるか、逆にジワジワと毒が回るのを待つかのどちらかだ。
でも、今の台詞からしてこいつは後者の戦法を選ぶはず。イヤらしいから。
こんな体と視界じゃ、私は奴に電撃の狙い撃ちすら出来ない。どうしたものか……。
「おらぁ、さっきまでの威勢はどうしたぁ!? “どくづき”!」
「……くっ……」
私は毒のにじんだ腕を、かろうじて避ける。試しに一発電撃を放つけど……やっぱり当たらない。
「ケッ! どこを狙ってやがる!?」
「はぁ、はぁ……!!」
こうなったら、狙い撃ちは諦めるしかない。もっと威力がでかくて広範囲を攻撃できる方法が無いかな……?
いやいや、そんな都合のいい方法が――。
――あるじゃん。
そうか、このバトルフィールドに広がったヘドロ、私の電撃技、そしてさっきの師匠の言葉……。なるほどね……。見えたよ、この勝負に勝つ方法が!!
「“電気ショック”!」
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スバルはカガネに向かって“電気ショック”を放った。さっき簡単に避けられちゃったのに、またやるつもりなの!?
「ケッ! だから今のお前には技を当てられねぇっつーの!」
カガネはスバルの電撃をひょい、と簡単に避ける。外れた電撃は地面に当たった。
スバル……!!
「スバルは毒の影響で判断が狂ってるなのですか?」
ムーンさんも心配そうに言ってくる。スバル、早くしないと力尽きちゃうよぅ……!!
「“電気ショック”!」
スバルは依然として“電気ショック”をカガネに放ち続けている。今までに五発ぐらい撃ったけど、ひとつも当たっていない。外した電撃は、いずれも地面に当たり、時々ヘドロが霧……というか粉状になって辺りに舞う。
「おらおらぁ! そろそろ苦しいんじゃねえかぁ!? 降参するのが身のためだぜぇ! “クロスポイズン”!」
「きゃあああ!」
ああ! “クロスポイズン”がスバルにヒットしちゃった……! ど、どどどどうしよう……! このままじゃ……!
「うぐぅ……で、“電気ショック”……」
しかし、スバルはそれでも攻撃をやめる気はなかった。また電撃を放ち、やはり避けられ地面に落ちる。
「おい! なにやってんだよスバルッ! このままじゃやられちまうぞッ!」
そう叫んだのは、いつのまにか観客席から身を乗り出しているルテアさん。えぇ!? いつのまに……!
周囲の観客席は、すでに半分が埋まっていた。そんなことって……!
「ルテア、君は“爆炎”の弟子のこの攻撃を……どう思っている?」
ルテアさんの横にいたフーディンさんが静かに聞いてくる。
「そりゃあ、スバルは毒で混乱して判断力が鈍っちまってるんでしょ!」
「……なるほど、そういう見解か」
フーディンさんが興味深そうに顎を撫でた。なんだか意味深……。
「シャナさん……スバルはいったい何を……?」
僕は心配になってシャナさんを見た。するとシャナさんは……。
「恐らく、スバルの思惑に気づいているのは、この中でも数匹だけだ。……ほら、そろそろ始まるぞ」
僕はシャナさんに促され、バトルフィールドを見てみた。
先程までバトルフィールドを占めていたヘドロは、そのほとんどが粉状になった。スバルはもうふらふらで満身創痍、技の一つでも受ければ倒れてしまう!
「ケッ! これで終わりにしてやるぜ! “かわらわり”!」
「……はぁ……っ、“電光、せっ、か”……」
スバルは最後の力を振り絞り、ここにきて“電光石火”でカガネを向かえうった!? 何をする気ッ!?
と、スバルはカガネの目の前まで迫ると、いきなり……上に飛んだ!!
「ケッ! なにぃっ!?」
“電光石火”の力を受け、スバルはあの高い天井に届くんじゃないかってぐらい高く飛んだ。
「あのドクロッグ……終わったな」
そう言ったのは、シャナさんか、フーディンさんか。そして、スバルは――?
「行くよ――“十万ボルト”」
バトルフィールドに向かって、“十万ボルト”を落とした!
★
最初の異変は、“音”だった。
なんだかパチパチッ、という異様な音が、バトルフィールドを包み込む?そして……。
「――総員、伏せるのだッ!」
フーディンさんが観客席中に聞こえる大声で叫んだ。僕らは全員、本能で言う通りにした。その瞬間――!!
ドォオオオオオン!!
うわぁっ!?
観客席中に悲鳴や怒濤が轟いた!!
爆発だッ! バトルフィールドが爆発したッ!? 何でッ!? 何が起きたのッ!?
「ラングさんッ! “あまごい”をッ!」
シャナさんが僕やムーンさんの頭を覆いつつ、客席のカメックス――ラングさんにありったけの音量で叫んだ。
「まかせろ、“あまごい”!!」
ザァアアア……。大量の雨がフィールドを鎮火する。視界が晴れたフィールドには……?
「グエッ……」
完全にノックアウトしたカガネの姿があった。そしてスバルは、爆風に飛ばされてバトルフィールドの一番端にいたが、自力で戻ってきた。
「……ひ、ひょうぶありだね……わ、わたひのかち……」
スバルは完全に呂律が回らない状態でバトルフィールドにへたりこんだ。うわぁっ、スバル!?
「ショウ!! ショウはいるか!?」
「はいはい先輩ただいま参りますッ!」
シャナさんとショウさんがスバルにかけよってすぐに手当てをした。モモンの実をあげている姿が見える。ショウさんはその後カガネの手当てに入った。
観客席では、なぜか拍手とざわめきがおきた。どうやら、からくりはわからないが、一応スバルの健闘に拍手が起こったようだね。
★
「スバルッ! 大丈夫……!?」
バトルフィールドからふらふらと戻ってきたスバルの手をとって僕は言った。毒は抜けているようだが、蓄積されたダメージはでかいようだ。
「ふふっ、ちゃんと流れをつかんできたでしょ……?」
スバルが弱々しいながらも笑顔で僕に言った。僕は一番聞きたいことをスバルに訪ねる。
「スバル、いったい君は何をやったの?」
「あぁ……、カイは粉塵爆発って知ってる?」
ふ、ふんじんばくはつ……? し、知らない……!!
「空気中に一定以上の塵が集まった状態で火花とかを散らすと起こる爆発のことだよ。ほら、師匠がさっきベンチで『ヘドロが粉塵状……』とか云々いってたから……」
「さ、さすが地獄耳……」
つまりスバルは、“電気ショック”でカガネを攻撃するように見せかけて、実は地面のヘドロを電気分解とやらをして、粉塵状にさせていたんだ! それで、“電光石火”で飛んで“十万ボルト”で発火させたと……。
「スバルッ! すごいよ! そんなことを一瞬で思い付くなんて!!」
僕は今すごく感動してる!! まだ数回しか戦ったことがないのに、カガネに勝っちゃうなんて!
「ありがとう。次はカイだよ、頑張って」
「あ゛……」
わ・す・れ・て・た……!
★
「おれっちの相手はあんたっすか。せいぜい楽しませて欲しいっす」
「いえ……ご期待には添えないかと……」
うわぁっ……なに言っちゃってんだろ、僕……!
「ちょっとカイー!? なに弱気になってんのー!?」
スバルが後ろで叫ぶけど、僕にどうしろと……!
コイントスの結果、僕は先攻になった。つまりいきなりあちらが攻めてくることはない、と。
「先攻はカイ。
――バトルスタート!」
うわぁあ! 始まっちゃったよどうしよう! と、とりあえず……。
「“電光石火”っ」
僕は一応全力で走る……んだけどね。
「あんた……遅いっすね。“にらみつける”!」
ギョロッ!
ただでさえ人相が最悪なギンジが僕に向かってにらみつけてきた……!
「うへぇっ!?」
キキーッ。僕、減速。
「カイ……! なにやってんの……」
スバルが頭を抱えて呟いているのが聞こえた。
「まさか……にらまれて“電光石火”を中断するとはな」
僕には重大なことなんだけど、シャナさんは苦笑い。
「なんすかあんた、やる気あるんすか?」
だ、だって……!
「まあいいっす。“ずつき”っす!」
「ぎぃやあああ!?」
何か来た! 何か来たぁっ!? 僕は全速力で逃げた。はぁ、はぁ、息がぐるしい……!
「ちょこまかと! “ずつき”っす!」
よ、避けられないっ!? 避けるのが間に合わないっ!
「こ、“こらえる”っ!」
ゴィイイイン!
「ぎゃッ!」
僕はずつきをもろにもらった。額に星が飛んでるよ……! 足取りがふらふらする……!
「カイッ! “起死回生”だよ、“起死回生”! 一発逆転を狙って!」
スバルが僕に叫んでくるが、それ以前に、まず……!
「“起死回生”って、どう使うの!?」
「え……」
「あ……」
スバル、シャナさんの声と同時に、会場が静まり返った。え、何で静かになるの? 僕、“起死回生”のやりかたなんて知らないよ……!
「はぁ……。もういいっすね」
「はっ……!」
ギンジはいつの間にか僕の目の前に……!?
「“かわらわり”っす……」
「ヘボッ!」
僕の脳天にギンジの拳が……! 僕の意識は、どこへやら……?